健康ライフ
2018.01.26

知らぬ間にあなたも骨粗鬆症!?

~骨の老化は30代から始まっている~
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「骨粗鬆症は高齢になってからの病気」と思っていませんか。実は骨の老化は30代後半から始まっており、骨の健康度が顔の肌のハリやたるみ、全身の健康を大きく左右するそうです。いつまでも元気で若々しく過ごすために、骨を正しく理解し、骨によい生活をする「骨活こつかつ」のコツを、山王メディカルセンター 女性医療センター長の太田博明さんにお聞きしました。

骨の維持は一生の課題
骨量(※)は30代から減っていく!?

健康な生活の基本は自分の足で立って歩くことです。それには、骨と筋肉と、それらを連動させる神経系の機能が必要です。これらが衰えることで立って歩けなくなると、排せつや入浴などの基本的な日常生活も難しくなり、寝たきりとなってしまいます。日本は平均寿命世界トップクラスの長寿国ですが、晩年はロコモティブシンドロームといわれる運動器(骨や関節、筋肉)の病気や認知症により、介護を必要とする期間が男性で約9年、女性は約12.4年もあります。今や男性の4人に1人、女性の2人に1人が90歳まで生きる時代。骨や筋肉を維持することが、一生の課題となるのです。

しかし、それは決して高齢になってからの問題ではありません。骨についていえば、腰椎ようついの最大骨量は20〜44歳、大腿骨の最大骨量は18〜30歳を過ぎる頃から徐々に骨量が減っていきます。特に女性は閉経を過ぎると女性ホルモンの影響で急激に骨量が減り、骨が弱くなります。

※骨量:骨の成分であるカルシウムなどのミネラルと、コラーゲンなどのたんぱく質を合わせた量のこと

骨はホルモン分泌も担う「臓器」
全身のエイジングを左右する

骨は、毎日新陳代謝をくり返しています。破骨細胞(骨を壊す細胞)が古い骨を壊すのに4週間、壊されたところに骨芽細胞(骨をつくる細胞)が集まってきて新しい骨が出来上がるまでに約4カ月、計5カ月というサイクルで骨組織が生まれ変わり、若い人なら約2年で、高齢者でも約5年で全身の骨が入れ替わります。

近年の研究により、骨芽細胞からオステオカルシンというホルモンが出ていることも明らかになってきました。この物質が膵臓すいぞうでのインスリンの分泌を増加させて血糖値を下げる、筋肉のエネルギー効率を活発にする、記憶力や免疫力を高めるなど、全身のさまざまな機能を活性化するのではないかということが基礎実験で分かってきており、盛んに研究が進められています。これまで体を支えたり、保護したりすることが骨の主な役割と考えられてきましたが、今では骨は新陳代謝をくり返し、自らホルモンも分泌する「生きた内分泌臓器」だという捉え方に変わりつつあります。骨組織中の骨細胞が活性化すれば全身が活性化し、骨が元気な人ほど若々しく健康でいられるといっても過言ではありません。

骨折につながる「骨粗鬆症」
若い女性もメタボの男性も要注意

大切な骨の健康を損なう最大の要因が「骨粗鬆症」という、骨の強度が弱くなって骨折しやすくなる病気です。健康な骨は破骨細胞の「壊す働き」、骨芽細胞の「つくる働き」の均衡がとれていますが、骨粗鬆症になるとそのバランスが崩れ、骨の壊れる勢いが強まると、骨密度が減ってスカスカの状態になり、脆くなってしまいます。

近年、若い女性でも、無理なダイエットや運動不足などによって骨代謝が乱れて骨量が減り「骨粗鬆症予備軍群」となる人が増えています。また、男性でも生活習慣病から、骨量は低下していないのに骨質が劣化して骨粗鬆症を発症する人もいます。骨粗鬆症は高齢の女性だけの病気ではなく、全ての人にとって重要な生活習慣病でもあるのです。

骨が脆くなると、全身の骨が折れやすくなります。最も骨折が起こりやすいのは背骨(椎骨ついこつ)、次に大腿骨、手首、腕の付け根の順です。小さな骨が積み重なっている椎骨は自分の体の重みに耐えられず徐々に潰れていきます。しかし、背骨を骨折しても痛みを感じる人は3分の1程度で、骨折していることに気づかなかったという人が3分の2を占めます。
しかも、一旦骨折を起こすと、ドミノのように次々と骨折の連鎖が起こるリスクが何倍も高まります。一度の骨折を機に老化が進み、寿命にも影響を及ぼします。

骨粗鬆症を早期発見し、骨折を防ぐためにも、自治体などの骨粗鬆症検診があれば必ず受け、自分の骨量(骨密度)を確認しておきましょう。高齢になっても自分の足で歩くためには、65歳でYAM(若年成人の平均骨量との比較)80%を確保していることが目標になります。

ただし、骨密度が高くても骨折しやすい人もいますので、YAM80%以上というだけで安心はできません。骨の強度は、骨密度7割、骨質3割で表され、骨の質も問題になります。実際の診断はX線を用いた「DXA(デキサ)法」などによる正確な骨量と、骨代謝のバランスを調べる「骨代謝マーカー」で、骨質の良しあしなどを総合的に判断して行われます。骨粗鬆症と診断されたら食事や運動だけで改善することは不可能で、薬物治療が必要になります。

次のチェック表で、当てはまるさまざまなリスクに注意しながら、生活改善に取り組みましょう。

骨の健康チェックリスト 特に○のついた項目が複数当てはまる人は要注意。
  • 小柄で細身の体型である
  • 母や祖母が骨粗鬆症で骨折したことがある
  • 些細なことで骨折したことがある
  • 胃の摘出手術を受けている
  • ステロイド薬を飲んでいる
  • 過度のダイエットをしたことがある
  • 牛乳・乳製品をあまり摂らない
  • 青魚や豆腐をあまり食べない
  • お酒をたくさん飲む(日本酒1日3合以上を目安)
  • コーヒーを1日10杯以上飲む
  • タバコを吸う
  • 中学・高校時代あまり運動をしなかった
  • 運動は苦手で普段からあまり歩いていない
  • 日光に当たらない生活をしている
  • 最近、身長が2cm以上低くなった
  • 背中が丸くなってきた
  • 初潮が他の人に比べて遅かった
  • 頻繁に、あるいは長期にわたって生理不順になったことがある
  • 閉経している
  • 左右両方の卵巣摘出手術を受けている

骨の健康を守る「骨活」〜運動編

骨の健康のために一番に心がけるべきは運動です。身体活動量が多い人は骨密度が高いということも分かっています。運動の中でも、メカニカルストレスといって骨に負荷がかかるような運動をすると、骨組織中の骨細胞が衝撃を感知して骨代謝が活発になり、丈夫で強い骨がつくられます。

■お勧め運動1 かかと落とし

① 両足をそろえて立ち、かかとを上げてつま先立ちになる。
※ 不安定な場合は椅子の背などにつかまるとよい。

② 骨に衝撃を加えるように、かかとを一気にストンと落とす。

③ ①〜②を2秒に1回のペースで60回くり返す。

■お勧め運動2 ミニジャンプ

① 10cmくらいの高さの台に、つま先が少し台からはみ出るようにして立つ。

② 軽くジャンプをして床に飛び降りる。

③ ①〜②を1セットとして、1日に50セットを目安に行う。
※階段を1段ジャンプで飛び降りてもよい。

また、骨折を防ぐという意味では、骨だけでなく筋肉も関係しています。筋肉も骨と同様に30〜40代から衰えてきますので、万が一転んでも体を守れるような筋肉の強さや柔軟性、バランス感覚を養う運動も行いましょう。

■お勧め運動3 片足立ち

① テーブルや壁に手をかけ、両足をそろえてまっすぐ立つ。

② ①の姿勢をキープしたまま、片足を床から5~10cm上げ、もう片方の足に体重をかけてバランスを保つ。

③ ②の状態のまま1分間キープ。

④ ①~③の動きを反対の足で行う。

⑤ ①~④を1セットとして、1日に5~6セットを目安に行う。

骨の健康を守る「骨活」〜食事編

食事は、欠食をせず規則正しく十分な栄養をバランスよく摂ることが大前提です。若い年代から欠食が習慣になると、骨量が少なくなり、老化が早まります。特に骨をつくる成分として、以下の栄養素をしっかりと摂取しましょう。

■カルシウム

骨粗鬆症予防には1日800mg必要ですが、近年の摂取量は約500mg(女性)と、カルシウムが不足しています。今の食生活に200〜300ml程度の牛乳を加えるなど、牛乳・乳製品を積極的に摂りましょう。

■ビタミンD

カルシウムの吸収をよくするビタミンDも大切です。ビタミンDの8割は紫外線によってできるため、日焼けしすぎない程度に日光を浴びることも必要です。食べ物では肝油(あんきも)、ウナギ、鮭などの魚介類に多く含まれています。干しシイタケやキクラゲに多いといわれますが、電気乾燥で加工されたものは意外と含有量が少ないのです。不足しがちな栄養素ですから、サプリメントも利用するとよいでしょう。

■たんぱく質

材料となるたんぱく質(必須アミノ酸)が不足していると強い骨はつくれません。たんぱく質の1日の摂取量は体重1kgあたり1gが基準とされていますが、高齢になると1.2〜1.5g必要です。肉と魚をしっかり摂るようにしましょう。

■ビタミンK

カルシウムが骨に沈着するのを助け、丈夫な骨を維持するのに重要です。ビタミンKは納豆のほか、ブロッコリー、小松菜、ほうれん草などの緑黄色野菜に多く含まれます。

■n−3系脂肪酸(オメガ3)

体内でつくれない不飽和脂肪酸の中でも、n−3系脂肪酸(オメガ3)が骨密度に関係が深いと言われています。代表は青魚の魚油に多く含まれるEPA、DHAとα−リノレン酸です。α−リノレン酸は、エゴマ(シソ)油、アマニ油などの植物油に多く含まれるので、これらを料理に取り入れることをお勧めします。

骨の健康を守る「骨活」〜生活編

骨代謝は睡眠中に活発になりますので、質のよい睡眠も重要です。また、骨折につながる転倒は、夜間にトイレに行くときに起こることが比較的多く、その背景には頻尿や尿失禁などの体調が関係していることもあります。
姿勢が悪くなればバランスも悪くなり転倒しやすくなります。骨や筋肉が弱くなれば、歩く速度が遅くなったり、疲れやすくなったり、姿勢が悪くなったりしますが、こうした変化は徐々に起こるので気づきにくいのが難点です。いつまでも若く元気でいるためには、日頃からよく歩く、よい姿勢を保つなど日常生活を活発に過ごし、カラダの健康をトータルで整えていくという視点も大切でしょう。

年をとってから、いざ行動しようと思ってもなかなか難しいものですが、若い頃から習慣化していれば続けられることもあります。骨は日々生まれ変わっていますので、何歳からでも若返ることができます。今の生活が将来を変えるということを意識して、今日から「骨活」を実践しましょう。

太田 博明 山王メディカルセンター 女性医療センター長 
国際医療福祉大学臨床医学研究センター教授

1944年東京都生まれ。慶應義塾大学医学部卒業。医学博士。1995年に慶應義塾大学医学部産婦人科助教授、2000年に東京女子医科大学産婦人科主任教授、2010年に国際医療福祉大学臨床医学研究センター教授、山王メディカルセンター・女性医療センター長となる。日本骨粗鬆症学会前理事長、日本抗加齢医学会理事。2015年には日本骨粗鬆症学会学会賞受賞。複数疾患の専門医、認定医、教育医など多数の資格を持ち、特に女性の健康長寿をめざす医療の第一人者として、よりよく生きるための医療を実践している。『骨は若返る!――骨粗しょう症は防げる!治る!』『「見た目」が若くなる女性のカラダの医学』(ともにさくら舎)など著書多数。

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