健康ライフ
2018.02.23

花粉症は治せる!

~根本から改善する「舌下免疫療法ぜっかめんえきりょうほう」の効果は~
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2月から4月はスギ花粉シーズンの真っ最中。花粉症の症状に悩まされている人は多いのではないでしょうか? そこで、花粉症治療の第一人者である日本医科大学付属病院耳鼻咽喉科・頭頸部外科部長の大久保公裕さんに、花粉症の正しい知識や最新治療について教えていただきました。

体内の免疫細胞が
花粉のアレルゲンと闘う

花粉症は、スギやヒノキなどの花粉が原因で生じる季節性アレルギー性鼻炎です。花粉症を引き起こす植物は約60種類あるといわれていますが、花粉症の約70%を占めるのはスギ花粉によるものだと推察されています。

というのも、日本はスギ林の面積が大きく、国土の約12%を占めているからです。スギ花粉のサイズは極めて小さく、強い風が吹けば数十km先まで飛びます。そのため、スギ花粉の飛散量がピークとなる2月から4月にかけては、空気とともにたくさんのスギ花粉を吸い込むことになってしまうのです。

呼吸によって鼻に吸い込まれた花粉は、鼻の奥にある鼻腔びくうの粘膜に付着します。付着した花粉の多くは奥の咽喉の方へと運び出され、たんなどと一緒に排せつされます。しかし、花粉の量が多くなり、運び出すのが遅れると、その粘膜に停滞した花粉がアレルギーの原因となる物質(アレルゲン)を粘膜に取り込ませるのです。

スギ花粉そのものは体にとって害はないのですが、鼻の粘膜から浸透したスギ花粉のアレルゲンは、外界の異物を認識する機能を持つ細胞(マクロファージ)によって、「排除すべき外敵」とみなされ、敵対するIgE抗体を作らせるよう指示します。さらにスギ花粉が多く飛び始めると、体内のさまざまな免疫細胞が花粉のアレルゲンと闘うための準備を始めます。

アレルギー反応を仲介するIgE抗体の血中濃度が高まるのをはじめ、花粉が付着した粘膜のIgEのある細胞からはヒスタミンなどの化学伝達物質が放出されます。その結果、花粉を洗い流そうと鼻水がたくさん出るといった、さまざまなアレルギー症状が引き起こされるのです。

発症の要因としては、喘息ぜんそくやアトピーなどのアレルギーを抱えていたり、両親のどちらかが花粉症などの体質や遺伝もありますが、そのような要因がある人が必ず花粉症を引き起こすわけではなく、反対にそうした要因がなくても花粉症を発症する人も多くいます。どういう人が花粉症になりやすいのか、ということはまだはっきりと分かっていません。

花粉症かも?と
思ったらこれを!

花粉症の主な症状は、前述の鼻水のほか、くしゃみ、鼻づまり、目のかゆみ、のどのイガイガ、口の渇き、頭痛、だるさ、微熱など多岐にわたります。風邪の初期と似た症状も多く、ある年花粉症を発症した人の中には「風邪が長引いている」と勘違いしてしまうケースも少なくありません。

「今年はとうとう花粉症にかかってしまったかも?」と気になる人は、以下の簡単なチェックを行ってみましょう。

■あなたは花粉症? 簡単診断

以上の結果はあくまでも目安の一つです。たとえ花粉症の疑いが少なくても、気になる症状がある場合はできるだけ早く耳鼻咽喉科の医師に相談し、正しい診断をしてもらうことが大切です。

口腔こうくうアレルギーの人は注意!
食べ物に反応することもある

果物や生野菜を食べた後、数分以内に唇、舌、口の中やのどにかゆみやしびれ、むくみなどが表れるのが口腔アレルギー症候群(OAS:oral allergy syndrome)です。花粉症の人は、食べ物にも反応することがあります。「交差反応」というもので、果物・生野菜が持つ成分に、花粉のアレルゲンに似た構造のものがあると起こる反応です。交差反応が報告されている果物・生野菜には、トマト、リンゴ、桃、メロン、スイカなどがあります。

花粉症が発症したら
症状を毎日記録しよう

花粉症の症状の表れ方には個人差があり、鼻づまりがひどい人もいれば、目のかゆみやのどの症状などに悩まされる人もいます。

そこで以前から広く行われてきたのが、治療薬を用いてつらい症状を和らげる対症療法です。

適切な治療を行うためには、今の自分の体の状態や花粉症の症状をしっかり把握することが不可欠です。花粉症のシーズンには、毎日下記の項目について記録する習慣をつけると、医師に相談する際に症状を伝えやすくなるのはもちろん、より効果のある治療法を見つけるための手がかりにすることができます。

■アレルギー日記のつけ方
  • 今日の天気はどうだったか、「晴れ」「くもり」「雨」などを記入する。
  • くしゃみの回数と鼻をかむ回数を記入する。くしゃみは、一度に続けて出ても1回と数える。
  • 鼻水は、かんだ回数のほか、量の多・中・少をあらかじめ書いておき、該当するものを○で囲む。
  • 鼻づまりは、重症度に応じて記入する。
  • 目のかゆみは、「なし」「我慢できる」「少し我慢できる」「我慢できない」といった自覚内容を記入する。
  • 内服薬は、朝・昼・夜など、飲んだときに記入する。
  • 外用薬は、鼻や目など、使った場合は回数を記入する。
  • 「今日の具合」は症状全体のイメージを伝えるもの。「仕事や家 事に支障はない」「あまり仕事には差し支えない」「仕事や家事 が手につかないほど苦しい」などを記入する。
  • 「その他」には、「通院した」「外出した」「通常と違った行動をした」「運動をした」など、気になったことを記入する。
  • 「今週の具合」については、1週間を通じてそれまでと比べてどうだったかを記入する。「大変良くなった」「良くなった」「少し良くなった」「変わらない」「悪くなった」「分からない」のいず れかを記入し、ほかに気づいたことがあれば自由に書き込む。
■アレルギー日記(例)

花粉症を根本から改善する
最新治療「舌下免疫療法」とは

毎年スギ花粉症の重い症状に悩まされ、この時期はいつも頭がボーッとして仕事に集中できない、外出するのも億劫おっくうで引きこもりがちになってしまうなど、仕事や日常生活に支障をきたしている人は少なくありません。命に関わる病気ではないものの、生活の質(QOL:quality of life)を低下させる要因になる……、それが花粉症がもたらす大きな問題の一つといえます。

市販の治療薬で症状が十分緩和でき、その効果に満足しているのであればもちろん大丈夫ですが、もし根本から花粉症を改善することを望むのであれば、注目したいのが2014年10月に保険適用となった「舌下免疫療法」です。

アレルギーを引き起こす原因物質であるスギ花粉のアレルゲンを体に与え続けることで、「スギ花粉は体に危険なものではない」ということを体内の免疫システムに自然に認識させ、花粉に対して過度のアレルギー反応を引き起こさせないようにする治療法です。

具体的には、スギ花粉のアレルゲンを含む薬液を舌の裏にたらして投与します。治療の主なポイントとして、以下のようなことが挙げられます。

  • スギ花粉症の症状が出る2~3ヵ月前から治療を始める
  • 1回目の投与は必ず病院で行う
  • 毎日少しずつ、決められた量を投与する
  • 2~5年ほど治療を続けて経過観察する

多くの臨床結果から安全性や効果が認められており、舌下免疫療法を受ける患者の数も年々増加し、現在は10万人近くにおよびます。

来シーズンに向けて舌下免疫療法を検討したい人は、今シーズンの花粉症が治まってきた段階で一度、医師に相談するのがお勧めです。今シーズンの症状はどうだったかきちんと説明し、舌下免疫療法を受けてみたいということを伝えましょう。なお、治療費は3割負担の場合、あくまでも目安ですが1ヵ月約2,000円、年間約24,000円になります(※)。

花粉症のシーズンが終わると、つらかった症状のことも忘れてしまいがちです。「治したい」という気持ちがあるうちに受診することで、来シーズンの治療をベストタイミングで始めることができます。

※舌下免疫療法を始める前に、必ずスギ花粉症を調べるアレルギー検査を行います(有料)。

花粉をシャットアウトする
セルフケアも忘れずに!

舌下免疫療法をはじめ、花粉症の新しい治療法が次々登場していますが、花粉症の予防・改善のためにはセルフケアも欠かせません。
花粉が体に入るのをできるだけシャットアウトするよう、以下のような基本対策を行うことをお勧めします。

  • 外出するときにはマスクやメガネ、帽子を着用する
  • 花粉が付着しやすく、払おうとしても取れにくい、毛足の長いウールのコートなどを着て出かけるのは避ける
  • 帰宅時は衣服や髪についた花粉を払ってから室内に入る
  • 花粉の飛散量が多い時期は洗濯物を外に干すのは控える

また、意外に盲点なのが室内飼いのペットです。散歩などで外に出たときに花粉が毛に付着し、そのまま室内に持ち込まれている場合があります。ペットの出入りの際にも毛についた花粉をしっかり払うようにするなど、対策を心がけましょう。

鼻水などの症状がひどい場合は、20~30℃くらいの生理食塩水(500ml程度のぬるま湯に、小さじすりきり1杯弱の食塩を溶かしたもので、薬局でも購入できます)で鼻うがいをするのも効果的です。

鼻うがいの方法は、生理食塩水をペットボトルなどの口まで注ぎ、片方の鼻の穴に当てて「あー」と声を出しながら注ぎ込みます。次にもう一方の鼻も同様に行い、その後軽く鼻をかみます。粘膜に付着した花粉をはじめ、刺激の原因となる炎症性の物質も除去することができます。

「もう毎年のことだから」などと諦めずに、花粉シーズンを快適に過ごせるよう、ご自身に適した効果的な予防や治療を行いましょう。

■マスクとメガネの効果

※大久保先生の取材を元に作成

大久保 公裕 日本医科大学付属病院耳鼻咽喉科・頭頸部外科 部長
日本医科大学大学院医学系研究科頭頸部感覚器科学分野 教授

1984年、日本医科大学医学部卒業。88年同大学大学院(耳鼻咽喉科)を修了し、89年より米国立衛生研究所(NIH)に留学。93年より日本医科大学医学部講師、准教授を経て、2010年より教授。現在は同大学耳鼻咽喉科学講座主任教授、同大学大学院医学研究科頭頸部・感覚器科学教授を兼任。舌下免疫療法の研究や開発にあたり、全国に先駆けて導入している。著書に『花粉症は治せる! 舌下免疫療法がわかる本』(日本経済新聞出版社)などがある。

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