健康ライフ
2018.10.26

マインドフルネスで集中力アップ!

~“今、この瞬間”に意識を向ける習慣を~
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「眠りが浅く、疲れが取れない」「仕事をしていても集中力が続かない」……。こうした悩みは、現代人に多い「脳の疲労」によって生じている可能性があります。これを改善する有効な対処法として近年注目されているのがマインドフルネスです。脳科学的研究でもさまざまな効果が分かってきているマインドフルネスとは何か、具体的にどのような方法で行うと良いのか、正しい知識と取り入れ方について赤坂クリニック理事長の貝谷久宣さんに伺いました。

考えすぎが脳の疲れを
引き起こしている!?

下記の項目の中で、自分に当てはまるものをチェックしてみましょう。

  • 過去の失敗や挫折、つらかったり苦しかったりした体験などを何度も繰り返し思い出す。
  • これからの仕事や老後の生活などを考えると不安でたまらなくなる。
  • 自分と他人を比べて、自分はなんてダメなのだろうなどと感じて落ち込む。
  • 仕事も家事も、同時に複数のことをこなせるよう、マルチタスクを常に心掛けているがうっかりミスも少なくない。
  • 食事中にスマートフォンを見たり、仕事のことなど食事以外の考え事をしたりすることが多い。

過去や未来のことばかり考えてネガティブな気持ちに陥る、自分と他人を比較することで自分自身を否定してしまう、忙しい日々の中で効率を優先するあまり、1つのことにしっかり集中できなくなっている…。

現代社会では、こうしたことから多くの人が知らず知らずのうちにストレスを抱え込んでいるケースが少なくありません。

過剰なストレスが慢性的に続くと、脳にさまざまな影響がおよびます。脳の中心部にある大脳辺縁系だいのうへんえんけい(※1)は「情動脳」とも言われ、喜怒哀楽などの感情や本能的欲求を感じる場所で、記憶や自律神経活動にも関与しています。大脳辺縁系が不安や緊張、怒りといったストレスを受けると自律神経のバランスが乱れ、血圧の上昇や動悸どうき、不眠、食欲の低下などが生じると考えられています。

また、ストレスは脳の表面部分にある大脳皮質前頭前野だいのうひしつぜんとうぜんや(※2/前頭前野、前頭前皮質とも言う)にも影響を及ぼします。

※1:食欲、性欲、睡眠欲、意欲などの本能や喜怒哀楽、情緒、神秘的な感覚、睡眠や夢などをつかさどり、記憶や自律神経活動に関与している。
※2:大脳皮質の約1/3を占め、集中や計画、意思決定、洞察、判断、想起をつかさどる。

前頭前野には、

  • 感情をコントロールする
  • 集中力を高める
  • 意思決定する
  • 作業や動作に必要な情報を一時的に記憶・処理する

といった働きがありますが、長期にわたってストレスがかかると、自制心をコントロールできなくなったり、集中力や判断力が低下したりする一因になる場合があります。

これはごく一部の例で、複雑な構造をしている脳は、多くの組織や神経細胞などが密接に関連しながら働いています。日常的に考えすぎたり、ストレスをため込みすぎると、脳はどんどん疲弊していくことになります。

「3分瞑想」または「3回呼吸」で
「今、この瞬間」に意識を向ける

そこで大切なのは、まず自分が過去や未来のことなどあれこれ考えを巡らせていることに気付き、いったんそこから離れて「今、この瞬間」に意識を向けるようにすることです。

その有効な方法として医療やビジネス、スポーツ、福祉、教育など幅広い分野で取り入れられているのが、禅の瞑想めいそうを起源とする「マインドフルネス」です。

瞑想にストレス軽減効果があることに着目した米マサチューセッツ大学のジョン・カバット・ジン教授が1979年に開発したプログラム「マインドフルネスストレス低減法」がベースになっており、脳科学的研究では前頭前野の働きを高めることが分かっています。

「日本マインドフルネス学会」では、マインドフルネスの定義を「今、この瞬間の体験に意図的に意識を向け、評価をせずに、とらわれのない状態で、ただ観ること」としています。“観る”ことには、「見る、聞く、嗅ぐ、味わう、触れる、さらにそれによって生じる心の働きをも観る」という意味があります。

具体的には、瞑想を行います。本格的に座禅を組んで行うものなど瞑想にもさまざまな方法がありますが、初心者でもすぐ行える「3分瞑想」をご紹介します。
手順は次のとおりです。

  • 1.あごを引き、背すじを伸ばし、腰を立てて座ります。
    座り方はあぐらでも正座でもよく、床に座るのがつらい場合は椅子に腰かけても構いません。手のひらを上に向けて太ももの上に乗せます。
  • 2.目はまっすぐ前を向けたまま、眼球だけ下げて半眼にし、斜め前方の一点をぼんやり見つめます。
  • 3.ゆっくり鼻から息を吸い、ゆっくり鼻から息を吐きます。これを3分間繰り返します。
  • 4.自分の内側から湧き起こる思考や感覚をただ客観的に観察します。何らかの判断を加えて、自分を責めたりするようなことはしないようにします。

「今、この瞬間」に集中しようとしていても、昨日の出来事や明日の予定、気になる誰かのことなどさまざまな雑念が浮かんでくることでしょう。そうした場合に、雑念を思い浮かべてしまったことを反省する必要はありません。「今、こんなことを考えたな」と自分の注意がそれたことに気づいたら、また呼吸に意識を戻し、今の自分の状態を意識しましょう。

時間がないときや、仕事中にさっと集中力を高めたいときなどは、ゆっくり3回呼吸するだけの瞑想も有効です。ゆっくり鼻から息を吸い、ゆっくり鼻から息を吐くのを3回繰り返しながら、今の自分に意識を集中させます。この場合も、背すじをピンと伸ばして行うことを忘れないようにしましょう。姿勢が悪いと深い呼吸ができず、意識を集中させることも難しくなります。

日常の動作一つひとつに
意識を向ける習慣を

マインドフルネスは自律神経や情動など、脳の機能に働きかける作用があります。その効果は数多くの脳科学的研究によって解明されてきていますが、特に代表的な効用として次の3つが挙げられます。

  • 1. 注意制御の向上
    気付きが増し、頭がシャープになることを言います。
  • 2. 情動調節の改善
    感情をコントロールすることを言います。
  • 3. 自己認識の変容
    根本的な自分自身を変えることを言います。

中でも3つ目の「自己認識の変容」は、マインドフルネスのルーツである禅の「自己究明」につながる最も大きなテーマと言えます。

会社での自分の立場が変わったり、子どもが独立したり、定年退職を迎えるときなどをきっかけに、さまざまな自分のポテンシャルや役割に気付く機会をマインドフルネスは与えてくれます。

自分を客観的に見つめ、受け入れることで、どんなことにも揺るがない、穏やかな心を保つことができるようになっていきます。

とはいえ、マインドフルネスの効果を一朝一夕でしっかり得ることは難しいものです。先に紹介した「3分瞑想」や「3回呼吸」はぜひ毎日継続して行いましょう。特に朝行うと目覚めもスッキリし、一日を気持ちよくスタートすることができます。

さらに、立ち上がる、手を洗う、といった日常の何気ない動作に対しても「今、体がどんな感覚を得ているか」ということに意識を集中させる習慣をつけると良いでしょう。こうした積み重ねによって、仕事に対する集中力なども自然と高まっていきます。

もっと本格的に学んでみたいという人は、マインドフルネスのセミナーやワークショップなどに参加してみるのもお勧めです。

脳の働きを高め、心身ともに健やかな状態を維持していきましょう。

貝谷 久宣 赤坂クリニック 理事長

1943年生まれ。名古屋市立大学卒業。岐阜大学医学部神経精神医学教室、ミュンヘン・マックスプランク精神医学研究所留学、自衛隊中央病院神経科部長を経て、93年になごやメンタルクリニック開院。97年に赤坂クリニック、2003年に横浜クリニックを開院。13年には東京マインドフルネスセンターを開設。一般社団法人日本筋ジストロフィー協会代表理事、京都府立医科大学客員教授も務める。主な著書に『不安・恐怖症―パニック障害の克服』(講談社)、『脳内不安物質』(講談社)、『マインドフルネス―基礎と実践―』(日本評論社)など。

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