知っておきたい病気・医療
2017.08.04

自覚症状がない「卵巣のう腫」は要注意

~定期検診で早期発見を!~
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「沈黙の臓器」といわれる卵巣。卵巣に病気があっても症状が表れにくいため、自覚症状がほとんどないことが一般的です。女性であれば年齢を問わず誰でも発症する可能性のある「卵巣のう腫」や「チョコレートのう腫」について、いけした女性クリニック銀座の池下育子院長にお聞きしました。どのような病気なのか、どうしたら早期発見できるのか、基本的な知識をぜひ覚えておきましょう。

卵巣は、体の中でも
腫瘍ができやすい臓器

卵巣は卵子をつくり出し、蓄える役割を担う臓器です。子宮の左右両側に1つずつあり、正常な大きさは数cmから親指の先くらいです。

「卵巣のう腫」は卵巣内に液体や脂肪などがたまることで発症します。ひどい場合は、こぶし大以上に肥大することもあります。

卵巣のう腫

卵巣は体の中でもとりわけ腫瘍ができやすい臓器といわれており、その種類もさまざまです。卵巣のう腫も卵巣腫瘍の一つですが、主にどんな種類があるのか見てみましょう。

図:卵巣腫瘍の主な種類

腫瘍には、触るとコブのように硬いタイプと軟らかいタイプがあります。

硬いタイプの「充実性腫瘍」は悪性の場合がありますが、軟らかいタイプの「卵巣のう腫」は良性の場合がほとんどです。それぞれのタイプには、さらに次の種類があります。

充実性腫瘍
  • 境界悪性卵巣腫瘍 きょうかいあくせいらんそうしゅよう
    良性と悪性の中間の性質を持つ腫瘍。
  • 悪性卵巣腫瘍 あくせいらんそうしゅよう (卵巣がん)
    症状が出にくく早期発見が難しいといわれている。片側だけの下腹部痛や、腹部の膨満感、不正出血や頻尿などがあった場合は、婦人科の受診をお薦めします。
良性卵巣腫瘍(卵巣のう腫)
  • 漿液性 しょうえきせい のう腫
    卵巣から分泌される透明の液体(漿液)がたまるもので、年齢を問わず多い。
  • 粘液性 ねんえきせい のう腫
    ゼラチン状の粘液がたまるもので、閉経後の女性に多い。
  • 成熟嚢胞性奇形腫 せいじゅくのうほうせいきけいしゅ 皮様 ひよう のう腫ともいう
    生殖細胞が分裂して成熟途中のものが混ざり脂肪や歯、毛髪などの組織が含まれた物質ができる。20~30代の女性に多い。
  • チョコレートのう腫
    子宮内膜症が原因で子宮内膜に似た組織により血液がたまって塊ができる。

なぜこのような液体や物質がたまるの? と疑問を持つ人は多いと思いますが、その原因はまだ医学的に解明されていません。

ただし、体質や生活習慣などに関係なく、誰にでも起こり得る病気だということは認識しておきましょう。

悪性化の危険もある
チョコレートのう腫とは?

卵巣のう腫の中でも子宮内膜症が原因で起こる病気に「チョコレートのう腫」があります。子宮の内側を覆う子宮内膜と同様の組織が卵巣にでき、卵巣内に形成されたのう胞の中に月経時に出血した経血がたまっていくことで発症します。女性ホルモンのエストロゲンが関与している病気であるため、初経から閉経まで幅広い年代の女性に起こります。

良性の場合がほとんどですが、40代以降で腫瘍の大きさが4cm以上になると悪性化する確率が高くなるといわれています。閉経後でもチョコレートのう腫ががん化することはあるので、適切な治療が必要です。

異常があっても
自覚症状が表れにくいのはなぜ?

チョコレートのう腫は子宮内膜症が原因のため、激しい生理痛などの症状が出ることもあります。しかし液体や脂肪がたまる卵巣のう腫の場合は、不正出血や下腹部の痛み、おりものの増加といった自覚症状はほとんど表れません。下腹部を触っても変化には気づきにくい場合が多いでしょう。

本来は親指大ほどしかない卵巣が大きくなっていくのに、どうして自覚症状がないの? と思う方もいらっしゃるかもしれません。

その大きな理由は、そもそも卵巣が体の深い部分にあるうえ、排卵のリズムに合わせて普段から腫れたりしぼんだりするのを繰り返している臓器だということにあります。排卵前・直後、月経前には3~5cmくらいまで卵巣が腫れる場合もあります。

こうした体の働きによって、多少腫れて大きくなっても自分ではなかなか気づかない――。卵巣が「沈黙の臓器」といわれるのはそのためです。

悪化するととても危険!
年に1回は卵巣の超音波検査を

卵巣のう腫は、良性であっても過度に大きくなったり、妊娠などで、のう腫の根元がねじれる 茎捻転 けいねんてん を起こす場合があります。激しい痛みや吐き気、出血を伴い、ひどい場合にはショックで意識不明に陥ることも。こうした場合には手術が必須となり、症状によってはねじれた卵巣ごと摘出しなければならなくなることがあります。

そうならないためにも、何より大切なのが早期発見です。ぜひ超音波検査を少なくとも年に1回は受けることをお勧めします。

「便秘がひどくて内科で超音波検査を受けたら、卵巣に腫瘍が見つかった」と、婦人科を受診する若い女性も少なくないのです。

定期的に子宮がん検診を受けている方は多いと思いますが、視診や内診だけでは卵巣の状態まで正確に診断するのは難しいので、ぜひ超音波検査もセットで行いましょう。

月経周期の数え方、
正しく理解していますか?

さらに、ホルモンバランスが崩れることで、卵巣の腫れが起こりやすくなることもあります。自分のホルモンバランスが正常かどうかをチェックする基本は、まず月経周期をきちんと把握しておくことです。

月経周期は、月経が始まった日から、次の月経が始まるまでの期間を指します。この期間が25~38日なら正常パターンと捉えて問題ありません。

「月経周期って月経が終わった日から数えるんですよね?」、「21~24日周期くらいでも普通ですよね?」と中には誤った認識を持つ人もいます。月経周期が短く、月経の回数が多いほど子宮内膜症のリスクも高くなり、チョコレートのう腫の原因にもなるので気をつけてください。

正しい知識を身につけて、自分の体と向き合っていきましょう。

池下 育子 いけした女性クリニック銀座 院長

帝京大学医学部卒業後、帝京大学麻酔学教室助手として勤務。国立小児病院麻酔科を経て、東京都立築地産院産婦人科へ。1991年、同産院医長に就任。92年に池下レディースクリニック銀座を開業。著書に『女性の病気百科 気になる体の悩みや症状がわかる』(主婦の友社)、『ラブ&セーフティ・セックス 愛するふたり』(日東書院)、『Maternity Book ママになるまでの10ヵ月ダイアリー』(梧桐書院)など。

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