健康マメ知識
2017.04.03

睡眠の新たなトラブル要因、本当の「ブルーライト問題」とは?

~「深夜型」人間が陥る悪循環~
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2014年、厚生労働省が発表した「健康づくりのための睡眠指針」の改訂版には、スマートフォンや携帯電話、ノートパソコン、LED照明などの光に多く含まれる青色光、いわゆるブルーライトの問題が初めて盛り込まれました。指針の中では、若い世代の研究では、就床後にスマートフォンを使用する頻度が多い人ほど、睡眠問題を抱えている割合が高いことが指摘されています。

しかし、このブルーライト問題、実は「すべての人に同じように問題が起きるわけではありません」と、国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 精神生理研究部部長の三島和夫さんは指摘します。三島さんに、睡眠とブルーライトの関係をどう考えたらいいのかを聞きました。

ブルーライトはなぜ悪い?

太陽から放射される光には波長というものがあり、その長短や強弱によって異なります。人の目で見える可視光線、目に見えない赤外線や紫外線があり、波長が短く強い順に、紫外線、可視光線、赤外線となります。人が物を見るためにはすべての光線が必要で、光が目から入って網膜、視神経を通り脳の後頭葉に伝わることで初めて物を見ることができます。
これと同時に、光の刺激は別ルートで脳の中心部に入り込み、視床下部ししょうかぶにある視交叉上核しこうさじょうかくという神経の小さな塊に最初に到達します。ここは、睡眠を含めた生体リズムを整える場所で、毎日光の刺激で体内時計の調整を行っています。

このところ睡眠との関係が取り沙汰されるブルーライトとは、可視光線のうち460nm(ナノメートル)ほどの短い周波数を持つ強い光である青色光のことです。すべての光がバランスよく含まれる太陽光だけでなく、スマートフォンや照明などの光にも含まれます。

■太陽光線の波長の区分 出典:横浜市環境創造局環境監視センターウェブサイト用語解説を元に作成

「多くの人は体内時計の周期、すなわちその人にとっての1日の長さが24時間ジャストではなく、平均して10分ほど長く、また24時間弱〜24時間30分と個人差があります。周期が長い人は放っておくと毎日少しずつ夜更かし、朝寝坊になっていきます。そのため、毎日時計の“巻き戻し”をしなくてはなりません。それに必要となるのが光で、調整に働く光の大部分は青色光なのです」と、国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 精神生理研究部部長の三島さんは話します。

人工照明はものによって光の成分が異なりますが、スマートフォン、パソコンや、照明から大型の薄型テレビにまで使われるようになってきたLEDなどは、青色が強いものが多いそうです。つまり人は、日常的に青色光を見る機会が多くなってきているのです。1日中青色光を浴びることで、長くなった体内時計の修正機能が高まるのではないかとも考えてしまいますが、光による体内時計の調整には特徴があり、時間帯によって早めてくれることもあれば、逆に遅らせることもあります。夜から深夜帯に浴びる光は体内時計を遅らせる作用があるのです。

直射日光を浴びなくても、晴れた日に、南向きの窓辺で外を見ているだけで明るい光を浴びることができます。そして太陽光には青色光もバランスよく含まれています。そのため、体内時計を遅らせないようにするには、巻き戻し効果が強い午前中に太陽光を浴びることが大切です。

ちなみに「光を浴びる」といっても、目に光が入らなければ調整効果はありません。日焼けではダメなのです。

人は太陽光しか利用できないという状況で進化し安定的に体内時計を調節していましたが、強い人工照明ができてからは、夜から深夜にかけても光を浴びるようになりました。そのため、過度に体内時計が遅れる傾向に陥っていると三島さんは指摘します。さらに、同じ光でも夕方に浴びるのと深夜に浴びるのでは深夜の方がずっと夜型に時間をずらす効力が大きいのです。

夜型人間をより悪化させるブルーライト

太陽光のような強い光ではありませんが、LEDを使ったものなど最近の家庭照明には非常に多く青色光を含むものが出てきました。

よく言われるスマートフォンの体内時計への影響については、画面が小さく照度が低いスマートフォンはさほど大きな影響がないと考えられます。ただし、夜中にスマートフォンを見ている人は、ほかにもパソコン、照明など人工光をよく浴びている人が多いです。その中に青色光成分が入っています。またスマホで友人とチャットをしていると目が覚めてしまい、寝付けないと考えられるのです。スマホが睡眠に与える影響はこのように複合的です。

30代ぐらいまでの若い世代は、一生の間でも体が夜型に傾きやすくなります。寝たいと思ってもなかなか寝付けず、電気をつけてだらだら起きていたりするため、早寝ができないという悪循環に陥るのです。また、平日睡眠不足の人は、つい休みの日にお昼近くまで寝てしまいがちですが、体内時計の調整のために浴びる必要がある午前の光が目に入らないので、月曜日に起きるのがさらにつらくなります。そのため、休日は早起きをして早い時間帯に太陽光を浴び、それから昼寝をすることをお勧めします。

個人差がありますし、そのときの光の強さによっても異なりますが、戸外で視線を少し上に向け、30分~1時間ぐらい太陽光を浴びれば、かなり時間を巻き戻す力があります。ただし、網膜疾患のある方は医師に相談してください。

さらに、朝起きにくく、夜早く眠気がこないという人は、室内照明を間接照明にしたり、2~3段階照度を下げられる調光器を付けたりして照度を抑えるといいと、三島さんはアドバイスします。

「夜、寝付きが悪い」「夜中に目が覚める」「朝、スッキリと目覚めない」といった症状から昼間、眠気や倦怠感などが出てくると、不眠症やうつ病などのリスクを招いてしまいます。このような症状を習慣化させないためにも、睡眠環境を整えて、快活な生活を送りましょう。

三島 和夫 国立精神・神経医療研究センター
精神保健研究所 精神生理研究部部長

医学博士。秋田大学医学部医学科卒業後、同大精神科学講座講師、同助教授。2002年米国バージニア大学時間生物学研究センター研究員、米国スタンフォード大学医学部睡眠研究センター客員准教授を経て、2006年6月から現職。日本睡眠学会理事、日本時間生物学会理事、日本生物学的精神医学会評議員、JAXAの宇宙医学研究シナリオワーキンググループ委員なども務めている。著書は『8時間睡眠のウソ。日本人の眠り、8つの新常識』(川端裕人氏と共著、日経BP社)、『睡眠薬の適正使用・休薬ガイドライン』(編著、じほう)、『朝型勤務がダメな理由』(日経ナショナル ジオグラフィック社など)。

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