健康マメ知識
2018.03.23

肩こりに効く!「肩甲骨はがし」

~手軽にできるストレッチが効果大~
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寒さが厳しかった冬の間、体を縮めて出歩いたせいで肩がガチガチにこってしまったことはありませんか? また、季節を問わず、長時間のデスクワークなどで肩こりに悩まされている人も多いのではないでしょうか。早めに対処しないとどんどん悪化し、冷えや頭痛などの症状も引き起こす原因になります。そこでぜひ行ってほしいのが「肩甲骨はがし」です。考案した東京医科大学整形外科学分野講師の遠藤健司さんに、肩こりを改善するポイントやテクニックについて伺いました。

肩を揉んでも
肩こりは治せない!?

肩を強めに揉むと気持ちがいいし一時的に肩こりは楽になるけれど、またすぐに肩や首まわりがガチガチになってしまう……。そんな経験はありませんか?
肩もみやマッサージでアプローチできる筋肉は、背中の浅い部分に広がる僧帽筋そうぼうきんです。揉みほぐすと血流が良くなるため、その直後はこりが緩和されたような感覚が得られます。

しかし実は、肩こりにはもっと深い部分にある筋肉が大きく影響しています。それが、僧帽筋の内側にある肩甲挙筋けんこうきょきん菱形筋りょうけいきんです。

■ 肩甲骨周りの筋肉の構造

肩甲挙筋と菱形筋は肩甲骨を動かす筋肉で、首を支える大きな役割を果たしています。ところが、デスクワークやスマートフォンの使いすぎなどで前かがみの姿勢を長時間続けたりすると首に大きな負担がかかるため、これらの筋肉が緊張して硬くなります。
すると肩甲骨の動きが悪くなり、揉んだりマッサージしたりするだけでは解消できない、ガチガチの肩こりになってしまうのです。

先に挙げたような前かがみの姿勢になりやすい生活習慣のほか、なで肩や、鎖骨が本来の位置よりも下がってしまう「下がり鎖骨」、本来はゆるやかにカーブしている頸椎けいつい(首の骨)がまっすぐになってしまう「ストレートネック」など、体形や骨格なども肩こりを引き起こす原因となります。

肩甲骨の動きを
チェックしてみよう

肩こりは気になっていても、自分の肩甲骨の動きがどのくらい悪くなっているのかということはなかなか自覚しにくいものです。そこで、下記の方法でチェックしてみましょう。

  • 1.かかと、背中、腕を壁につけてまっすぐ立ち、腕を肩の位置まで上げる。手のひらは下向きにし、ひじを曲げたり、腕が壁から離れないようにする。
  • 2.そのまま壁から離れないように腕を上げていく。これ以上は上がらないというところで、腕の角度を確認する。なお、痛みを感じるほど無理に腕を上げないよう注意しましょう。
  • 3.2で確認した角度が下記イラストのように、肩の水平ラインから60度以上なら、肩甲骨まわりの筋肉に柔軟性があり、スムーズに動かすことができている証拠です。
■ 肩甲骨の可動域チェック

60度以上なら、肩甲骨はしっかりと動いている。

45~60度未満の場合は、肩甲骨まわりの筋肉が少し硬く、動きがやや悪くなっています。

45度未満の場合は、肩甲骨まわりの筋肉がかなり硬く、動きが悪くなっているサインです。

肩甲骨の動きが悪いと感じた人は、ぜひこれからご紹介する「肩甲骨はがし」を行いましょう。

「肩甲骨はがし」を
朝と夜の習慣に

肩こりを改善するためには、首を支えている肩甲挙筋と菱形筋を柔軟にして、肩甲骨の動きを良くすることが欠かせません。そこで有効なのが「肩甲骨はがし」です。肩甲骨まわりの筋肉により深く、より広くアプローチすることができます。

肩甲骨はがしの方法

※立って行っても、座って行っても大丈夫です。

※肩甲骨の動きが悪く、うまくできないうちは家族などにひじを支えてもらいながら行うのがお勧めです。

※首や肩に痛みがある場合は行わないでください。


■ 肩甲骨はがしストレッチの一例 両ひじはV字の形にして、肩より少し上げる。

両ひじを肩の高さに上げ、手は鎖骨のあたりに乗せる。無理のない範囲でさらにひじを上げ、肩甲骨を引き上げる。

両ひじをゆっくりと後ろに引く。

両ひじの位置をできるだけ下げないよう気をつけながら、5秒かけてひじを後ろに引く。肩甲骨をギュッと寄せるように行うのがコツ。

そのままひじを下げる。

ギュッと肩甲骨を寄せたまま、両ひじを下げて脱力する。

1~3を1セットとして、朝と夜の1日2回、5セットずつ行うのが理想的です。肩甲骨をほぐすイメージで、ゆっくり行いましょう。
そのうえで、デスクワークの合間など、こりを感じたときに、軽く1~2セット程度行うとより効果的です。

また、肩や腕に負担をかけない下記のようなストレッチもお勧めです。

  • 1.四つん這いの姿勢になる。
  • 2.腕を前後に振る。左右各5セットずつを目安に行う。

さらに、パソコン作業などで前かがみの姿勢が続いたときは、椅子に座ったまま、人差し指を顎に当てて軽く押してみましょう。たったこれだけで自然と骨盤が前傾して腰が反り、背すじがすっと伸びて、肩甲骨まわりの筋肉の負担が和らぎます。

骨盤を前傾させながら、顎を引く。

顎に人差し指を当てて軽く押すことで、自然と骨盤が前傾して腰が反る。

肩こりを悪化させる
ストレスと不動状態にも注意

肩こりは筋肉の緊張によって生じますが、そこにストレスが加わり、不快感が募ることで、こりのレベルがより強くなると考えられています。例えば、もともとのこりのレベルは10段階中2~3程度であっても、「肩こりのせいで思うように仕事がはかどらない」「肩が重だるくて作業を続けられない」などストレスや不快な感情を伴うと、8~9くらいの強いこりに感じるようになってしまうのです。

さらに、「仕事中はほとんど姿勢を変えることがない」「日常生活であまり体を動かさない」といった不動状態が続くと、こりは慢性化し、治りにくくなっていきます。

このようにどんどんこりが悪化していき、筋肉の緊張が強くなると、自律神経にも影響が及びます。心身が緊張状態になることで血管が収縮して手足が冷えやすくなったり、頭痛やめまい、吐き気などの症状を併発する場合もあります。

さらに進行すると、「やる気が起きない」「何もかも面倒になる」といった抑うつ状態に陥ることもあります。

肩こりを根本から改善するためには、先に紹介した「肩甲骨はがし」のようなストレッチで硬くなった筋肉を柔軟にするのはもちろんのこと、生活の中でこまめに体を動かしたり、ストレスを溜めないようにすることも大切です。

自分が心から楽しみながらできるスポーツは、運動不足とストレスを同時に解消できるのでまさに一石二鳥と言えるでしょう。

また、下記のようなことも、ぜひ日常生活で意識してみてください。

  • 仕事中でも30分に1回は体を動かすようにする
  • 就寝時は枕の高さに気をつける(高すぎる枕は肩こりの原因になる可能性があります)

仕事や家事などで肩こりが気になる人は、日常生活に「肩甲骨はがし」のようなストレッチを取り入れて解消しましょう。

遠藤 健司 東京医科大学整形外科学分野講師

1988年、東京医科大学卒業。92年、米国ロックフェラー大学にポスドクとして留学、神経生理学を専攻。95年、東京医科大学茨城医療センター整形外科医長を経て、2007年から現職。著書に『本当は怖い肩こり』(三原久範共著、祥伝社)など。日本整形外科学会専門医。日本整形外科学会脊椎脊髄病医。日本脊椎脊髄病学会指導医。

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