健康マメ知識
2018.12.21

思い込みが睡眠障害を招く!?

~無理をしないことが良い睡眠への近道~
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「毎朝起きるのがつらい」「日中も眠くてボーッとしてしまう」「寝つきが悪い」……。睡眠に関する悩みはさまざまですが、その背景には「睡眠時間を十分にとって、朝はすっきり起きるべき」といった思い込みがあることも少なくないと言います。質の良い睡眠について、日本大学医学部精神医学系主任教授の内山真先生に伺いました。

睡眠に関して間違った
思い込みをしていませんか

下の5つの項目のうち、睡眠について正しいと思うものをチェックしてください。

  • 世界の国々と比べ、日本人の睡眠時間は短い
  • 健康のためには8時間以上の睡眠が必要
  • 疲れがとれていないために朝起きるのがつらい
  • 昼食後は消化により胃に血液が集中するため眠い
  • 睡眠時間は気力や体力でコントロールできる

いくつチェックがついたでしょうか?
実は上の項目の内容はすべて正しくありません。睡眠について間違った情報が広がっているため、思い込みをしている人は少なくないのです。

「日本人の平均睡眠時間」については、よく引用されるデータに経済協力開発機構(OECD)による国際比較調査があります。

2016年の調査では日本人15~64歳の平均睡眠時間は7時間22分と、OECD加盟国の中で最短という結果が発表されました。加盟国全体の平均睡眠時間は8時間25分で、先進国の米国、英国、フランスはこれを上回っています。

しかし、この睡眠時間は実質的に眠った時間ではなく、平日ベッドに横になっている時間も含まれています。ベッドの中で朝食を摂るなどゆっくり過ごす国では時間が長くなり、多くの日本人のように眠るときだけベッドを使用するという国では短くなりますが、睡眠時間の差は基本的にありません。

睡眠時間が5時間を下回ると
仕事のミスが増える!?

睡眠時間は長ければ良いというわけではありません。むしろ、8時間以上の睡眠時間は高血圧や糖尿病の確率が高くなるなど、健康に対するリスクが大きくなることがさまざまな研究から分かっています。

日本人約11万人を対象としたコホート研究※では、睡眠時間が7時間の人はそれより短い人や長い人と比べて、死亡リスクが低いという結果でした(下のグラフ参照)。米国でも、睡眠時間6.5~7.5時間の人は、それより短い人や長い人と比べて生存率が高いという調査結果が出ています。

※分析疫学における手法の一つ。調査時点で、仮説として考えられる要因を持つ集団(暴露群ばくろ)と持たない集団(非暴露群)を追跡し、両群の疾病の罹患りかん率や死亡率を比較する。どのような要因を持つ人が、どのような疾病に罹患しやすいかを究明し、因果関係の推定を行うことを目的とするもの。

■睡眠時間による死亡リスクの比較 睡眠時間による死亡リスクの比較

全国約11万人に対し行った1988~90年のアンケート結果から、平日の睡眠時間ごとに約10年の間に死亡した人の割合を比べた。4時間未満(4.4時間まで)では男性で1.62倍、女性で1.60倍、9.5時間以上では男性で1.73倍、女性で1.92倍となった。
(データ:JACC Study;Sleep 27巻51~54ページ2004年)

7時間睡眠をとっていても、必ずしも日中調子が良いというわけでもありません。平均すると7時間程度は眠っているのに、朝は起きるのがつらく、昼食後は眠気に襲われてしまうという人もいるでしょう。しかしこれは体にとってごく自然な現象の一つです。

夜眠っている間は、体全体が休息モードになっていますが、体内時計の働きで起きる時刻の約2時間前から徐々に起きて活動する準備が始まります。

目が覚めて動き出すと徐々に活動モードに入っていきます。朝食を摂ることで脳と体がしっかり目覚めるのを助け、仕事を始められる準備が整います。
昼食後の眠気は、体内時計のリズムによって引き起こされています。気温が最も高い時間帯に動き回るとエネルギーを消耗してしまうため、それを防ごうとして睡眠をとらせようとする仕組みがもともと体に備わっているのではないかと考えられます。

食事をすると血液が胃に集中して脳に行かなくなるせいで眠くなるという説をよく耳にしますが、食事のたびに脳への血液の供給に支障が生じるということはありません。

睡眠は、呼吸をするのと同じように自然で、なくてはならないものです。仕事が忙しい時など、睡眠時間を削って無理をしがちですが、体は本来、そのようにはできていません。

睡眠時間が5時間を下回る日が数日続くと、日中の作業能率は低下します。4時間以下の睡眠は、一晩だけでも翌日の作業に影響します。大きなミスは、必要な睡眠がとれていない時に起こりやすくなるのです。

このような症状が
あるなら要注意!

起床時に次のような症状に加え、日中に猛烈な眠気に襲われるような場合には注意が必要です。

  • 1.朝起きた時に疲労感が強く、動くのがつらく、おっくうで気分がすぐれない
  • 2.朝起きた時に、喉がカラカラに渇いて、頭が痛い

1の症状が2週間以上続く場合には、うつ病の可能性があります。
うつ病の場合は、ベッドに入ってもよく眠れないという不眠、食欲低下や物事に対する関心の低下が起きてきます。

2の症状は就寝中にいびきをかいているサインです。さらに日中の眠気が強い場合には、睡眠時無呼吸症候群の可能性があります。女性より男性の方が発生率の高い病気ですが、女性も閉経期を過ぎると男性同様に起こるようになります。

また、睡眠中に何かを蹴るような感じで脚がピクンと動いて目を覚ますのを繰り返す、周期性四肢運動障害という症状もあります。眠っている時の感覚・運動神経系の不調で、勝手に脚が動く不随意運動※によるもので、鉄の欠乏や腎臓病の人に発症しやすい傾向があります。一晩に何度も目を覚ましてしまうため、眠りが浅くなり、日中の眠気やだるさが強くなりやすいのが特徴です。

いずれの場合も、気になる症状が続くときは医師に相談することが大切です。

※自分の意思とは関係なく、体が勝手に動いてしまう現象。

無理に眠ろうとせず
眠くなったらベッドへ

睡眠の最大の目的は、休息により翌日のパフォーマンスを確保することにあります。日中若干の眠気があるくらいの自然な睡眠が、その人にとってベストな状態だと言えます。

「明日のために何が何でも早くに眠らなくてはならない」と思って、眠たくないのに就床しゅうしょうしても、眠れない上かえって頭がさえて睡眠に入れなくなります。

毎日の生活では、時刻にこだわり過ぎず、眠気を感じたらベッドに入ればよいのです。ただし、起きる時刻は一定にするのが大事です。起床時間を一定にすることで体内時計のリズムが規則的になり、夜は自然に眠気が出て安定して眠れるようになります。

昼食後に眠くてたまらないときには、15~30分程度のごく短い仮眠をとるのも作業能率を高めるうえでは効果的です。その場合にはくれぐれも熟睡しないように気を付けましょう。脳が完全に休息モードに入ってしまうと、起きた時に頭がボーッとして目が覚めずスッキリできないものです。横になるのではなく、デスクの上に顔を伏せて「やり過ごす」くらいの感覚で寝るのがお勧めです。

さらに基本的なことですが、良い睡眠を得るためには適度な運動や規則正しい食事も大切です。就寝前のアルコールやカフェイン摂取、喫煙は避け、起床後は朝食をしっかり摂るようにしてください。

仕事が忙しいと残業などで帰宅時間が遅くなり、夕食や就寝時間もどんどん後ろにずれていくということも起こりがちですが、忙しい時期もできるだけ夕食は決まった時間に済ませ、帰宅後にスムーズに眠りにつけるよう工夫しましょう。

内山 真 日本大学医学部精神医学科系主任教授

1954年、神奈川県生まれ。80年、東北大学医学部卒業後、東京医科歯科大学で精神神経科。91年から国立精神・神経医療研究センター室長。92~93年、ドイツのヘファタ神経学病院睡眠障害研究施設に留学。同センター部長などを経て、2006年から現職。専門は精神神経学、睡眠学、時間生物学。『睡眠の病気(別冊NHKきょうの健康)』(NHK出版)、『睡眠のはなし(中央公論新社)』など著書多数。

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