食で健康
2019.02.22

おいしく食べて生活習慣病を防ぐ

~チョコレートの健康効果とは~
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「甘くておいしい」と人気を集める一方で、「太るからあまり食べない方がいい」と思われがちなチョコレート。近年は苦味を生かした高カカオチョコレートや機能性チョコレートが増え、選び方や食べ方によっては体に良いものであることが分かってきています。20年以上にわたりチョコレートの健康効果について研究を行っている品川イーストワンメディカルクリニックの板倉弘重理事長に、その働きや食べ方のコツなどについて伺いました。

チョコレートには強力な
カカオポリフェノールがたっぷり

病気や老化を防ぐ重要な成分の一つに、抗酸化物質であるポリフェノールがあります。
ポリフェノールとは、紫外線から身を守るために自ら作り出す成分の総称で、自然界に7,000種類以上存在していると言われています。

ポリフェノールは、植物が自身を活性酸素から守るために自ら作り出しているものなので、食品として摂取することで体内の酸化を防ぐことができます。

食品の代表的なポリフェノールにはタマネギに多く含まれる「ケルセチン」や、ブルーベリーに含まれる「アントシアニン」などがあります。他にも緑茶に含まれる「タンニン」や「カテキン」、大豆やゴマに含まれている「フラボノイド」などをご存じの方も多いでしょう。

さまざまな種類のポリフェノールの中でも特に抗酸化力が強く、動脈硬化を原因とする虚血性心疾患や脳卒中などの生活習慣病を予防する効果が高いことが分かっているのが、チョコレートの主原料であるカカオマスに含まれる「カカオポリフェノール」です。

カカオポリフェノールはミルクチョコレートにも多く含まれますが、カカオマスの含有量がより多い高カカオチョコレートは、その含有量が2倍近くアップします(下のグラフ参照)。

■カカオポリフェノールの含有量

国民生活センターが1999年6月~2000年3月に実施した「ポリフェノール含有食品の商品テスト結果」から。高カカオチョコレートのカカオ成分は70%。ミルクチョコレートのカカオ成分は35~40%。フォリン―チオカルト法により測定された「総ポリフェノール量の測定結果一覧」から一部抜粋し、改編。

カカオポリフェノールが
悪玉コレステロールの酸化を防ぐ

カカオポリフェノールと動脈硬化予防の関係については、さまざまな研究が行われており、その効果が明らかにされています。

動脈硬化を起こす主な原因は、血管の老化とコレステロールの沈着ですが、コレステロールそのものが動脈硬化を起こすわけではありません。

悪玉と言われるLDLコレステロールは、喫煙やストレス、不規則な食事などの影響で体内に活性酸素が増えると、その影響を受けて酸化LDL※に変化します。

すると体内の異物を排除しようと、白血球の一種であるマクロファージが酸化LDLを取り込みます。酸化LDLをため込んだマクロファージはどんどん大きくなり、やがて泡沫ほうまつ細胞となって血管の内皮にくっついて血管を狭くしたり、血管の内部に炎症を起こしたりします。その結果、血液の流れが滞るなどの問題が生じるのです。

強力な抗酸化作用を持つカカオポリフェノールには、このLDLコレステロールの酸化を防止する力があることが分かっています。

さらに血管の炎症を軽減し、血管を拡張する作用もあるため、高血圧症や冷え性などの予防効果も期待できます。

※「悪玉コレステロール」とも呼ばれるLDLのごく一部の成分。

食物繊維やビタミン、ミネラル
実は完全栄養食のチョコレート

カカオマスには食物繊維も豊富に含まれていて、成分全体の約17%を占めているため、空腹時に摂取しても血糖値が急激に上がりにくいことが特徴です。小腹が空いたときなどには糖質の多いお菓子ではなく、高カカオチョコレートを少量食べると、肥満を予防する上で効果的です。

その他にもタンパク質やビタミン、ミネラル、鉄、亜鉛、マグネシウムなどをバランスよく含むチョコレートは、完全栄養食と言えることから、かつて軍隊の常備食として用いられていました。

最近は乳酸菌入りのチョコレートなども市販されていますので、他の食品との組み合わせによって健康効果をさらに高めることも可能です。

すでに定番となっているアーモンドやナッツ入りのチョコレートも、アーモンドやナッツに含まれるビタミンやミネラルなどを同時に摂取できるため、相乗効果が得られます。

また、コーヒーやお茶などに含まれるカフェインとカカオポリフェノールを組み合わせることで、集中力を高める効果も期待できます。コーヒーとチョコレートでリフレッシュできるのには、このような理由もあるのです。

1日25~50gを
数回に分けて食べよう

カカオマスのポリフェノールの抗酸化作用は摂取後1~2時間がピークと言われています。チョコレートを食べて健康効果をしっかり得るためには、1日数回に分けて、少しずつ食べるのがお勧めです。

さまざまな研究から健康効果が確認されている標準的な摂取量は、高カカオチョコレートの場合、1日あたり25g程度です。これは、一般的な板チョコ5かけくらいの量です。多くても50g程度までにしておきましょう。
特に糖分や脂肪分の多いミルクチョコレートは、食べ過ぎると肥満の原因になりますので、控えめにすることが大切です。

なお、ココアバターを主原料とするホワイトチョコレートには、カカオポリフェノールはほとんど含まれません。健康を意識するのであれば、カカオ成分70%以上の高カカオチョコレートを選んだほうが良いでしょう。

適量のチョコレートをおいしく味わいながら、日々の健康を心掛けていきましょう。

板倉 弘重 品川イーストワンメディカルクリニック理事長

1936年、東京都生まれ。1961年東京大学医学部卒業後、米カリフォルニア大学サンフランシスコ心臓血管研究所留学。帰国後、東京大学第三内科助手、講師。国立健康・栄養研究所臨床栄養部長、日本臨床栄養学会理事長、日本動脈硬化学会評議員名誉会員などを歴任。2009年度国際栄養学連合(IUNS)のフェローに認定(栄養学研究分野で顕著な貢献をした世界の研究者10人の内の1人)。2010年「動脈硬化疾患の予防と治療に関する栄養学的研究」により日本栄養・食糧学会功労賞を受賞。

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