食で健康
2023.02.10

がんの知識を深めよう!

~がんのリスクを防ぐ食べ物・飲み物とは~
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栄養のバランスが取れた規則正しい食生活を送ることは、がんの予防を含む健康づくりの基本です。どのような食事ががん発症のリスクに影響するのか、国内外で研究されています。医学的根拠に基づき、食べ過ぎや飲み過ぎを控えたほうが良いもの、積極的に食生活に取り入れたいものなどについて、産業医科大学医学部第一外科学教室 講師の佐藤典宏先生に伺いました。

○☓クイズに挑戦して
正解と解説をチェック!

下の1~8の問題について、正しいと思うものは○、間違いと思うものは☓で答えましょう。

○☓クイズ

各問題の正解と解説を、次の章から紹介します。

1. 熱い飲食物は食道がんのリスクを高める→正解は「○」
60℃以下に冷まして飲食するようにしましょう

熱いコーヒーやお茶で眠気を覚ましたり、寒い日に熱いスープや鍋料理などを食べて体を温めたりする人も多いでしょう。しかし、熱過ぎるものには注意が必要です。「非常に熱い飲み物(65℃以上の飲み物)には、恐らく発がん性がある」ということを、WHO(世界保健機関)のがん専門機関であるIARC(国際がん研究機関)が2016年に発表しています。

食道がんの予防のためにも、熱いものは冷ましてから飲食することが大切です。熱々の状態が好きだったり、熱いかどうか分からない場合は、いつも飲んだり食べたりしている物の温度を調理用の温度計で測ってみるのも良いでしょう。65℃以上なら注意が必要です。できるだけ60℃以下で飲食するように心がけましょう。

2. どんな肉類でも積極的に摂ることで、がんの予防に効果がある→正解は「☓」
加工肉や赤肉の食べ過ぎに注意

IARC(国際がん研究機関)は、加工肉(ベーコン、ソーセージ、フランクフルト、缶詰肉、コンビーフ、ビーフジャーキー、ハムなど)および赤肉(牛・豚・馬・羊の肉。鶏肉は含まれない)の発がん性について、2015年に以下の発表を行っています。
(※)Lancet Oncol 2015,16:1599-1600.

  • 加工肉の摂取は、大腸がんを引き起こす十分なエビデンス(根拠)があるとして、喫煙やアスベストと同じ発がん性のレベルであるグループ1(人に対して発がん性がある)に分類される。
  • 赤肉は、大腸がんのほか、膵臓(すいぞう)がん、前立腺がんとの関連性も見られたが、「限定的な証拠」であったため、グループ2a(人に対して恐らく発がん性がある)に分類される。
  • ■加工肉と赤肉の発がん性に関するWHO分類 加工肉と赤肉の発がん性に関するWHO分類
  • 加工肉の場合、目安として1日の摂取量が50g増加するのに伴い、生涯における大腸がんの発生リスクが18%上昇するという、米国で行われた研究の解析結果が報告されています。
(※)PLoS One 2011,6:e20456.

また、フランスで行われた大規模な研究結果では、赤肉の摂取が最も多いグループ(1日平均100g近く)では、最も少ないグループ(1日平均5g以下)に比べて、全てのがんのリスクが31%、乳がんのリスクが83%高くなることが示されています。
(※)Int J Cancer 2018,142:230-237.

現代の日本人の食生活は欧米化しているものの、欧米人に比べると肉類を食べる習慣は少なく、1日あたりの平均摂取量も加工肉で13.4g、赤肉(牛肉・豚肉)で55.7gと、決して多くはありません。
(※)2019年国民健康・栄養調査(厚生労働省)

がん予防や健康維持のために大切なのは、加工肉や赤肉を「食べ過ぎない」ことです。加工肉は毎日食べるのではなく2~3日に1回程度にする、牛肉や豚肉も毎日食べるのではなく2日に1度は鶏肉や魚に替える、といった工夫をしましょう。
赤肉には鉄分や亜鉛などのミネラル、ビタミンB12などが豊富に含まれています。バランスよく取り入れましょう。

3. 魚はさまざまながんの発症リスクを減らす→正解は「○」
オメガ3脂肪酸を多く含む青魚などがおすすめ

魚、あるいは魚に含まれる海洋性オメガ3不飽和脂肪酸(n-3 PUFA)の摂取が、乳がんや肺がん、大腸がん、膵臓がんなどのリスク低下に繋がることを示す研究結果は数多くあります。

45~74歳の8万2000人以上の日本人を対象とした、魚(オメガ3脂肪酸)の摂取量と膵臓がんリスクとの関係について調べた研究では、魚介類から摂取したオメガ3脂肪酸(EPA、DPA、DHA)が最大のグループでは、最少のグループに比べ、膵臓がんの発症リスクが30%低下したことが報告されています。
(※)Am J Clin Nutr 2015,102:1490-1497.

オメガ3脂肪酸(特にEPAやDHA)を豊富に含む、サバ、イワシ、アジ、サンマ、ブリ、カツオなどの青魚を、焼き魚や刺し身など好みの調理法で毎日の食事に取り入れると良いでしょう。また、手軽に摂取できるイワシやサバ、サンマの水煮やかば焼きなどの缶詰を活用するのもおすすめです。

4. 野菜は1日1皿分だけでも摂れば、がんの予防に効果がある→正解は「☓」
1日あたり野菜5皿分、果物1皿分を目標に

野菜と果物を多く摂取する人は、さまざまながんの発生率が低いということが、国内外の多くの研究で報告されています。英国で35歳以上の6万5226人を対象に、 2001~ 08 年に行われた健康調査の分析結果では、 野菜・果物を1日1皿(ポーション)以下しか食べていない人に比べ、5~7皿食べている人では、がんによる死亡リスクが30%低下したことが報告されています。
(※)Int J Cancer 2008,123:1935-1940.

日本では40~59歳の日本人男女約4万人を対象に、野菜・果物摂取と胃がん発生率との関係を調べた研究が行われ、全ての種類の野菜の摂取量が最も多いグループと、最も少ないグループを比べたところ、最も多いグループでは胃がんの発症率が約25%低くなったことが報告されています。
(※)Int J Cancer 2002,102:39-44.

食事とがんの関連の研究を評価するWCRF(世界がん研究基金)とAICR(米国がん研究協会)は、野菜と果物を合わせて1日400g以上摂ることを勧めています。目安は、野菜(サラダや野菜がメーンの料理)1皿(70g)を5皿分(350g)と、果物1皿分(100g)で、1日400g以上になります。「1日野菜5皿、果物1皿」と覚えておくと良いでしょう。

5. ブロッコリーやキャベツなどアブラナ科の野菜は、がんの予防に効果がある→正解は「○」
アブラナ科野菜を積極的に摂りましょう

ブロッコリー、キャベツ、カリフラワー、大根、小松菜、白菜、チンゲン菜、芽キャベツ、ケールなどのアブラナ科野菜には、イソチオシアネートというがんのリスクを下げる可能性のある成分が含まれています。中でもブロッコリースプラウト(ブロッコリーの新芽)などに多く含まれるスルフォラファン(イソチオシアネートの一種)には強力な抗酸化作用があり、がん予防効果についての研究が進んでいます
(※)Drug Des Devel Ther 2018,12:2905-2913.

45~74歳の約9万人の日本人を対象とした研究では、アブラナ科野菜の摂取量が最も多いグループは、最も少ないグループと比べ、がんによる死亡リスクが16%低下したと報告されています。
(※)Clin Nutr 2019,38:631-643.

6. オリーブオイルは、がんの発症リスクを低下させる→正解は「○」
オリーブオイルはがん予防効果が期待できる「良い油」の一つ

オリーブオイルに含まれるビタミンEやポリフェノールには、強力な抗酸化作用や抗炎症作用があり、生活習慣病やがんの予防に有効であると考えられています。エキストラバージンオリーブオイルから抽出された成分「オレオカンタール」の持つ抗がん作用についても研究が進められています。
(※)J Agric Food Chem 2019,67(14):3845-3853

また、スペインで行われた、2種類の地中海食群(オリーブオイル群とナッツ群)と、コンロトール(低脂肪食)群では、オリーブオイル群において乳がん発症リスクが68%低下したという報告があります。
(※)JAMA Intern Med 2015,175:1752-1760.

一方で、バターやラード、ヤシ油、パーム油といった飽和脂肪酸は、摂り過ぎるとがんのリスクを高めることが国内外の多くの研究で報告されています。料理をする際には、なるべくオリーブオイルを中心にし、バターやラードなどの使用を控えることを心がけましょう。

7. 100%フルーツジュースは、がんの予防に効果がある→正解は「☓」
飲料に含まれる砂糖や果糖の摂り過ぎに要注意

ジュースやソーダ類などの砂糖入り飲料は、がんのリスクを高めるという研究報告が数多くあります。砂糖の摂り過ぎはがんに限らず、肥満や生活習慣病のリスクを高める要因となります。

「100%フルーツジュースであれば、果物そのものなので問題ないのでは?」と考える人も多いかもしれませんが、フルーツジュースの果汁は、果物に含まれる食物繊維などが取り除かれ、ほぼ果糖のみとなっています。たくさん摂ることにより短時間で血糖値が急上昇したり、老化を促進させるAGEs(終末糖化産物)という物質を作り出したりする要因となります。

フランスで10万人以上の成人男女(平均年齢42歳)を対象とした研究では、砂糖入り飲料を1日あたり100ml多く摂取することで、がん全体の発症リスクが18%上昇し、乳がんのリスクは22%上昇しました。100%フルーツジュースの摂取でもがん発症のリスクが上昇したと報告されています。
(※)BMJ 2019,366:l2408.

100%フルーツジュースに限らず、砂糖入りのジュースや炭酸飲料を毎日のように飲んでいるなら、量を減らしたり、水や無糖の飲料(お茶やブラックコーヒーなど)を代わりに飲むようにしたりするなど、少しでも減らす工夫をしましょう。

8. コーヒーは、がんのリスクを低下させる→正解は「○」
飲料に含まれる砂糖や果糖の摂り過ぎに要注意
1日5杯以上飲む人は、肝臓がんのリスクが4分の1に

緑茶にはがん予防効果があると言われていますが、医学的な根拠はまだ不十分なのが現状です。一方で、コーヒーによるがん予防効果については、国内外の研究によって明らかにされています。
(※)緑茶飲用と胃がんとの関連について | 現在までの成果 | 多目的コホート研究 | 国立研究開発法人 国立がん研究センター がん対策研究所 予防関連プロジェクト (ncc.go.jp)

9万452人の日本人の中高年男女を対象に、コーヒーの摂取と肝臓がんの発症率との関係について調べた大規模な研究では、コーヒーをほとんど飲まない人に比べて、ほとんど毎日飲む人は肝臓がんのリスクが約半分に減少したことが報告されています。
さらに1日5杯以上飲む人では、肝臓がんのリスクは4分の1にまで低下していました。
(※)J Natl Cancer Inst 2005,97:293-300.

この他の研究でも、前立腺がん、子宮体がん、口腔(こうくう)がん、白血病、皮膚がん、乳がん、大腸がんのリスクが低下することが報告されています。

なぜコーヒーの摂取ががん予防に繋がるのか、そのメカニズムはまだ解明されていません。しかし、カフェイン入りのドリップコーヒーだけでなく、カフェイン抜き(デカフェ)やインスタントコーヒーなど、タイプにかかわらず同様の効果が得らえることも複数の研究から分かっており、手軽に取り入れやすいことがメリットです。

ただし、砂糖入りの市販のコーヒー飲料などは摂り過ぎないように注意が必要です。自分でコーヒーを淹れる場合もできるだけ砂糖は入れずに、ブラックコーヒーを飲むのがおすすめです。

佐藤 典宏 産業医科大学医学部第1外科学教室講師、外来医長

1993年、九州大学医学部卒業。外科医として研修後、九州大学大学院へ入学。学位(医学博士)取得後、2001年から米国ジョンズ・ホプキンズ大学医学部にてがんの分子生物学を研究。06年から九州大学大学院医学研究院先端医療医学部門腫瘍制御学分野助手、12年から産業医科大学助教を経て、現職。『手術件数1000件超の名医が教える がんにならないシンプルな習慣』(青春出版社)など著書多数。

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