健康マメ知識
2021.10.08

季節の変わり目は「秋バテ」にご用心

~疲労、倦怠感けんたいかんや抑うつ感を解消しよう~
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夏から秋にかけての季節の変わり目に生じるさまざまな不調は、一般的に「秋バテ」と呼ばれています。医学的には、「秋バテ」の明確な定義はありませんが、夏の疲れや、昼と夜との寒暖差が大きくなることで生じる不調を指します。暑い時期から寒い時期へと移行していく季節を健やかに過ごすための心身の整え方について、tenrai株式会社代表取締役医師の桐村里紗さんに伺いました。

秋バテには
身体と心、両方の症状がある

秋バテには、以下のとおり主に身体的症状と精神的症状があります。

■【主な身体的症状】
  • 疲労倦怠感
  • 食欲不振
  • 便秘、下痢などの消化器系の不調
  • 立ちくらみ
  • めまい など
■【主な精神的症状】
  • やる気、集中力の低下
  • 抑うつ感
  • イライラ
  • 不眠 など

こうした症状が起こりやすくなる主な原因として、次の3つが挙げられます。

  • 1.自律神経の乱れ
  • 2.栄養の偏り
  • 3.胃腸など消化機能の低下

夏から秋は自律神経の
スイッチが切り替わる時期

秋バテの原因の1つ目は、自律神経の乱れです。自律神経は、全身に張り巡らされている末梢神経まっしょうしんけいの一つで、意思に関係なく24時間働き続け、体温調節や血圧、呼吸数のコントロール、消化や発汗など、さまざまな体の機能を整える役割を担っています。

自律神経には交感神経と副交感神経の2つがあり、それぞれ次のような特徴があります。

  • 交感神経
    体を活動モードにする。運動やトラブル回避など、体を活発に動かすときに優位になる。
  • 副交感神経
    体を休息モードにする。食事中や食後、リラックスしているとき、就寝中などで優位になる。

自律神経には環境の変化に体を適応させる働きもあり、気温が高くなると副交感神経が優位になり、反対に低くなると交感神経が優位になる傾向にあります。暑い夏から涼しい秋への季節の変わり目は、主に体温調節のために“副交感神経モード”から“交感神経モード”へと自律神経のスイッチが切り替わる時期といえます。

暑い日があったかと思えば、急激に気温が低下したりと環境が揺らぎやすいのも、季節の変わり目の特徴の一つです。

また、1日の中で、朝から日中の活動時間帯は交感神経モード、夕方から夜間の休眠時間帯は副交感神経モードと、自律神経は波のようなリズムを持っています。

しかし、環境の変化などによって、自律神経が乱れて調節がうまくいかなくなったり、交感神経が優位な状態が続いてうまくリラックスできなくなったりすると、先に挙げたようなさまざまな身体的・精神的症状を引き起こす要因の一つになると考えられます。

夏場の偏った食生活が
だるさや抑うつ感の要因に

秋バテの2つ目の原因である「栄養の偏り」は、主に夏場の食生活によって引き起こされます。夏は暑くて食欲が湧かないために、そうめんのような喉越しの良い食事に偏りがちです。そうした食事を続けていると、どうしても糖質の摂取量が多くなります。また、甘いジュースやアイスクリーム、アルコールなどを多く摂る傾向にある人も要注意です。

糖質の摂取量が過剰になると、腸内に存在する日和見菌ひよりみきんの一種「カンジダ菌」が増殖しやすくなります。「カンジタ菌」が増殖すると、本来は酸性であるべき腸内がアルカリ性に傾き、悪玉菌が増える要因になると考えられています。腸内環境が乱れることによって、さまざまな不調が生じることになりかねません。

その一方で、ビタミンB群やミネラル、たんぱく質などは不足する傾向にあります。ビタミンB群やミネラルは「細胞の中の電池」と呼ばれており、細胞内でエネルギー(ATP※)生成のために働くミトコンドリアの代謝を促進するうえで大切な栄養素です。
これらの栄養素が夏の間から不足した状態が続くと、秋になる頃に“電池切れ”を起こすことになります。その結果、疲労倦怠感といった症状が現れやすくなるのです。

※ATP:アデノシン三リン酸の略。筋肉の収縮など生命活動で利用されるエネルギーの貯蔵や利用にかかわり、「生体のエネルギー通貨」と呼ばれている。

また、たんぱく質の不足は、秋バテの精神的症状と関係があります。注目したいのは、脳の神経伝達物質の一つである「セロトニン」と「ドーパミン」です。セロトニンには精神を安定させる働きがあり、ドーパミンにはやる気や集中力を高める働きがあります。もう一つ大切なのが、生体リズムの調節機能をもつ「メラトニン」です。自然な睡眠を促す作用があることから「睡眠ホルモン」とも呼ばれています。

セロトニン、ドーパミン、メラトニンの分泌を促進するためには、その原料となるたんぱく質が必要です。さらに、合成するためには触媒となる酵素の原料となるビタミンやミネラルが不可欠です。そうした栄養素の不足が続くと、セロトニン、ドーパミン、メラトニンの分泌が滞りやすくなり、抑うつ感やイライラ、やる気や集中力の低下、不眠などに繋がりやすくなると考えられます。

秋バテの3つ目の原因である「消化機能の低下」は、栄養不足も招きやすいので要注意です。暑いからといって冷たいものを摂り過ぎると胃腸が冷え、消化器系の働きが悪くなりやすくなります。この結果、食欲がなくなり、栄養を十分に摂ることができなくなって、疲労倦怠感が起こりやすくなるという悪循環に陥るのです。

食事、運動、冷え対策で
心身の不調を防ごう

心身ともに秋バテの症状に悩まされた場合には、先に挙げた3つの原因のいずれかに該当していないか生活を振り返り、改善を心掛けましょう。

特に、生活の中で大切にしたいポイントは以下のとおりです。

■多くの種類の食品をしっかり食べる

日本の伝統的な食材の頭文字を合わせた「まごわやさしい」という言葉を聞いたことがある人は多いかもしれません。この言葉に含まれる食材、「豆類」「ゴマ」「ワカメ(海藻類)」「野菜」「魚」「しいたけ(キノコ類)」「芋類」は、ぜひ毎日の食事に万遍なく取り入れるよう心がけましょう。

スタミナをつけるためには、ビタミンB群を多く含むウナギや肉類などもおすすめです。腸内環境を整えるためには、腸内細菌のエサとなる食物繊維などを豊富に含む食材に加えて、納豆やキムチなどの発酵食品も積極的に取り入れると良いでしょう。

多くの種類の食品をしっかり食べる
■生活リズムにメリハリをつける

自律神経の乱れを防ぐためには、日中はしっかり活動し、夜はリラックスして過ごすといったメリハリのある生活を送ることが大切です。毎日できるだけ決まった時間に起床し、日光を浴びる習慣をつくりましょう。有酸素運動や筋トレなどを行って体をしっかり目覚めさせるのも効果的です。

歩く、走る、サイクリングする、といった一定のリズムを保ちながらできる運動には、セロトニンの分泌を促す作用があります。抑うつ感などが気になる人は取り入れてみましょう。

■体を冷やさない

急に冷え込むことが多い時期ですが、特に太い頸動脈のある首まわりは、冷えると血流が滞りやすくなるので注意しましょう。ネックウオーマーやスカーフ、マフラーなどで温めることで血液が温まり、全身の血流が良くなる効果が期待できます。

また、足先の冷えも血液の循環を悪くする要因の一つです。冷えを感じたらレッグウオーマーで足首を覆うなどの対策を行いましょう。

夜は入浴して体を温めるようにしましょう。40℃程度のぬるめのお湯に浸かると副交感神経が優位になり、眠りにつきやすくなるというメリットもあります。

季節の変わり目は、体調と心のバランスを整えて、健やかな生活を送りましょう。

体を冷やさない
桐村 里紗 tenrai株式会社代表取締役医師

内科医・認定産業医。愛媛大学医学部医学科卒業。臨床現場において最新の分子整合栄養医学やバイオロジカル医療、腸内フローラ研究などをもとにした予防医療、生活習慣病から終末期医療まで幅広く診療経験を積む。近著『腸と森の「土」を育てる〜微生物が健康にする人と環境』のほか『日本人はなぜ臭いと言われるのか~体臭と口臭の科学』(ともに光文社新書)などの著書がある。

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