健康マメ知識
2020.07.22

在宅時間を快適に過ごそう

~心地よい環境づくりのポイント~
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在宅勤務が広がったことから、家で過ごす時間が長くなった人も多いのではないでしょうか。そうなると気になるのが、家の中の環境です。在宅勤務の能率アップや、食事やリラックスタイムを心地よく過ごすためには、室内の環境を整えることが大切です。蒸し暑くなる季節には、室内における熱中症対策も重要です。快適で健康にも良い室内環境の整え方を、東京都立大学の須永修通名誉教授に伺いました。

「快適」とは、暑くも寒くもない状態
理想は「頭寒足熱」

「暑い」「寒い」の感じ方は人それぞれ違うものです。では、どのような状態を「快適」と言うのでしょうか。

須永教授によれば、室内の快適さには3つの状態があります。1つめは「暑くも寒くもない状態」。周囲の温度が高すぎたり低すぎたりすることがなく、空気の流れもない状態です(英語で表すと「comfortable」)。
2つめは「ああ、気持ちがいいと感じる状態」で、例えば夏、お風呂上がりに涼しい風に吹かれた時です。喜びや楽しさが感じられる状態です(英語で表すと「pleasantness」)。
3つめは、「足元が温かい状態」です。1,000人を対象に行った実験では、被験者が「暑くも寒くもない」と感じた時の温度は、床の表面温度が26℃、頭部のあたりの空気温度が21~22℃という結果が出ています。多くの人は足元が温かく、頭のあたりが涼しい「頭寒足熱」の状態を「快適」と感じていることが分かります。
単に「暑くない」「寒くない」から、「気持ちいい!」と感じる環境へ。さらに、人間の体に合った「頭寒足熱」となるよう室内環境を調節することが、快適な暮らしを手に入れるための基本となります。

快適さの要素は6つ
目標値を知ってこまめに調節を

室内環境には、6つの要素が関係しています。「温度」「湿度」「気流速」「表面温度」「着衣量」「代謝量」です。そのうち前半の4つは建物や部屋に関連する要素、後半の2つは人間に関連する要素となります。この6つの要素を適正な数値に調整することが、快適な室内環境を手に入れるカギとなります。

■心地よい室内環境をつくる6つの要素 心地よい室内環境をつくる6つの要素

6つの要素の目標値(※)

(※)
参考文献:『あたたかい暮らしのヒミツ』(旭化成建材 適空間研究所,エクスナレッジ,2020年5月)

  • 温度 27〜28℃
    夏の室温は27〜28℃が理想です。室温が30℃を超えると熱中症の危険が高まるため、エアコンを適切に使い、室温を27〜28℃に保ちましょう。
  • 湿度 70%以下
    夏は、湿度を70%以下にすることが必要です。暑いと汗をたくさんかきますが、発汗以外にも皮膚からは常に水分が蒸発しています。湿度が高いと、体から水分が蒸発しにくくなり、体に熱がこもって熱中症のリスクが高まります。

熱中症の危険度は「暑さ指数(WBGT)」という指標で測ります(環境省https://www.wbgt.env.go.jp/wbgt.php)。同じ気温でも、湿度が高いほど危険度は高くなり、湿度が70%を超えると厳重な警戒が必要となります。逆に、暑くて汗をかいても湿度が低ければ、体から水分は蒸発し、皮膚から気化熱を奪って涼しく感じられます。
実は、熱中症の多くは屋内で発生しています。温度感覚や体温の調節機能が低下した高齢者は、特に注意が必要です。湿度が高い日はエアコンを活用しましょう。エアコンには除湿機能があるので、設定温度を28℃〜29℃と高めにしても湿度は高くならず、熱中症予防に効果的です。
湿度は低ければ良いというわけではなく、40%〜70%に調整することが大切です。70%を超えるとカビやダニが発生しやすくなり、湿度が40%を下回ると細菌やウイルスが繁殖しやすくなります。乾燥する冬場は湿度低下に注意が必要です。

  • 気流速 0.5m/s以下
    風があれば涼しく感じられますが、扇風機やエアコンの風を同じ方向から、同じ風力で長時間、体に当てるのは良くありません。体が冷えたり、風邪をひいたりする原因になります。
    エアコンをかけて扇風機で風を送る場合、扇風機の風力は0.5m/hを目安にしましょう。これは、そよ風くらいの微かな風です。扇風機は首振りにする、1/fゆらぎモードに設定するなど、同じ方向から当たり続けないようにします。
  • 表面温度 室温+2℃以下
    表面温度とは、壁や天井、床、窓など室内側の表面の温度のことを指します。例えば、集合住宅で西側に外壁がある場合、夏は夕方16時頃に一番強い日差しが壁の外側に当たります。その日差しの熱がじわじわと壁の中を伝わって、夜の20〜22時頃に壁の室内側の表面温度は高くなります。

熱くなった壁や天井からは、放射熱( 輻射熱 ふくしゃねつ )が放出されます。そうすると体は空気温度よりも暑く感じます。例えば、空気の温度が28℃であっても、室内の表面温度が32℃あると、体は空気の温度がその平均値である30℃くらいあると感じます。
「エアコンをつけて28℃にしているから大丈夫」と思っていても、壁や天井などからの放射熱で体感温度が高い場合には、熱中症の危険も高まります。
表面温度と空気の温度の差を2℃以下にすれば、体感としての室温の上昇は1℃程度に抑えられ、不快さや熱中症のリスクも低くなります。外からの日射を遮る、換気をするなどの工夫を心掛けて、表面温度の上昇を防ぎましょう。

  • 着衣量
    体感温度は服装で変わります。室温28℃で快適に過ごすには、半袖とハーフパンツ、ワンピース、27℃の場合は半袖と薄手のロングパンツ、ロングスカートなどがおすすめです。
  • 代謝量
    人の体は代謝によって、常に熱を発しており、発熱量は活動によって増減します。室温27〜28℃は、座ってテレビを見たり、デスクワークをしたりするのに適した温度です。料理、掃除、エクササイズのように、活動量が増えると体感温度も上がるため、服装や室温、気流(扇風機の使用)などで涼しくなるよう調整しましょう。

涼しく過ごすための工夫
を取り入れよう

チェックポイント 

  • 温湿度計を置いて、チェックする習慣をつける
  • 強い日差しは、家の外側の日除けで遮断する
  • 窓を2ヵ所開けて、風の通り道をつくる
  • 風やアイシング(保冷剤などで首の後ろや脇を冷やす)で体温を下げる
  • 温湿度計を活用
    温度と湿度を測れる温湿度計を部屋の中に置いて、チェックする習慣をつけ、上手にコントロールしましょう。特に、熱中症のリスクは湿度の影響が大きいので、「室温は低いけれど、湿度が高いからエアコンをつけて除湿しよう」などの対応ができます。
    温湿度計は部屋の中央付近に、床から1mほどの高さに取り付けると、体感温度に近い数値を測ることができます。日射やエアコンの風が当たらない場所に設置しましょう。
  • 日差しは家の外で遮る
    強烈な日差しは窓ガラスを通過して入ってきます。窓の内側にブラインドや遮光カーテンがあっても、そこに当たった日射は熱に変わり、室内側に伝わり室温が上昇するので、窓の外側で遮ることが効果的です。太陽高度の高い昼間の日差しを遮るには、南向きの窓ではひさしが有効です。庇がない場合は、外付けのブラインドやオーニング(日除けのシェード)、よしず(ヨシの茎で編んだ立てかけ式の日除け)などを利用しましょう。これらは、朝と夕方に低い位置から日差しが入る東向き、西向きの窓にも有効です。
  • 風の通り道をつくる
    外からの日差しを防ぐと同時に、換気をして温度と湿度を下げましょう。人の体や家電、パソコンなど、家の中には熱源がたくさんあります。こもった熱は外に出しましょう。
    窓は2ヵ所開けて、風の入口と出口を作ることが大切です。換気効率が良いのは、できるだけ室内の対角線になる位置の2つの窓を開けて風を通すことです。また、暖かい空気は上昇するので、1ヵ所は地面に近い窓、もう1ヵ所は高いところにある窓を開けるのも効率的です。外の気温や湿度が室内より高くなったら、窓は閉めましょう。
  • 体温を下げる工夫を
    暑い時は我慢せず、エアコンを使いましょう。エアコンには除湿効果もあり、熱中症対策に有効です。体温を下げるには、血流量の多い頭の回りを冷やすと効果的です。扇風機の風を首振りにして頭の方に当てたり、首の後ろを冷やしたりするのも良いでしょう。

室内環境が良いと、
暮らしにゆとりができる

快適に過ごせるようになると、心にゆとりが生まれ、リラックス度が増すことが分かっています。体へのストレスも減らすことができ、熱中症をはじめ、暑さからくる睡眠不足や血圧の上昇などのリスクも抑えることができます。また、仕事や勉強、家事の効率も上がります。室内環境を見直して、できることから取り組んでみましょう。

須永 修通 東京都立大学名誉教授、一級建築士

1977年、東京都立大学工学部建築工学科卒業。同大学助手、オーストラリア・シドニー大学客員研究員、首都大学東京(現・東京都立大学)都市環境科学研究科建築学域教授、日本太陽エネルギー学会会長などを経て2020年4月より東京都立大学名誉教授。専門分野は建築環境学、特に人体の温熱快適性、省エネルギー、バイオクライマティックデザイン(建築的手法と自然エネルギー活用による快適建築デザイン手法)。著・編書に『あたたかい暮らしのヒミツ』(旭化成建材 適空間研究所,エクスナレッジ)、『設計のための建築環境学 ~みつける・つくるバイオクライマティックデザイン~』(日本建築学会、彰国社,2011年5月)、『建築設計資料集成(総合編,環境編)』(日本建築学会、丸善出版)などがある。

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