食で健康
2021.05.14

成功する「糖質制限」のコツ

~糖質の控え過ぎはNG。目指すは「糖質マイナス100g」~
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「糖質制限」は、ダイエット方法の1つとして知られています。糖質を摂りすぎると肥満や生活習慣病などのリスクを高める要因になりますが、極端な糖質制限を続けると、かえって健康を損ねることが、さまざまな研究などから分かってきています。糖質の摂取と生活習慣病との関係や、健康やダイエットのために理想的な糖質制限方法を、灰本クリニックの灰本(はじめ)院長と同院管理栄養士の渡邉志帆さんに伺いました。

極端な糖質制限は
逆効果!?

糖質(炭水化物)、たんぱく質、脂質という3つの栄養素のうち、私たちの体のエネルギー源となるのは糖質と脂質で「エネルギー産生栄養素」と呼ばれています。
このうち、糖質はブドウ糖や果糖などの単糖から構成されているもので、米やパン、麺類などの穀物や果物、甘い飲食料などに多く含まれています。

「糖質制限」というと、「一定期間、糖質を一切摂らないようにする」など極端な食事制限をイメージしたり、実際に行ったりする人も少なくないようです。

しかし、前述のとおり、糖質は体のエネルギー源として不可欠なものですので、制限し過ぎると、かえって健康を損ねることになりかねません。

米国ハーバード公衆衛生大学院が2010年に発表した論文では、心臓病、がん、糖尿病に罹患していない医療関係者の男女13万人を20年間以上追跡して、高糖質食(総摂取カロリーの60%程度)の人々と、低糖質食(総摂取カロリーの35~37%程度、およそ朝食と夕食の糖質を完全に制限した場合に相当する)の人々に分けて比較したところ、総死亡リスクは低糖質食の方が12%高いという結果が報告されています。

この報告から、極端に糖質を制限するのは健康を損ねる可能性もあるということが読み取れます。

糖質の摂り過ぎが
肥満や生活習慣病を招く理由

極端な糖質制限は望ましくありませんが、糖質の摂り過ぎが健康上良くないことも明らかです。糖質を摂り過ぎると体の中でどのような変化が起こるのか、まず知っておきましょう。

糖質を摂ると血糖値が上昇し、すい臓からインスリンというホルモンが分泌されます。インスリンには、糖を筋肉細胞や肝臓の細胞や、脂肪細胞に取り込むことで血糖値を下げる働きがあります。

肝細胞や脂肪細胞に取り込まれた血糖は、インスリンの作用によって中性脂肪に代謝され、血液中の中性脂肪が増え、肝臓や脂肪細胞に中性脂肪が蓄積されます。こうした状態が続くことで、肥満や糖尿病、脂質異常症、脂肪肝などの生活習慣病が発症します。一方、運動すれば血糖は筋肉細胞に取り込まれて消費されるので、これらの疾患を予防できます。

一方、脂質をいくら摂取しても血糖値は上がらず、インスリンが分泌されないので、肝臓や脂肪細胞で中性脂肪の合成は起こりません。つまり、肥満イコール脂質摂取という連想は間違いです。生化学的には糖質の摂取が血糖値を上げインスリンを分泌し、肥満や糖尿病などに繋がるというのが正しい知識です。

まずは自分の普段の糖質摂取量を
把握することが大切

生活習慣病の予防やダイエットなど糖質制限の目的は人によってさまざまですが、適切に糖質を摂取していくためには、自分が普段どのくらいの量の糖質を摂取しているのかを知る必要があります。

日本人の糖質の平均摂取量は約300g/日ですが(消費者庁『栄養素等表示基準の改定に関する調査事業報告書』<令和2年>)、当院の栄養調査では180~650gまで幅広く分布しており、個人差があります。

まずは下記の表を参考に、3日分の朝食、昼食、夕食、間食のすべてを記録し、大まかな糖質量を調べて1日の糖質の総量を計算してみましょう。
主な献立や食品の糖質量は、以下の食事日記を参考にしてください。下記のサイトなどで調べることもできます。

1日分の調味料に含まれる糖質量はおよそ20~30gなので、上記の糖質量にそれをプラスしましょう。
3日間を終えたら、3日分の合計を3で割り、自分の1日あたりの糖質量の平均値を出します。

灰本クリニックホームページ 食品別、献立別の糖質含有量一覧
日本ローカーボ食研究会ホームページ 食品別、献立別糖質含有量一覧

■3日間の食事日記記入例 3日間の食事日記記入例

無理なく安全に続けるために
「糖質マイナス100g」を目指そう

糖尿病などの疾患がなく、また短期間で減量をする必要もない場合などは、今の摂取量から1日で50~100g程度の糖質を減らす緩やかな糖質制限食が、無理なく安全に続けるコツです。具体的には次のような方法で行うと良いでしょう。

  • 主な食品に含まれる大まかな糖質量を覚える。
    上記の3日間の食事日記を参考に、主な食品に含まれる大まかな糖質量を覚えましょう。例えばご飯一杯55g、ラーメン一人前70g、ソフトドリンク200mlに20g、ケーキ一個30g、饅頭一個25gなど。詳しくは灰本クリニックホームページなどをご覧ください。
  • どこの食事から糖質を減らすかを決める。
    主食や間食の糖質量は特に個人差が大きいため、どこから減らすと自分にとって継続しやすいかを考える。まずは、ソフトドリンク、次にお菓子やスナックをやめることがお勧めです。
  • 糖質の制限目標は徐々に緩めていくことがコツ!
  • 主食を抜く場合は夕食に実行する、その次に糖質の多い間食も控える。
    インスリンの分泌量が減ることで中性脂肪の分解が進み、内臓脂肪が減少しやすくなります。

    糖質が少ない間食のお勧めはこちら。
    (間食したい場合はナッツやチーズ、ゆで卵、ツナマヨ、ビーフジャーキー、ハイカカオチョコレートなどがお勧め)

糖質を制限すると血糖値は着実に下がりますが、体重の減少には個人差があり、誰もが必ずしも減量に成功するとは言えない面があります。

ダイエットを目的にするのなら、短期集中で1日1~2食分の主食や間食の糖質を完全に抜くようにすると効果が期待できるでしょう。ある程度厳しく糖質制限をして体重を落としてから、少しずつ糖質制限を緩めていくのがお勧めです。

ただし、1日2食の糖質制限から1食の糖質制限へ緩めると1~2㎏のリバウンドが起こり、食生活を完全に元に戻せば体重も戻ります。できれば目標体重よりもさらにマイナス1~2kg減量するよう心掛けると良いでしょう。糖質制限に加えて、運動も行うとより効果的です。

なお、日本人35万人を12.5年間追跡した研究において、最も死亡リスクが少ないのは40歳以上の女性ではBMI(※)が21.0~26.9、男性では23.0~29.9なので、BMIが21.0以下の女性と23.0以下の男性には減量をお勧めできません。

(※)BMI:体重kg÷身長m÷身長m

減らした糖質の分のカロリーは、
脂質でしっかり補う

緩やかな糖質制限を行う際には、減らした糖質分のカロリーを、しっかり脂質で補うことが大切です。

従来、脂質摂取は健康に良くないと言われてきましたが、近年、複数の大規模な研究から日本人では脂質摂取が多いほど(動物性脂肪や植物性脂肪の多少にかかわらず)死亡リスクが少ないことが明らかになってきました。

茶わん1膳分のご飯(糖質量約50g)を減らす場合は、それと同等のカロリーを含む大さじ2杯分(約22g)の油(マヨネーズなら大さじ2.5杯)を増やすのが一つの目安となります。
サバやサンマなどは、天然より養殖の方が脂質を多く含みます。

糖質を制限しているうえに脂質も控えるような食生活だと、1回ごとの食事の満足度も低くなり長続きしません。結果的に、我慢できずに炭水化物を食べ過ぎてしまう例は少なくありません。

また、脂質摂取をしないで糖質制限を続けると体のエネルギー源が不足し、脳や体の働きが低下しやすくなるというリスクもあります。糖質制限を行った分のエネルギー不足を、脂質摂取を増やすことによって補うのは緩やかな糖質制限食の原則です。つまり、糖質制限食は高脂肪食なのです。

もし、糖質制限を行っている間、夜中にお腹がすくようなら、それは夕食の脂質摂取が不足しており、糖質制限食がうまくできていないことを示しています。

糖質制限は、正しい知識を持って、無理をせずに行いましょう。

灰本 元 灰本クリニック院長

1978年名古屋大学医学部卒業。NTT東関東病院内科、名古屋大学医学部大学院病理学、愛知県がんセンター研究所などを経て灰本クリニックを開業。2010年ローカーボ食(糖質制限食)の啓発や研究を目的としてNPO法人日本ローカーボ食研究会を設立。糖質制限食について多くの学術論文を海外専門誌に発表し、『正しく知る糖質制限食』(技術評論社)『ゆるやかな糖質制限食による2型糖尿病治療』(風媒社) 『医師が実践するおいしい糖質オフレシピ216』(西東社)などを発刊。

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渡邉 志帆さん 灰本クリニック管理栄養士

名古屋経済大学管理栄養学科卒業。長く続けられるローカーボ食を提案し、糖尿病と肥満の治療、低体重患者の栄養管理の指導を行う。NPO法人日本ローカーボ食研究会事務局を兼務。『医師が実践するおいしい糖質オフレシピ216』(西東社)を灰本氏とともに監修。

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