健康マメ知識
2017.09.08

生体リズムを整えて、快適な生活を送る

~メタボや糖尿病など生活習慣病を防ごう~
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人間をはじめ、地球上のあらゆる生物に備わっている「生体リズム」。その仕組みについての研究が進み、生体リズムの乱れが心身の不調や病気に密接に関係していることが分かってきました。とかく生活が不規則になりがちな現代社会で、生体リズムを整え、健康を保つためにはどのように過ごしたらよいのでしょうか。生体リズムが乱れる原因とその改善のポイントについて、東京女子医科大学 特定関連診療所 戸塚ロイヤルクリニック院長の大塚邦明さんにお聞きしました。

体の中には
親時計と子時計がある

夜暗くなると眠くなり、朝になると目が覚める。朝・昼・夜と、毎日だいたい決まった時間におなかがすく……。このように決まった周期で体の働きを変動させる「生体リズム」が私たちの体には備わっています。

生体リズムには、秒単位で刻まれる心拍や呼吸から、年単位のものまでさまざまな種類があります。中でも特に健康に深く関わっているのが、地球の自転に伴って約24時間周期で刻まれる「サーカディアンリズム(概日リズム)」で、一般的には体内時計とも言われています。

サーカディアンリズムは睡眠・覚醒のサイクルをはじめ、自律神経やホルモン、体温や血圧など体の基本的な動きを約24時間のリズムで変動させています。例えば、日中、心身ともに活動的になるのは、自律神経の一つである交感神経の働きが高まるためです。一方、夜になるともう一つの自律神経である副交感神経が優位になり、心身をリラックスさせて眠りにつきやすい状態へと導きます。

このサーカディアンリズムを刻んでいる体内時計には次の2つの種類があります。

  • 親時計
    脳の 視床下部視交叉上核 ししょうかぶしこうさじょうかく にある時計。
    外部からの刺激(朝日などの光)を受けてリズムを調節。そのリズムは神経やホルモンなどの伝達系を介在して、複数の子時計に伝わります。
  • 子時計
    心臓・血管・肝臓・腎臓・皮膚・粘膜など、ほとんどの 末梢 まっしょう 組織に存在する時計。
    数十兆あるといわれる人間の細胞のうち、親時計の指揮に合わせて時を刻む働きと、それぞれに独立して時を刻み、代謝などを促進する働きの2つをもっています。

親時計と子時計は下図のように自律神経やホルモンを介在して連動し、日中の活動や夜間の睡眠、体温などの生体リズムを調整しています。

人体の生体リズムを調整している体内時計の仕組み

※図は大塚邦明先生の取材を元に作成。

生体リズムを乱す大きな原因は
夜に浴びるブルーライトにあり

体内時計は、数億年前に地球上に誕生した生物が一番初めに獲得した「生きるために必要な体の仕組み」と考えられています。植物は太陽が昇る時間に合わせて効率よく光合成を行うため、小動物や昆虫は外敵の少ない夜間に行動して身を守るために太陽光を利用した体内時計をもっています。

人間もまた太陽の動きに伴って生体リズムを刻んでいますが、その周期は地球の自転より少し長いことが分かっています。なぜ時間がずれているのか、その理由はまだ解明されてはいませんが、長い歳月をかけて少しずつ遅くなっている地球の自転に適応し、生体リズムを保持するために体そのものが変化したのではないかと考えられています。

その結果、活動開始の時間帯に光を浴びると体内時計の針は前に進み、休息開始の時間帯に光を浴びると後退するという仕組みが出来上がりました。このため、朝起きてしっかり光を浴びると体内時計は24時間にリセットされます。反対に、夜にスマートフォンやパソコンなどのブルーライトに代表される強い光を浴びると26時間周期にずれてしまうなど、生体リズムが乱れる要因となるのです。

不眠による生体リズムの乱れが
深刻な病気を招くことも

生体リズムの乱れは、メタボリック症候群や糖尿病などの生活習慣病をはじめ、がんやうつ病、老化などの要因となることが多くの研究で明らかにされています。

例えば、ある特定の時計遺伝子を細胞から取り除いたマウスでは、正常なマウスよりも発がん率が高まり、がんの成長速度も速くなり、早期に死んだというデータがあります。時計遺伝子には、時を刻むだけでなく、病気を防ぎ、健康を維持する役割もあるのです。

日中浴びる紫外線は細胞のDNAを攻撃して損傷させます。しかし、体の中には時計遺伝子と連動した「細胞周期」というDNAの傷を自動的に修復する仕組みがあり、細胞分裂の過程で時計遺伝子が傷を見つけ出すと、夜眠っている間に修復して元に戻してくれるのです。

万が一、修復できなかった場合はがん細胞の種になります。その種から芽が出ることもありますが、免疫の働きによって芽を摘み取り、がんを防ぐ力が体にはあります。免疫の機能は、夜、きちんと眠れば眠るほど高まります。

ところが、不規則な生活で生体リズムが崩れると「細胞周期」のがんを防ぐ力が乱れます。さらに免疫の機能も低下します。がん細胞の芽を摘むことができなくなり、結果、がんを引き起こす要因になっていくのです。

また、血圧や血糖値にもサーカディアンリズムがあり、それぞれ昼間は高くなり、夜は低くなります。しかし体内時計が乱れると夜でも血圧が高くなったり、夜眠れないことでホルモンバランスが乱れて血糖値を上げてしまったりすることもあります。

さらに不眠は自律神経やホルモンに作用して食欲を増進させ、体重を増やす要因にもなるので注意が必要です。

生体リズムを整える
リセット術

とはいえ、夜遅くまで残業しなければならない、体は疲れているのになかなか寝つくことができないなど、どうしても生活が不規則になってしまうという人も多いでしょう。そのような場合は、1週間のうち1日か2日だけでも生活のリズムを意識的に整えれば、乱れた体内時計をリセットすることが可能です。ポイントは下記のとおりです。

週に1~2回のリセット術
  • 毎週同じ曜日に体内時計のリセットを実行する
    週に2日行う場合は、日曜と水曜など3.5日周期の生体リズムを意識するとより効果的です。
  • 体内時計のリセットを実行する日は起床時間を一定にする
    6時~7時の間に起きるのがベスト。眠りを促進するホルモンのメラトニンは起床から約15時間後に分泌されるので、早寝にもつながります。
  • 就寝時間もできれば決める
    難しい場合は、就寝時間はバラバラでも構いませんが、起床時間は守りましょう。

さらに、次のような朝の過ごし方も体内時計を整えるうえで有効です。

朝の過ごし方のポイント
  • 朝起きたらカーテンを開け、明るい日差しを十分に浴びる
    体内時計の針を調整するのに最も有効なのが朝の光です。
    散歩など、軽い運動を行うのも効果的です。
  • 朝食は起床後1時間以内にとる
    朝食をとることはサーカディアンリズムを正常に整える効果があります。
  • 朝食は糖質をとる
    脳のエネルギー源のほとんどを占めるのが糖質です。1日存分に活動するためにも、米やパン、トウモロコシなどの穀類を必ずとりましょう。緑黄色野菜や少量のたんぱく質も併せてとるとなお良いでしょう。また、朝食の量が多いほど、体内時計の針を合わせる力が強くなります。

さらに、日中はできるだけたくさんの光を浴び、十分な運動を行うと、夜のメラトニンの分泌が促進され、不眠の予防につながります。

生体リズムの乱れから生じた肥満や糖尿病などの生活習慣病は、生活のサイクルを改善し、体内時計の乱れをリセットすることで、数週間のうちに軽快するという研究結果もあります。上記に挙げた方法を日常生活に取り入れて生体リズムを整え、健康な体をキープしましょう。

大塚 邦明 東京女子医科大学 特定関連診療所 戸塚ロイヤルクリニック 院長

九州大学医学部卒業後、九州大学温泉治療学研究所助手などを経て、東京女子医科大学東医療センター内科教授、同センター病院長を歴任。2013年、東京女子医科大学名誉教授に就任、時間医学老年総合内科(寄附臨床研究部門)を主宰。15年より現職。医学博士。時間医学・老年医学が専門。『時間医学とこころの時計 心身ともに老化を遅らせ、健康に導く』(清流出版)ほか著書多数。

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