健康ライフ
2020.08.28

白筋はっきん」を鍛えて不調を解消

~自宅でできる自体重トレーニング~
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テレワークの普及によって家にいる時間が長くなり、運動不足を感じている人は多いのではないでしょうか? 筋肉を使う機会が少なくなると筋肉量が減少し、筋力が低下します。慢性的な疲労感や冷えといった不調はもちろん、生活習慣病や要介護のリスクを高める要因になるので注意が必要です。特に年齢とともに衰えやすい「白筋」は意識的に鍛えたいものです。白筋の働きや効果的なトレーニングについて順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科の町田修一教授に伺いました。

持続力の赤筋せっきん
瞬発力の白筋

筋肉量や筋力が低下すると、慢性的に疲れを感じたり、筋肉で熱を産生する力が弱くなることで体の冷えが強くなったりするなど、さまざまな不調が生じやすくなります。将来的には、運動器の機能が衰えて要介護や寝たきりのリスクが高まるロコモティブシンドロームや、筋肉量の減少および全身の筋力や身体機能の低下が生じるサルコペニアにつながる恐れもあります。

良い姿勢を保つことや、歩く、走る、立つ、座るなどの日常生活における動作には、骨格筋が関わっています。骨格筋とは、文字どおり骨に沿って付着している筋肉で、胃や腸、心臓などの臓器の筋肉とは異なり、自分の意思で動かすことができるのが特徴です。

骨格筋は筋線維と呼ばれる細い組織が集まってできており、筋線維が収縮することで筋肉が動きます。

そして、この筋線維には「赤筋」と「白筋」の2種類があり、筋線維の収縮のスピードによって、赤筋は「遅筋ちきん」、白筋は「速筋そっきん」と分類される場合もあります。

赤筋と白筋、それぞれの違いを知るための分かりやすいイメージとして、海の魚を思い浮かべてみましょう。

赤筋はマグロやカツオなどの赤身の魚、白筋はヒラメやハマチ、カレイなどの白身の魚に例えられます。

遠海を周遊するマグロやカツオは、泳ぐスピードはそれほど速くありませんが、長距離を泳ぎ続ける持続力があります。

一方、近海や海底にいるヒラメやハマチ、カレイなどはすばやく動いて獲物を捕らえるといった瞬発力に優れています。

このように、赤筋は大きな力を出すことはあまり得意ではありませんが、持続的に動き続けることができます。一方で、白筋は大きな力を出すことや瞬発力を発揮することを得意としています。

ヒトの骨格筋は、赤筋と白筋がそれぞれ筋肉の中に分布しており、筋肉に占める赤筋と白筋の割合は、人により異なります。

一般的に、現代人は歩く時など小さな力で持続的に動く時によく使う赤筋よりも、瞬発力を要する白筋のほうが動かす機会が少なく、衰えやすい傾向にあります。

日常生活の中で
白筋を鍛えるコツ

白筋は、日常生活の中においては、主に次のような動作の時によく使われます。特に体を動かし始める時に大きな力を発揮する筋肉だと覚えておきましょう。

  • 急に立ち止まったり、歩き出したりなど、動きの速度を変える
  • しゃがんだ状態から立ち上がる
  • 横になった状態から起き上がる
  • 階段を上り下りする

昔のように、座卓で食事をしたり、毎晩布団を敷いて寝ていた時は、白筋を使う機会が多くありました。しゃがんで立ち上がるという動作を必ず行う和式トイレなども同様です。

しかし近年は、食事はテーブルとイス、寝るのはベッド、トイレは洋式、といった生活スタイルの変化と共に、白筋を使う機会も減ってきました。白筋を鍛えるためには、日常生活の中で意識的に体を動かす必要があります。

例えば、テレビを見ながら、お尻が床につくくらいまでゆっくりしゃがんで、またゆっくり立ち上がるのを繰り返し行うのも良いでしょう。

また、昔ながらの四つん這いの体勢で雑巾がけをするのも、とても良いトレーニングになります。筋力が弱っている人なら、四つん這いの体勢から立ち上がるだけでも白筋を鍛える効果が期待できます。雑巾がけもゆっくり行うことで筋肉への負荷が高まり、筋力アップにつながります。

日常的に歩く習慣をつけることは健康維持のためにも欠かせませんが、特に歩くことが習慣になっている人にとって、白筋を鍛えるためには、ただ歩いているだけでは不十分である可能性があります。歩いている途中で意識的にストップをかけて、その後また歩き出すという動作をプラスしたり、あるいは時折歩く速度を速めたりといったように、緩急をつけるようにするのがおすすめです。また、坂道や階段なども、積極的に歩くようにしましょう。

スクワットとクランチで
衰えやすい2大筋力を鍛える

「いつでも、どこでも、誰とでも、手軽にできる」トレーニングとして、さらにおすすめしたいのが「スクワット」と「クランチ」です。これらのトレーニングは自分の体重によって体に負荷をかけることから、「自体重トレーニング」と呼ばれています。

スクワットとクランチがなぜ良いのかというと、全身で最も筋力・筋肉量が落ちやすい太ももの前側の筋肉(大腿四頭筋だいたいしとうきん)と、次に筋肉量が落ちやすい腹筋をそれぞれ効率よく鍛えることができるからです。

いずれもゆっくりした動作で、止めずに連続して繰り返し、太ももやお腹など使っている筋肉が「ややきつい」と感じる程度に行うことが大切です。普段よりも強い負荷(過負荷)をかけることで筋力アップにつながります。

もし1種目だけ選ぶなら、スクワットを行いましょう。2種目できるなら、クランチをプラスしましょう。

それぞれの方法とポイントは次のとおりです。

■スクワット
  • 足を肩幅と同じくらいに開いて立ち、両手を腰に当てる。
  • 視線を前方に向け、背中とすねを平行に保ちながら、3秒かけてゆっくり腰を下ろす。
  • 太ももと床が平行になったら少し止め、3秒かけて元に戻す。
  • ゆっくりした動作で目安として10~15回程度連続して行う。ただし、例えば5回で「ややきつい」と感じたのであればそこでやめてOKです。徐々にできる回数を増やしていきましょう。
ポイント
  • 背中が丸まらないよう、背筋を伸ばして行いましょう。
  • しゃがむ時に、膝をつま先と同じ向きに揃えましょう。
  • 膝がつま先より前に出ないよう、腰をしっかり後ろに引きましょう。
■クランチ
  • 膝は軽く曲げた状態で、仰向けになり、足裏、お尻、背中を床につける。
  • 手のひらは太ももの上に置き、息を吐きながら3秒かけて背中の上側を持ち上げる。
  • ②の状態で少し止めてから3秒かけて元に戻す。
    ゆっくりした動作で目安として8~10回程度連続して行う。ただし、例えば5回で「ややきつい」と感じたのであればそこでやめてOKです。徐々にできる回数を増やしていきましょう。
ポイント
  • 慣れるまでは肩の後ろにクッションや枕などを当てて行うと体を起こしやすく、首や肩に力が入り過ぎるのを防ぐことができます。スムーズにできるようになったらクッションや枕を外しましょう。
  • 背中を上げる時は、背中の下側を床に押し付けるようにしましょう。背中を上げ過ぎると、腰に負担が掛かりやすいので、要注意です。

2種目を行う場合は、スクワット→クランチ→スクワット→クランチの順で1日2セット行いましょう。あまり運動習慣がなく、筋力が低下している人の場合は、1日2セットを週に2回、2週間程度続けてみましょう。「スクワットやクランチの回数を増やせるようになった」「楽に体を動かせるようになった」など筋力がついてきたという実感が得られるはずです。

さらに慣れてきたら、スクワットを10回行った後に1分休んで、またスクワットを行うというように、同じ種目を2~3セット繰り返すと、より高い筋力アップ効果が期待できます。

ただし、回数を増やそうとするとつい動作が速くなりがちです。あくまでもゆっくり体を動かし、筋肉にしっかり負荷をかけることを忘れないようにしましょう。

なお、正しいトレーニングの方法については下記サイトで紹介されている動画もぜひ参考にすると良いでしょう。

順大さくら〝筋活″講座~ロコモ予防運動プログラム~

筋力不足は不調や老化のもと
鍛えれば必ず筋力はアップ!

ロコモティブシンドロームやサルコペニアといった運動機能の低下を防ぎ、いつまでも自分の思い通りに体を動かし元気に過ごすためには、楽しみながらトレーニングを続けていくことが欠かせません。

筋肉は何歳になっても鍛えることができます。たとえ80代、90代になってもきちんとトレーニングを行えば、筋力をアップすることは可能です。できることから着実に続けていきましょう。

町田 修一 順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科教授

医学博士。1991年、東京学芸大学教育学部卒業。93年同大学大学院教育学研究科修士課程修了。ミズーリ大学コロンビア校博士研究員、日本学術振興会特別研究員、早稲田大学生命医療工学研究所講師、東海大学体育学部生涯スポーツ学科准教授、順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科先任准教授、順天堂大学COIプロジェクト室准教授(併任)を経て、2018年より現職。

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