知っておきたい病気・医療
2024.04.12

ドライアイは「油」がポイント!

~最新の治療と対処法を知ろう~
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国内に約2,200万人の患者がいると推定されるドライアイ。目の乾燥以外にもさまざまな症状をきたし、生活の質を下げる病気です。従来は目の水分不足と考えられていたドライアイですが、最近は涙に含まれる油が重要であることが分かり、新たな治療方法も登場しています。ドライアイの最新情報について、伊藤医院副院長の有田玲子先生に伺いました。

ドライアイの8割以上は 
涙の「油不足」が原因

ドライアイは、涙の量の減少や質の低下によって、目の表面全体に涙が行き渡らなくなり、目の乾燥などの症状が生じたり、角膜に傷が付いたりして、生活の質に影響を及ぼす病気です。

涙は本来、目の表面を覆って角膜を保護するとともに、酸素や栄養を届ける役割も果たしています。涙の成分はほとんどが水分ですが、1%ほど油が含まれており、油の働きで目の表面から水分が蒸発しにくくなっています。従来、ドライアイは「水分不足」の病気だと考えられていましたが、10年ほど前に、ドライアイの8割以上が涙の「油不足」によるものだと分かりました。水分が不足して涙の量が減るだけでなく、涙の油が不足して涙の質が低下することも、ドライアイの原因となるのです。

涙の油不足のカギを握るのは「マイボーム腺」です。マイボーム腺は、上下のまつげの生え際付近に20〜30個ずつ並んでおり、油を分泌しています。しかし、マイボーム腺の出口に油が詰まると、油が分泌されなくなって涙が油不足になります。その結果、涙が蒸発しやすくなりドライアイにつながります。

マイボーム腺

多様な症状が出るドライアイ 
「まばたきせず5秒」が目安

ドライアイは目の乾燥だけでなく、目の疲れ、見えにくさ、充血、違和感や異物感(目がショボショボする、ゴロゴロする)など、さまざまな症状を引き起こします。油不足のドライアイの場合、涙目になる人もいます。油が足りなくなると、水分を増やすことでバランスを保とうとするためです。

まばたきせずに目を5秒以上開けていられない場合は、ドライアイが疑われるため、眼科を受診することをお勧めします。薬局でもドライアイ用の市販薬が販売されていますが、ドライアイ以外の病気で同じような症状が出る場合もあるため、1週間ぐらい使用しても症状が改善しない場合は眼科を受診してください。眼科では、油不足によるドライアイなのか、水分不足によるドライアイなのかを調べたうえで、患者さんに合った治療を行うことができます。

現在、ドライアイの治療には、水分とともに粘膜を保護する「ムチン」という成分を補う目薬や、油を増やす目薬がよく使われています。いずれも高い効果が期待できますが、それでも症状が改善しない場合は他の治療法を検討します。

水分不足のドライアイには、涙が目から出ていかないようせき止める治療(涙点プラグ)を行う場合があります。

油不足のドライアイには、最近では「IPL治療」を行っている眼科があります(公的医療保険適用外)。IPL治療とは、目の周辺に特殊な光を当ててマイボーム腺を深部まで温めることで、マイボーム腺の詰まりを解消し、ドライアイを改善する効果が期待される治療法です。ドライアイの重症度によって異なりますが、3~4週間おきに4回照射すると効果が高いとされており、多くの場合、1年ほど効果が持続します。

ドライアイの改善には 
毎日のセルフケアも重要

ドライアイの症状を改善するためには、セルフケアも欠かせません。以下のセルフケアは、特に油不足のドライアイに効果的ですが、油が十分に分泌されると涙の水分が蒸発しにくくなるため、水分不足のドライアイにも効果があります。

1. 目を温める

マイボーム腺の詰まりを解消するために、アイマスクなどを使って目を温めましょう。蒸しタオルは目に当てているうちに急激に冷めていき、かえって油が固まる原因になるため、あまりお勧めできません。また、花粉症の症状が出ているときは、温めると悪化する可能性があるため控えてください。朝と夜の1日2回行うことが望ましいですが、難しければ寝る前に1回行いましょう。

2. まつげの生え際を洗う

目の周りに汚れが残っていると、マイボーム腺の感染や炎症が起きやすくなり、油不足につながります。朝と夜の1日2回、ぬるま湯でまつげの生え際付近をやさしく洗いましょう。

3. まばたき運動

マイボーム腺からの油は、まばたきによって上下のまぶたがしっかり接触することで分泌されます。まばたきの回数が少ない場合やまばたきが不完全な場合、油が十分に分泌されません。以下のまばたき運動を行って目の周りの筋肉を鍛えることで、無意識でもしっかりとまばたきを行えるようになります。1回5セット、1日5回程度が目安ですが、「トイレに行くたびに行う」など、普段の行動と紐づけて行うのもよいでしょう。

■上まぶたの運動
  • 「パチパチ」と軽く2回まばたきする
    ①「パチパチ」と軽く2回まばたきする
  • 「ギュー」と2秒目を閉じる
    ②「ギュー」と2秒目を閉じる
■下まぶたの運動
  • 下まぶたを引き上げるイメージで、「まぶしい目」をする(目を細める)
    ①下まぶたを引き上げるイメージで、「まぶしい目」をする(目を細める)
  • 目じりと眉毛の間を指で持ち上げ「キツネの目」をしながら、目を閉じようとする
    ②目じりと眉毛の間を指で持ち上げ「キツネの目」をしながら、目を閉じようとする

生活習慣を改善して 
ドライアイを予防しよう

ドライアイを予防するために、日常生活でできることを4つ紹介します。

  • 1~2時間に1回は目を休める
    パソコンやスマートフォンの画面を長時間見ていると、無意識のうちにまばたきの回数が大きく減り、不完全になりがちです。1〜2時間に1回は画面から目を離し、目を閉じたり遠くを眺めたりして目を休めるようにしましょう。先ほど紹介したまばたき運動を行うのもお勧めです。
  • 体を冷やさない
    体温が下がるとマイボーム腺の油が固まりやすくなります。体が冷えないように湯船につかって温める、仕事の合間に肩を回すなど体を動かして血流を良くする、といった方法がお勧めです。過度のストレスも血流を悪化させるため、ストレスを溜めないようにしましょう。
  • 湿度に気をつける
    温度だけでなく湿度も大切です。湿度が低いと水分が蒸発しやすくなると同時に、油も固まりやすくなります。乾燥する時期は加湿器などで湿度を調節しましょう。
  • 体に良い油を摂取する
    肉類の油のように固まりやすい油(飽和脂肪酸)を摂りすぎると、血液中の悪玉コレステロールが増え、マイボーム腺から分泌される油の質も低下します。マイボーム腺の詰まりや涙の質の悪化につながるため注意しましょう。魚や亜麻仁油、エゴマ油などに含まれるオメガ3脂肪酸は、ドライアイ予防にも効果的と考えられています。

ドライアイの治療はこの10年ほどで大きく進歩しています。セルフケアや生活習慣の改善を心がけるとともに、気になる症状があれば眼科を受診し、適切な治療を受けましょう。

有田 玲子 伊藤医院副院長

1994年京都府立医科大学卒業。医学博士。慶應義塾大学眼科助手などを経て2005年から現職。専門はドライアイ、マイボーム腺機能不全。2012年にマイボーム腺の重要性を啓発するLid and Meibomian Gland Working Group(LIME研究会)を設立、代表に就任。「マイボーム腺機能不全診療ガイドライン」作成委員会総括委員。東京大学医学部眼科学教室臨床研究員、日本角膜学会評議員。

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