食で健康
2020.03.27

マグネシウム(Mg)不足にご用心!

~手軽に摂取して生活習慣病を防ぐ~
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日本人の食生活は、大麦や雑穀などの穀物を多く摂っていた伝統的なものから、高脂肪・高たんぱく・高カロリーの欧米型の食生活へと変化をしています。こうした食生活の変化に伴い、減少しているのが日本人のマグネシウム摂取量です。さまざまな研究で、マグネシウム摂取不足と多くの生活習慣病との発症に、密接な関係があることが分かっています。マグネシウムの主な働きや、上手な摂取方法などについて、東京慈恵会医科大学客員教授の横田邦信さんに伺いました。

マグネシウムが持つ
5つの重要な働き

ミネラルは、炭水化物、脂質、たんぱく質、ビタミンと並ぶ「5大栄養素」のひとつです。人の体の中では作ることができないため、食品から摂取する必要があります。

必須ミネラルは16種類あり、このうちマグネシウム、カルシウム、カリウム、ナトリウム、リンの5つが、1日の必須摂取量100㎎以上の「主要(多量)ミネラル」です。厚生労働省が健康増進法に基づき「日本人の食事摂取基準」を定めています。

それぞれのミネラルは、体の機能を正常に保つための重要な役割を担っていますが、中でも生活習慣病の予防や、健康に不可欠なミネラルとして近年注目が高まっているのがマグネシウムです。ちなみにマグネシウムは漢字で“鎂”と表記します。

マグネシウムには、さまざまな生理作用がありますが、主に次のような働きが特に重要です。

  • 1.骨と歯を形成する
    マグネシウムは健康な成人の体内に約25g存在し、その50~60%が骨と歯の構成成分となっています。
  • 2.筋肉の収縮・弛緩しかんをスムーズにする
    マグネシウムは神経と筋肉の働きに関与し、マグネシウムが不足すると筋肉が弛緩しにくくなり、筋肉の痙攣けいれんやこむら返りが起きやすくなります。
  • 3.血圧を下げる
    血管壁の細胞内マグネシウムが増えると血管が広がり、血液の流れがスムーズになり、血圧が下がります。
  • 4.細胞内外のミネラルバランスを調整する
    マグネシウムはカリウムとともに細胞内に多く含まれるミネラルで、細胞内外のミネラルのバランスを整える作用があります。マグネシウムが不足すると細胞の機能が低下し、臓器の機能障害を引き起こす場合があります。
  • 5.酵素を活性化する
    物質の合成や分解に関わる体内の600種以上の酵素の働きを活性化し、代謝を円滑にする役割を担っています。特に、体のエネルギー源となるATP(アデノシン三リン酸)を作り出す時に必要な10種類以上の酵素を活性化させる働きがあります。

上記のうち1~4については、カルシウムとマグネシウムとのバランスにも注目する必要があります。

たとえば、1の「骨と歯の形成」では、カルシウムとともに、マグネシウムも必要であり、それぞれの役割は以下のとおりです。

■カルシウム:リンと結びついた「リン酸カルシウム」が骨の強度に関わる。

■マグネシウム:リンと結びついた「リン酸マグネシウム」が骨の柔軟性や弾力性を高める。

マグネシウムが不足すると骨の主成分であるハイドロキシアパタイトの結晶表面からマグネシウムが溶け出し、それを補うために結晶内部からマグネシウムが表面に移動します。ハイドロキシアパタイトの結晶密度が低くなることで、骨がスカスカになる「骨粗しょう症」のリスクが高まります。骨と歯の形成のためにはカルシウムだけでなく、マグネシウムもしっかり摂ることが硬くて丈夫な骨をつくるうえで大切です。

マグネシウムとカルシウムの
摂取バランスが大切

マグネシウムとカルシウムをバランスよく摂取することは、健康にとって重要なポイントのひとつですが、日本人が食事から摂取するマグネシウムとカルシウムの比率は年々増加しています。近年では、マグネシウム1に対して、カルシウムがほぼ2になっています(下のグラフ参照)。

■日本人のカルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)摂取量とCa/Mg摂取比率(1946~2016年) 日本人のカルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)摂取量とCa/Mg摂取比率(1946~2016年) 「MAG21研究会」ウェブサイトhttp://mag21.jp/から改変

食事中のマグネシウムに対するカルシウムの摂取比率が高いほど、虚血性心疾患などの動脈硬化性疾患死亡率が高いという報告(※1)が既にあります。動脈硬化性疾患の予防のためには、マグネシウムに対してカルシウムの比率は1:1~1.5くらいにするのが理想的だと考えられます。

(※1)Karppanen H, et al. Adv Cardiol. 25:9-24. Review, 1978.

また、カルシウムを必要以上に摂り過ぎると、余った分は尿として排せつされますが、その際に体内のマグネシウムも一緒に排せつされるため、ますますマグネシウムが不足することになります。こうした状態を防ぐためにも、意識してカルシウム以上にマグネシウムを摂ることを心掛けましょう。

マグネシウムの慢性的な摂取不足は、2型糖尿病(※2、3)やメタボリック症候群(※4、5)の発症リスクを有意に高めることが臨床栄養疫学研究で示されています。また、マグネシウム不足は、以下の症状や病気とも密接に関連していることが基礎的、臨床的研究で明らかにされつつあります。

■マグネシウム不足による主な症状と病気 マグネシウム不足による主な症状と病気

さらに、国際オーソモレキュラー医学会から新型コロナウイルス予防対策として高用量のビタミンC、マグネシウムなどのサプリメントが体の抗酸化力と免疫力を強化する目的で推奨されています。

(※2)Kim DJ, Xun P, Liu K, Loria C, Yokota K, Jacobs DR Jr, He K. Diabetes Care 33:2604-2610, 2010

(※3)Dong JY, Xun P, He K, Qin LQ. Diabetes Care 34:2116–2122, 2011

(※3)He K, et al., Circulation 113:1675-1682, 2006

(※4)Dibaba DT, Xun P, Fly AD, Yokota K, He K. Dietary magnesium intake and risk of metabolic syndrome: a meta-analysis. Diabetic Medicine 31:1301–1309, 2014

少しの工夫で
手軽に摂取できる!

現代人の多くが、マグネシウムの慢性的な摂取不足に陥っています。2015年のマグネシウムの食事摂取基準(推奨量)では、1日当たり男性(30~49歳)が370mg、女性(同)が290mgとされています。
一方で、同年の国民健康・栄養調査による1日の推定摂取量は、男性が243~249mg、女性が205~219mgとなっており、男性の場合は約130mg、女性は約80mgのマグネシウムが不足しています。

マグネシウムを十分に摂取するためには、マグネシウムを多く含む食品を積極的に摂ることが欠かせません。ひとつの食品から一度にたくさん摂ろうとするのではなく、さまざまな種類の食品を組み合わせることがポイントです。

マグネシウムが豊富に含まれている食品は、下表のとおりです。

■主なマグネシウム含有食品リスト 主なマグネシウム含有食品リスト

白米に大麦や雑穀を混ぜる、麺類(そばが良い)にゴマなどをトッピングする、味噌汁にワカメやシイタケ、野菜やイモ類を入れるなど、食事を工夫すると、マグネシウムを手軽に摂ることができます。おやつにドライフルーツやナッツなどを摂り入れるのも良いでしょう。ただし、ナッツ類はカロリーが高いので、摂りすぎには注意が必要です。

食生活が不規則になりやすく、食事だけではマグネシウムが不足しがちな場合には、マグネシウムの栄養機能食品やサプリメント、マグネシウムの多いミネラルウオーターなどを利用するのも方法の一つです。

〝アンチエイジングミネラル″といっても過言ではないマグネシウムを毎日コンスタントに十分摂取し、イキイキと元気に過ごし長生きしましょう。

横田邦信 東京慈恵会医科大学 客員教授

医学博士。東京慈恵会医科大学・同大学大学院卒業後、富士市立中央病院内科医長、横須賀北部共済病院内科部長、東京慈恵医科大学助教授、同大学附属病院 糖尿病・代謝・内分泌内科診療医長を経て2010年東京慈恵会医科大学教授(大学直属)、2017年定年退職し現在同大学客員教授、社会保険診療報酬支払基金東京支部医療顧問。日本糖尿病学会功労学術評議員、同学会糖尿病専門医、日本生活習慣病予防協会参事、日本健康予防医学会理事、慈恵医師会理事、東京都医師会予備代議員、日本医師会認定産業医。著書あるいは監修に『糖尿病に勝つ!「マグネシウム食」革命』(主婦の友社)、『医師が教える マグネシウムのすごい力』(主婦の友社)、『糖尿病なら「これ」を食べなさい!』、『同 レシピ』(主婦の友社)、『マグネシウム健康読本』(現代書林)など多数。『午後はおもいっきりテレビ』(日本テレビ)、『美と若さの新常識(NHKBS)』、『林 修の今でしょ!講座』(テレビ朝日)、The Dave From Show嘉衛門Presents「The Road」!!(InterFM897)など多数出演。なお、2007年マグネシウム啓発サイト(MAG21研究会)( http://mag21.jp/)を共同設立。

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