知っておきたい病気・医療
2023.12.08

第5のがん治療「光免疫療法」

~どんながんに有効か知っておこう~
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手術、放射線治療、化学療法(抗がん剤)、免疫療法(免疫チェックポイント阻害剤)に続く、第5のがん治療として注目されている「光免疫療法」。レーザーの光を利用して、がんだけを狙い撃ちにするもので、頭頸部(とうけいぶ)がんに対する治療として保険適用となっています。この頭頸部がんに対する「光免疫療法(アルミノックス治療)」について、国立がん研究センター 東病院 副院長の林 隆一先生に伺いました。

光免疫療法が
がんだけをピンポイントで破壊する仕組み

光免疫療法は、がん細胞にだけ付く薬剤を投与し、薬剤が行き渡ったところでがんの部分にレーザー光をあてる 、という治療法です。この薬剤は「アキャルックス」というもので、光に反応するという特徴があります。詳しい仕組みは次の通りです。

  • 1.薬剤が、がん細胞の表面に多く現れるたんぱく質(epidermal growth factor receptor: EGFR)に結合(EGFRにはがん細胞の増殖を促す物質を認識し、増殖のシグナルを送る作用がある)
  • 2.薬剤が結合したがん細胞にレーザー光を照射することで、薬剤に含まれる色素が反応
  • 3.がん細胞の細胞膜が破壊され、がん細胞が死滅する

治療は2日間にわたり行われ、薬剤を点滴で投与した20~28時間後に、レーザー光を照射します。

この治療法の大きなメリットは、がん細胞だけを選択的に狙うことができるため、正常な細胞を傷つけなくて済むことにあります。また、がんの状態やレーザー光の照射範囲など個人差はありますが、治療効果が早く表れるのも特徴の一つです。

なお、レーザー光の照射には次の2つの方法があります。

  • がんの表面から、ディフューザー(光ファイバー)で照射する
  • がんに針を刺し、そこにディフューザーを挿入してがんの中から照射する

治療時間はがんの大きさや広がりにもよりますが、レーザー光照射に少なくとも10~15分程度要すること、レーザー光を適切にあてるためその間安静にしていただく必要があること、がんによっては針を刺す必要があることや、レーザー光によってがん細胞が死滅したりする際に痛みが生じることから、レーザー光照射は全身麻酔下で行います。すなわち、「光照射が可能な病変であること」も治療を受ける条件となります。

なお、照射後の痛みのコントロールも医師の管理のもとで行われています。その他、のどのむくみや舌の腫れなどの副作用が生じる場合もありますが、対応策をとることで安全に実施できます。

どんながんにも使えるわけではない
現在は頭頸部がんのみ保険適用

厚生労働省で認可されている光免疫療法は、薬剤「アキャルックス」点滴静脈注射とレーザー光照射による治療のみで、「アルミノックス治療」とも呼ばれています。2021年1月から保険適用となった「光免疫療法」ですが、2023年11月現在も適用は「切除不能な局所進行または局所再発の頭頸部がん」となります。理由としては、次のことが挙げられます。

  • 1.米国で頭頸部がんを対象とした臨床試験が実施された後、日本国内でも同様に頭頸部がんを対象として臨床試験が実施されたこと。
  • 2.頭頸部がんは頸部や口の中、のどに発生するためレーザー光をあてやすいこと。
  • 3.頭頸部がんの90%以上を占める組織型「頭頸部扁平上皮(とうけいぶへんぺいじょうひ)がん」では、がん細胞の増殖に関わるたんぱく質・EGFRが特に多く現れるため、薬剤が結合しやすいこと。

ただし、保険診療の対象となるのは、頭頸部がんの中でも「切除不能な局所進行または局所再発の頭頸部がん」となっています。手術で切除できる場合や、化学放射線療法などの標準的な治療ができる場合は、その治療を優先的に行うことになります。

この他、がんが頸動脈(首の左右にある太い血管)にまで広がっている場合は、治療の対象になりません。

そもそも頭頸部がんとは?
気になる症状は耳鼻咽喉科へ

頭頸部とは、脳と目を除く、顔面から首(鎖骨から上)までの範囲を指します。
主な頭頸部がんには次のような種類があります。

■頭頸部がんができる主な部位 頭頸部がんができる主な部位
  • 口腔(こうくう)がん
    歯肉や頬の内側の粘膜など、口の中のいろいろな場所に発生するがんで、代表的なものに、舌にできる(ぜつ)がんがあります。
  • 咽頭(いんとう)がん
    鼻の奥から食道までの、飲食物と空気が通る部位である咽頭にできるがんで、発生した部位により、上咽頭がん、中咽頭がん、下咽頭がんに分けられます。
  • 喉頭(こうとう)がん
    一般的に「のどぼとけ」といわれる喉頭にできるがんで、発生した部位により、声門上(せいもんじょう)がん、声門がん、声門下がんに分けられます。
  • 唾液腺(だえきせん)がん
    唾液をつくる組織である唾液腺にできるがんです。唾液腺には大唾液腺と小唾液腺があり、大唾液腺はさらに「耳下腺(じかせん)」「顎下腺(がっかせん)」「舌下腺(ぜっかせん)」の3つに分かれます。唾液腺がんの多くを、耳下腺がんと顎下腺がんが占めています。
  • 鼻腔(びくう)がん・副鼻腔がん
    鼻の内部である「鼻腔」と、その周辺にある空洞の「副鼻腔」にできるがんです。副鼻腔の中でも最も大きい空洞である「上顎洞(じょうがくどう)」の粘膜から発生するがんを上顎洞がんといいます。

この他、首の位置にできる頸部食道がんや、甲状腺がんも頭頸部がんに含まれます。

頭頸部がんには、がん検診がなく、また初期症状も分かりにくいことが多いため、早期発見・早期治療につながりにくい面があります。口の中やのどに違和感があったり、声がかすれる、食べ物をのみ込むときに痛みがある、頸部のしこりといった「いつもと違う」症状や頭頸部の不調を感じたりする場合は、早めに耳鼻咽喉科を受診しましょう。

光免疫療法を
行う医療機関を調べるには

今後、がん光免疫療法が頭頸部がん以外のがん治療にも適用範囲を広げるためには、臨床試験や治験を行い、国の承認を得ることが必要です。また、レーザー光の照射の仕方も現状では統一されていないため、テクニックの標準化や、照射用の支援機器の開発も課題の一つと考えられます。

ご紹介した光免疫療法は、開発されてきた技術基盤をもとに「アルミノックス治療」といわれます。頭頸部がんに対するアルミノックス治療と異なる治療に対しても「光免疫療法」という言葉が使われている場合があります。今回ご紹介した光免疫療法とは異なる場合もあるので十分に確認するようにしましょう。

保険診療の光免疫療法を行っている医療機関は、下記のウェブサイトで調べることができます。

■治療を受けられる施設

https://pts.rakuten-med.jp/akalux/institution/

治療を受けたい場合は、まず主治医とよく相談することが大切です。この治療の対象となる患者さんは多くありませんが、対象となる場合には非常に有効な選択肢の一つであるといえます。

光免疫治療は4週間ごと最大4回まで実施可能です。将来的には頭頸部の早期のがんや薬物療法との併用療法の開発が期待されます。

林 隆一 国立がん研究センター 東病院 副院長

1985年、慶応義塾大学医学部卒業。92年、国立がん研究センター 東病院頭頸部外科医員、2011年から現職。日本頭頸部外科学会 頭頸部がん専門医・指導医。日本気管食道科学会 気管食道科専門医。頭頸部アルミノックス治療指導医。日本頭頸部癌学会理事長(14~20年)。

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