健康ライフ
2022.03.11

シミやシワを招く「光老化(ひかりろうか)」にご用心!

~紫外線だけじゃない!太陽光から肌を守ろう~
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花を見るだけでストレス軽減

太陽光に含まれる紫外線は3月頃から増え始め、7、8月にピークとなりますが、本格的な夏を迎えるまでは、紫外線対策も油断しがちです。無防備に太陽光を浴び続けると、シミやシワなどの皮膚の老化につながります。太陽光による「光老化」の仕組みや予防法について、名古屋市立大学大学院 医学研究科 加齢・環境皮膚科学の森田明理教授に伺いました。

無防備に浴びる太陽光線が
シミやシワ、たるみの要因に

皮膚の老化は見た目の印象にも関わりますが、大きく2つの要因があります。1つは加齢に伴う老化です。年齢とともに皮膚が薄くなり、皮膚の内部に水分を保持する力が低下するため、乾燥しやすくなります。高齢になるほど皮膚表面がゴワゴワしたり、ハリがなくなるのも加齢による変化の1つです。

もう1つは、環境が要因となって生じる老化です。老化を引き起こす主な環境要因として、次のものが挙げられます。

  • 日光(太陽光線)
  • 喫煙
  • 大気汚染
  • ストレス など

個人が生涯にわたってさらされる環境因子の総量を「皮膚のエクスポソーム」と呼びます。
この中で、特に皮膚への影響が大きいことが分かっているのが日光(太陽光線)です。
日光(太陽光線)を無防備に長時間浴びることによって、シミやシワ、たるみなど皮膚に生じる老化現象を「光老化(ひかりろうか)」といいます。

中波長のUV-B、長波長のUV-A
それぞれの肌への影響とは?

地上に届く日光(太陽光線)には、紫外線、可視光線、赤外線の3つがあります(下図参照)。このうち皮膚への影響が最も大きい日光が紫外線であることは広く知られていますが、近年では可視光線の一部や赤外線も皮膚の老化の要因になることが分かってきており、研究が進められています。

■太陽光線の分類 太陽光線の分類 データ:気象庁(https://www.data.jma.go.jp/gmd/env/uvhp/3-40uv.html

光老化を防ぐうえで重要なのは、紫外線のUV-BとUV-Aの対策です。UV-BとUV-Aにはそれぞれ次のような特徴があります。

■UV-B
  • 波長が短く、皮膚表面でほとんど吸収される。
  • 日光浴などで、皮膚が赤くなる日焼け(サンバーン)を起こす。数日後に黒く変化する。
  • 皮膚表面の細胞や遺伝子を傷つけたり、炎症を起こしたりしやすい。繰り返し浴びることで、シミやシワなどの老化が進んだり、皮膚がんなどの要因になったりする場合もある。
■UV-A
  • 波長が長く、皮膚の奥の真皮層まで到達する。
  • 雲やガラス窓などを通り抜けやすい。
  • 強い日差しを浴びた後などに、短時間で肌が黒くなる即時型黒化を引き起こす。
  • 日常的かつ、繰り返しUV-Aにさらされることで、皮膚の弾力などに関わるコラーゲンが変性し、シワやシミなど皮膚の老化を進行させる要因になりやすい。

サンスクリーン剤(日焼け止め)や紫外線防御効果のある化粧品などには「SPF」「PA」の値がそれぞれ表示されており、SPFはUV-Bの防止効果、PAはUV-Aの防止効果を現わしています。

■SPF(Sun Protection Factor)

SPF10程度から最高値50まであり、50以上ある場合はSPF50+と表示される。
数値が大きいほどUV-Bの防止効果は高くなる。

■PA(Protection Grade of UV-A)

+から++++までの4段階があり、下記のように+の数が多いほどUV-Aの防止効果は高くなる。

  • PA+
    UV-A 防止効果がある
  • PA++
    UV-A 防止効果がかなりある
  • PA+++
    UV-A 防止効果が非常にある
  • PA++++
    UV-A 防止効果が極めて高い
■皮膚の構造と紫外線到達度 皮膚の構造と紫外線到達度
■紫外線の波長 紫外線の波長

PA30、PA++++を
日常の紫外線予防の基準に

加齢に伴う老化は誰にでも起こるものなので、止めることはできません。一方、光老化は紫外線を極力浴びないよう、防ぐことが可能です。サンスクリーン剤(日焼け止め)や紫外線防止効果のある化粧品などを、1年を通して毎朝塗るのを習慣にすると良いでしょう。

最近はマスク生活が定着しているため紫外線対策をあまり行わない人も増えているようですが、マスクで覆われていない顔の上部だけ日焼けしてしまう場合もあるので注意が必要です。SPFの数値については、日常生活程度で浴びるUV-BはSPF30程度あれば十分防ぐことができます。必要とされる分量を塗布しましょう。
夏など日差しの強い時期に長時間アウトドアで過ごすようなときは、SPF50~50+のものを使い、必要に応じて、繰り返し塗布することがおすすめです。

PAについては、可能であればUV-Aの防止効果が高いPA+++から++++のものを選びましょう。UV-Aの量は年間を通して多い傾向にあり、くもりや雨の日、あるいは室内で過ごしたりしている場合でも雲やガラス窓を通り抜けるためです。

サンスクリーン剤(日焼け止め)の品質や性能は年々向上しており、かつては気にする人も多かった白浮きやベタつき、紫外線吸収剤などによる肌のトラブルといった問題も改善されてきています。自分の肌に合うものを見つけ、パッケージや説明書などに記載されている使用量や使用方法に沿って塗布しましょう。

また、夏場は日傘をさしたり、紫外線カット効果のある素材を用いた衣類を着用したりして、直接皮膚に紫外線を浴びないようにすることも大切です。

ただし、日光には体内でビタミンDを生成するという重要な働きもあります。赤くなるような日焼けするほど日光を浴びることは避けるべきですが、適度に日差しを楽しむ時間も設けるなど、上手な付き合い方を考えていきましょう。

日常の紫外線予防

太陽からの光は紫外線だけでなく、可視光線や近赤外線も老化の原因になります。可視光線は、目の老化による白内障や加齢黄斑変性(かれいおうはんへんせい)の原因の1つになります。近赤外線は、紫外線よりも高い割合で降り注いでいます。透過性が高いため肌の深部まで届くという性質があり、皮下組織までダメージを与えてシワなどの原因になる可能性があり、研究が続けられています。

年々増えている皮膚がん
気になったら早めに受診を

紫外線が肌にもたらす悪影響の1つとして忘れてはならないのが皮膚がんです。紫外線は皮膚の細胞のDNAを損傷させる一因です。細胞には傷ついたDNAを元に戻したり、その細胞を除去する仕組みが備わっていますが、長期間にわたって紫外線を浴び続け、何度も繰り返し細胞が傷つけられているとその仕組みにエラーが起こり、突然変異する場合があります。これが皮膚がんの要因の1つになると考えられています。

下のグラフでも分かるように、日本国内で皮膚がんに罹患(りかん)する人は急増しています。その背景には、ライフスタイルの変化、気候の変動によって晴天の日が続くことや太陽光線がより強くなっていること等が考えられます。

皮膚がんは高齢者に多い疾患ではありますが、30~40代で罹患する例もあるので気をつけましょう。

■日本における皮膚がん死亡数(全国)・罹患数(全国推計)年次推移 日本における皮膚がん死亡数(全国)・罹患数(全国推計)年次推移 データ:国立がん研究センターがん対策情報センター[がん登録・統計]

皮膚がんにはさまざまな種類があり、紫外線を長期間にわたって浴びた場所に発生しやすい代表的なものとして「基底(きてい)細胞がん」「日光角化症(にっこうかくかしょう)」「有棘(ゆうきょく)細胞がん」「メラノーマ」「メルケル細胞がん」などが挙げられます。初期の段階では小さいものが多く、またシミやホクロなどと見分けがつかない場合もあります。

少しでも気になる症状がある場合は、自己判断で放っておかず、できるだけ早く皮膚科を受診しましょう。近年ではダーモスコピーと言われる機器が登場し、検査の精度もより高くなり、ごく小さな腫瘍であっても早期発見が可能になってきています。また、早期であれば手術で切除し、根治することも期待できます。

肌のダメージを減らすためにも、紫外線が強くなる前から、UVケア商品、帽子や日傘、サングラスなどを使ってしっかりと予防しましょう。

森田 明理 名古屋市立大学 医学研究科 加齢・環境皮膚科学教授

1989年名古屋市立大学医学部卒業。独デュッセルドルフ大学皮膚科、米テキサス大学サウスウェスタンメディカルセンター皮膚科に留学し、2003年から現職。名古屋市立大学 学長補佐・名古屋市立大学病院院長代行・副病院長兼任。日本光医学・光生物学会理事長を務める。

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