食で健康
2022.08.12

「食酢」のパワーで健康に!

~肥満や生活習慣病の予防効果に期待大~
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さっぱりした味わいで、食欲が低下しがちな夏の食生活の味方になってくれる食酢。近年では、その健康効果についても広く知られるようになってきました。なぜ健康に良いのか、どのような摂り方をすると効果的なのか、県立広島大学 非常勤講師(前 広島修道大学 健康科学部 教授)の多山 賢二先生に伺いました。

食酢の主成分である「酢酸」が
健康効果アップのカギ

暑さで食欲が低下しがちな夏でも、食酢を使った料理ならさっぱりおいしく食べられる。そんな経験がある人は多いのではないでしょうか。

食酢の酸味には唾液の分泌を促進する作用があり、夏場の食欲増進や、口の中を衛生的に保つ効果があります。

また、食酢の酸味が全体の味を引き立たせて風味を与えてくれるため、減塩にも繋がります。

この食酢の酸味は、「酢酸」が主成分です。「酸っぱい成分はクエン酸」というのは誤解で、クエン酸を主成分とするのはレモンなどです。

酢酸は体内でエネルギー源として利用されると同時に、AMPキナーゼという体内の酵素を活性化させる働きがあります。AMPキナーゼの正式名称は「AMP活性化プロテインキナーゼ」といい、細胞内で糖分や脂肪の燃焼を促進させる働きがあります。

酢酸がAMPキナーゼを活性化させることによって体は運動時のような反応を起こし、脂肪の燃焼や糖の分解を活性化させます。

これによって体は運動時のような反応を起こし、脂肪の蓄積を抑えるなどの効果に繋がります。

また、酢酸が血中に移行すると、脂肪細胞にシグナルを送り、グルコース(ブドウ糖)や脂肪の取込みを抑制させるように働き、脂肪細胞が大きくなるのを防ぎます。

さらに、小腸でカルシウムの吸収を促進する作用についても研究が進んでいて、肥満や糖尿病、脂質異常症、骨粗しょう症などの予防に繋がると考えられています。

市販の食酢には酢酸が4~5%含まれています(ラベルには「酸度」と表示されています)。

食酢に果汁やしょうゆ、砂糖などを加えた加工酢(すし酢やポン酢など)は食酢より酸度が低く、食酢とは区別されています。

健康効果を期待して食生活に取り入れる場合には、「醸造酢」「穀物酢」「米酢」「黒酢」「果実酢」と表示されている食酢を選びましょう。

国内の研究で
健康効果のエビデンスを確認

日本人を対象とした研究で、食酢(酢酸)には次のような健康効果があることが確認されています。

■食後の血糖値上昇を抑制

健常な21歳の女子大学生13人を対象に、糖質を50gに統一した検査食(米飯もしくはじゃがいも)に食酢20mlもしくは10mlを組み合わせ、食後の血糖値を経時的に測定。
食酢を加えた場合の食後血糖値は、食酢を加えない場合と比較して上昇が抑えられた。また、食酢10mlでも食後血糖値上昇の抑制効果はあるが、20mlのほうがより効果的だった。

(糖尿病54(3):192-199, 2011)

■血圧をコントロール

軽症および中等症の高血圧の男女51人を対象に、「1.食酢30ml(酢酸1500mg)を含む飲料」「2.食酢15ml(酢酸750mg)と乳酸1000mgを含む飲料」「3.乳酸2000mgを含む対照飲料」(いずれも100ml/本)の3群に分けて、8週間の摂取を実施。

  • 1.食酢30ml(酢酸1500mg)を含む飲料
    摂取4週間後から血圧が有意に低下し、8週間後まで降圧効果が持続した。
  • 2.食酢15ml(酢酸750mg)と乳酸1000mgを含む飲料
    摂取6週間後から血圧が有意に低下し、8週間後まで適度な降圧効果が認められた。
  • 3.乳酸2000mgを含む対照飲料
    血圧の変化が見られず、摂取前後の血圧の変化量も1、2に比べて少なかった。

(健康・栄養食品研究 4(4):47-60, 2001)

■総コレステロールの低下

総コレステロール値が180~260mg/dlを示した男女95人を対象に「1.食酢15ml(酢酸750mg)を含む飲料1本(100ml)+食酢を含まない飲料1本」「2.食酢15ml(酢酸750mg)を含む飲料2本(200ml)」「3.食酢を含まない飲料2本」の3群に分け、12週間の摂取を実施。
1・2ともに、摂取前より摂取後4、8、12週間後に総コレステロール値が有意に低下。3では変動は認められなかった。

(健康・栄養食品研究 8(1):13-26, 2005)

■内臓脂肪の減少

肥満気味(BMI(※)25~30)の男女175人を3グループに分け「1.食酢15ml(酢酸750mg)を含む飲料」「2.食酢30ml(酢酸1500mg)を含む飲料」「3.食酢を含まない飲料」を1日1本(500ml)、朝晩2回に分けて12週間の摂取を実施。
内臓脂肪面積は1・2において有意に減少。体重、腹囲。BMI、血中中性脂肪も減少した。3では変動は認められなかった。

(Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry 73(8):1837-1843, 2009)

※BMI
【体重(kg)】÷【身長(m)の2乗】から算出される肥満度を表す体格指数。18.5未満が「低体重(やせ)」、18.5以上25未満が「普通体重」、25以上が「肥満」に分類される。

健康のためには、摂取量と継続が大切なポイントとなります。おすすめの摂取方法をご紹介します。

朝晩2回、それぞれ15ml(大さじ1杯程度)ずつ、1日30mlを目安に食酢を摂る
(毎食時15ml×3=45mlでも良いですが、目安以上の量を摂っても効果は期待できないと考えられます)

継続期間

4カ月以上を目標に毎日の摂取を続ける

なお、食酢さえ摂取していれば健康になれる、ということではありません。適切な食事や定期的な運動など、健康的な生活をベースにしたうえで食酢を取り入れることが大切です。

食酢の種類別の特徴や
使い方をチェック

食酢の種類による使い分けのポイントについてもご紹介します。

  • 穀物酢
    小麦やとうもろこしなどを原料にした食酢で、すっきりした味と香りで様々な料理に合わせやすい。
  • 純米酢
    米だけを原料とした食酢で、米由来のブドウ糖も多く含む商品が多い。芳醇(ほうじゅん)な香りとまろやかな味わいで、お寿司や酢の物に適している。醸造用アルコールも用いた米酢(純米酢ではない)は香りがすっきりしていて、甘みは純米酢と同程度。
  • 黒酢
    玄米あるいは大麦を原料とした食酢で、他の食酢よりアミノ酸を多く含むため、酸味がマイルド。メーカーによってはクセの強い香りのものもある。水や炭酸などで割って飲むのにも適している。
  • りんご酢
    りんご果汁に由来するフルーティーな香りを残す食酢。ドレッシングのほか、ハチミツなどと合わせてドリンクとしても楽しめる。
    醸造用アルコールを使用したりんご酢と、りんご果汁のみを使用した純りんご酢がある。
  • ワインビネガー
    ぶどうが原料の果実酢。白は軽い味で、赤は渋味を伴う重めの味が特徴。ドレッシングやマリネや野菜スープに適している。
  • バルサミコ酢
    イタリアの特定地域で製造され、数年かけて発酵・熟成させた特別な“ぶどう酢”で、糖度が高い。酸度も高いが、甘味で酸味は相殺されている。アイスクリームにかけるなどの使い方が人気。

なお、酢酸にはカルシウムを溶解させる作用があるため、貝を入れたスープ類や骨付き鶏肉の煮込み料理などを作る際に、ほんのり酸味を感じる程度に食酢をプラスするのもおすすめです。骨から肉を外しやすくなるのに加えて、液体に溶け出したカルシウムが小腸で効率よく吸収できるというメリットもあります。

胃の粘膜を保護するため、ドリンクとして摂取する場合は食酢を5倍以上に薄め、酢酸濃度が1%以下になるようにしましょう。ハチミツを加えたり、果汁で割ったりするなどして糖分と一緒に摂取するのも効果的です。

食欲が落ちやすい時期に食酢を上手に取り入れて、日々の健康に役立てましょう。

多山 賢二 県立広島大学 非常勤講師(前 広島修道大学 健康科学部 教授)

博士(農学)。1980 年、山口大学大学院農学研究科農芸化学専攻修士課程修了。93 年、東京大学大学院にて博士号を取得。食品企業の研究員、広島修道大学 健康科学部 教授などを経て、現職。主な研究テーマは「食酢と酢酸菌の利用研究」。2007 年日本農芸化学会技術賞受賞。テレビ番組や雑誌などメディアでも活躍中。

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