健康マメ知識
2021.06.25

「いきなり運動」にご用心

~足腰に負担をかけない運動不足解消法とは~
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

リモートワークの普及により家で過ごす時間が長くなっている昨今、運動不足を解消したいと思っている人は多いでしょう。しかし、急に激しい運動を行うと体への負担が大きく、ケガを引き起こす可能性もあります。運動不足で体力が衰えがちな体に大きな負担をかけることなく、筋力を回復させるにはどうしたら良いのか、アスレティックトレーナーの西村典子さんに伺いました。

運動不足が続くと
ケガなどのリスクが高まる

まずは、セルフチェックをしてみましょう。次の中で、該当する項目はありませんか?

  • 階段とエスカレーターが設置されている場合、エスカレーターを使うことが多い
  • 普段どおりに生活していても、以前より疲れやすくなったと感じることが増えた
  • ちょっとした段差などでつまずくことがある
  • 体重が増えた
  • 肩こりや腰痛、膝の痛みに悩まされている

1つでも当てはまると、ケガなどに繋がる恐れがあります。いずれの項目も、デスクワークなどによる、長時間座りっぱなしの生活や、運動不足が要因となって起こりやすくなると考えられます。
運動不足が続くと、体には次のような変化が生じます。

  • あまり動かさない部位の筋力が弱くなる
  • 関節可動域(関節が動く範囲)が狭くなる
  • 体力そのものが低下する

筋力が弱くなると、自分が頭の中で「できる」と思っている動作と、実際の動きにズレが生じやすくなります。

ちょっとした段差でつまずいてしまうのは、その代表的な例です。自分では「つま先を上げて段差を越えることができる」と思っているのに、実際には太ももや(すね)の筋力が低下しているために、つま先が上がりきらず、つまずきやすくなってしまうのです。

また、体を動かさないことによって、関節も硬くなっていきます。特に、デスクワークが多く、長時間パソコンのモニターを見続けたりするような生活は、肩まわりの関節に大きな負担をかけ、肩が上がりづらくなるといった症状を引き起こす要因となるので注意が必要です。

筋力や関節の働きが衰えると、体を動かすことがますますおっくうになってしまうという悪循環に陥ってしまいます。活動量がさらに減ることで、バランス能力や持久力の低下など全身に影響が及ぶことになります。

ウォーキングやジョギングで
運動不足を解消するコツとは?

そうした問題を解消するには運動するしかない、ということになりますが、運動不足の状態から急に激しい運動を始めると、身体的にさまざまなリスクを伴う可能性があります。

例えば、手軽に始められる運動として挙げられるウォーキングやジョギングなども、いきなり長距離からスタートするのは危険です。座りっぱなしの生活が続くと下肢の筋力が低下していきます。体にかかる負担が増え、膝の痛みや足首の捻挫、太ももの肉離れなど、運動によってケガが発生する場合があるためです。

普段から使っていない筋肉の機能は、衰えていく傾向にあります。自分が思っている以上に、体は急激な運動に耐えることが難しいということを覚えておきましょう。

運動不足解消のためにウォーキングやジョギングを始める場合は、次のようなことを意識してみると良いでしょう。

  • 1.初めは近所を10分程度歩く、またはゆっくり走るなど、無理のない範囲から始める
  • 2.1.を続けて体が慣れてきたら、15分、20分と徐々に距離や強度を上げていく
  • 3.ジョギングの場合、疲れたら歩いてもOK。体力が回復してきたらまた走るなど、自分が楽しめるペースで続ける

なお、ウォーキングやジョギングなどの運動を始める前には、膝の屈伸や手首・足首をしっかり回すといった準備体操を2~3分程度で良いので行いましょう。筋肉の柔軟性を高めたり、関節の動きを良くしたりしておくことで、体への負担の軽減につながります。

よりしっかりとウォーミングアップするなら、ラジオ体操もおすすめです。ラジオ体操第1と第2はそれぞれ3分15秒程度なので、併せて行っても6分半という短い時間で効率よく全身の筋肉を大きく動かすことができます。

ウォーキングやジョギングを終えた後は、できれば入浴して湯船につかり、体を温めるのがおすすめです。血流が良くなるのはもちろん、湯船の中でふくらはぎなどを軽くほぐせば、筋肉痛の予防効果も期待できます。

入浴後は下肢を中心としたストレッチを行いましょう。両足を伸ばして床に座り、前屈したり、開脚したりするなどして、足の前側と後ろ側の筋肉をしっかり伸ばしましょう。足の裏はテニスボールなどを当ててゴロゴロと転がすと疲労解消につながります。

自宅でエクササイズを行う際は
シューズ着用で足のトラブルを予防

最近では、動画サイトを見たり、市販のグッズなどを活用したりしながら、自宅でできる筋トレやエクササイズなどに取り組む人も増えていますが、運動不足の人は「いきなり負荷の大きい運動にトライしない」ということを忘れないようにしましょう。

特に、なわとびなどに代表される「ジャンプ動作」や、バスケットボールやサッカーなどに見られる「切り返し動作」を伴う運動、片足でバランスをとるような運動は、ウォーキングやジョギングといった一般的な運動に比べて体に大きな負荷がかかりやすく、十分な筋力を備えていないとケガを招く場合があります。

自宅でエクササイズを行う際には、はだしではなく運動用のシューズを室内履きとして着用することも大切です。
一般的に、運動用のシューズはソール(靴底)に用いられるクッションなどによって、運動時に関節や筋肉にかかる負担を軽減するように設計されています。このクッションが無い状態で、硬い床の上でジャンプなどの激しい運動を繰り返すと、膝や足首、かかとなどに大きな負担がかかり、痛みの要因となる場合があります。

また、はだしで運動をすることで、滑って転倒する危険も高まります。安全面からも、運動の効果を高める面からも、室内でのシューズ着用は必須といえます。

下肢の筋力アップに効果的な
2つのエクササイズ

運動不足で低下した筋力を改善するためには、全身の中でも特に筋肉量の多い下肢を鍛えるのがおすすめです。
中でも効果的なのは「スクワット」と「カーフレイズ」です。

■スクワット
  • 両足を肩幅程度に開く
  • 膝がつま先と同じ方向を向くようにする
  • 膝を曲げて腰を落とす。このとき、股関節も同時に曲げる。背中を丸めず、膝がつま先より前に出ないよう注意する
ポイント
  • しゃがんだときのイメージで行うと、正しいフォームを保ちやすくなります。
  • 反り腰の状態で行うと、腰を痛める要因になります。反り腰になるのを防ぐためにも、お腹にしっかり力を入れ、背筋を伸ばした状態をキープして行うよう心掛けましょう。
  • 鏡で姿勢を確認したり、家族などにチェックしてもらったりすることも大切です。
  • 最初のうちは、しゃがみこむ深さは浅くてもOKです。慣れてきたら少しずつ深くしゃがむようにしていきましょう。
■カーフレイズ
  • 両足を肩幅よりやや狭くして立つ
  • つま先立ちになり、最大の高さまでかかとを上げて一度停止する
  • ゆっくりかかとを下ろす
  • ②と③を無理のない範囲で5~10回程度くり返す
ポイント
  • バランスを崩さないよう、壁などに両手をついて行ってもOKです。

どちらも大切なのは、毎日少しずつでも良いので続けることです。仕事の合間にスクワットを行う、歯磨きしたり、食器を洗ったりしながらカーフレイズを行うなど、日常生活の中に取り込んで習慣化していきましょう。
続けることで「以前より体を動かしやすくなった」「足が軽くなった」など、さまざまな効果を実感できるはずです。高齢になっても、筋肉は鍛えれば強くなるということが多くの研究から分かっています。

筋力が付くことで姿勢が良くなり若々しく見えるのはもちろん、基礎代謝も上がるため、長く続けるほど太りにくくなるというメリットも期待できます。

徐々に体を慣らしていき、無理せず楽しく、少しずつ筋力をアップして「動ける体」を維持していきましょう。

西村 典子 アスレティックトレーナー

日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナー。NSCA公認ストレングス&コンディショニング・スペシャリスト。NSCA公認パーソナルトレーナー。日本整形外科スポーツ医学会会員。10年以上にわたり学生スポーツの現場を中心にトレーナー活動をはじめ、一般向けの健康増進・生活習慣病予防のための運動指導、チーム指導者や保護者などを対象にしたスポーツ傷害予防、応急処置、トレーニング、スポーツ栄養などに関する講習会、セミナーなど幅広く活動中。

プロフィール写真