健康ライフ
2019.05.24

外反母趾の原因は靴だけじゃない!

~足のトラブルに早く気付こう~
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

外反母趾がいはんぼしになるのは、ハイヒールなど靴のせい?」と思っている人は、多いのではないでしょうか。実は、外反母趾になる原因の大半は、足の遺伝的な骨格構造が影響しています。ひどくなるまで放っておくと手術を受けなくてはいけなくなることもあります。外反母趾はさまざまな足のトラブルとも関連しています。足のトラブルに対応するためのセルフチェックや対策などを、足のクリニック表参道院長の桑原靖さんに伺いました。

外反母趾とは
関節が脱臼して変形する病気

身近な足のトラブルのひとつが外反母趾です。足の親指(母趾)の付け根が飛び出し、親指が人さし指側に向かって「く」の字に曲がった状態を言います。外反母趾は「脱臼が進行していく病気」でもあります。初期のうちは、指のつけ根の関節が脱臼しそうになる過程のため痛みが強く出ますが、変形はそれほどひどくありません。進行して完全に脱臼してしまうと、変形は大きくなりますが痛みは軽減されます。親指が脱臼した後も変形が進行すると、親指以外の指にも負担がかかり、ひどくなると人さし指も脱臼してしまうことがあります。

外反母趾の原因は
足の骨格構造の要因も大

「ハイヒールや合わない靴を履き続けたことによって外反母趾になる」というイメージがありますが、靴だけが直接の原因ではありません。個々の骨の形や関節構造など、もともとの足の骨格が大きく影響しています。つまり、遺伝的な足の骨の構造が大きな原因で、それに加えてハイヒールや合わない靴を履き続けることにより、変形につながることが多いのです。

足の形は、多くの細かい骨が組み合わさった複雑な構造をしています。立体パズルのようにいくつもの骨がきちんと噛み合ってアーチ状の構造を形づくり、これらが靭帯じんたいけんでつながって細かなパーツが複雑に動くことで、体の重みを支えながら、歩いたり動いたりしています。

足の骨の構造には個人差があり、両親または近親者の誰かの特徴をそっくり受け継ぐことが多いようです。「足が柔らかくアーチが崩れやすい(構造が弱い)」「中足骨ちゅうそっこつが長い(形が悪い)」「中足骨頭の並びが水平でない(形が悪い)」といった構造の人は、アーチが崩れて外反母趾になりやすいタイプです。ただし、要因は複雑に絡み合っています。例えば、足が柔らかく構造が弱くても、形が良ければ力が均一に分散されるため症状が出にくい場合や、逆に、硬く強い構造でも形が悪いために1ヵ所に負担がかかって痛みを引き起こす場合もあります。

■図1 足の骨格の構造と崩れ 足の骨格の構造と崩れ
■図2 足の骨格構造・形状の違いによる影響 足の骨格構造・形状の違いによる影響

長年かけて少しずつ足のアーチ状の構造が崩れる際には、立体的にねじれた動きの力が加わることも重要なポイントです。「過回内かかいない」といって、かかとの骨が内側に倒れた構造をしている人は、土踏まずのアーチが崩れた、いわゆる「扁平足へんぺいそく」になりやすく、一歩歩くごとに内側へねじれる力が加わり、親指側への負担が増します。

■図3 骨格が歪んだ状態の比較 骨格が歪んだ状態の比較

足のアーチ構造が崩れた結果として、外反母趾だけでなく、親指の付け根が痛む「強剛母趾きょうごうぼし」、「巻き爪」など爪のトラブル、タコ・魚の目、足の裏の腱が炎症を起こす「足底腱膜炎そくていけんまくえん」といったさまざまな足のトラブルが複合的に引き起こされる可能性も高いのです。

また、過回内の足で歩くと、踏み返したときに下から膝や股関節に向かってねじれの力が加わります。若い年代や股関節の動きが柔らかい人は、ねじれの力を股関節で吸収できますが、加齢などで硬くなってくると、ねじれの力を逃がしきれずに膝に負担がかかります。膝は一方向にしか曲がらない関節なので、ねじれの力に弱く、膝を痛める可能性も高くなります。

■足のトラブルチェックリスト

下記の項目をチェックしてみましょう。
1つでも当てはまる人は足のトラブルが潜んでいる可能性が高いです。複数当てはまる人は要注意です。

  • 靴底が左右非対称に削れている
  • 「大股でゆっくり歩く」ことができない
  • フラットな靴よりハイヒールを履いている方が楽
  • 夜寝ている間に足(ふくらはぎ)がつることがある
  • 足の裏や指にタコ・魚の目がある
  • 家族や親戚で足のトラブルに悩んでいる人がいる
  • ズボンの裾上げをすると、左右どちらかが合わない

外反母趾の治療は
インソールと手術

外反母趾がひどくなった場合、対処方法は「インソール(中敷)による補正」「手術」の2つです。

症状が軽度から中程度の場合は、医療用インソールでアーチの崩れを補正すると進行を止めることができます。医療用インソールは、義肢装具士が医師の処方に基づき、症状や足の形に合わせて作ります。微妙に異なる足の形も足型をとってぴったりと合うように作られるオーダーメイドのため、市販のインソールとは効果が異なります。

重症の場合は、手術も検討します。手術のタイミングは、痛みや変形の度合いなどから総合的に判断します。手術にはいろいろな方法がありますが、足のクリニック表参道では、親指の中足骨を一度、二分割にし、曲がった関節をまっすぐにして、ネジを使って切った骨同士をつなぐという方法が中心です。ネジは数年で体に吸収される素材を用いるため、後で取り出す手術は必要ありません。両足を一度に手術する場合は3〜4日、片足なら1泊2日からの入院治療(執刀医により若干異なる)となります。また、手術後に松葉杖や特殊な靴は必要とせず、翌日からシャワーでの入浴も可能です。
手術で足の形の特徴に合わせて理想的な骨格構造に近づけることができれば、再発の可能性も少なくなります。

足のトラブルを防ぐには
セルフケアが大切

外反母趾は長い時間をかけて指の関節が脱臼していくものです。脱臼したものがセルフケアで戻ることはないため、早く気付き、対処することが大切です。子どもでも、外反母趾のように曲がった状態はよく見られますが、インソールや靴選びなどでアーチを正しく保つ対策を早めに講じることで、成長過程で変形が進むのを防ぐことができます。

  • 対策1 インソールを使う
    外反母趾がある程度、進行している人はオーダーメイドの医療用インソールを使うと良いでしょう。市販のインソールは医療用ほどの効果は望めないものの、一定のサポート力はあります。できるだけ足にぴったりと合って、アーチ構造をしっかりと支えるものを選びましょう。
  • 対策2 足に負担のかからない靴を選ぶ
    かかとの安定性を高め、歩く時の衝撃を緩和することが重要です。ポイントは次のとおりです。
    • ・足の甲まで覆われ、紐かベルトで甲とかかとを固定したもの
    • ・柔らかい素材のもの
    • ・ヒールカップがしっかりと硬く、かかとにフィットするもの
    • ・つま先の余裕が5〜10mm程度あるもの
    • ・地面に置いたとき安定感があり、靴底の先端部分が浮いているもの
    • ・親指の付け根の部分だけが曲がる構造のもの
  • 対策3 アキレス腱のストレッチ
    アキレス腱が硬いと、歩くときに足首が前に倒れにくいので、アキレス腱が柔らかい人よりも前進しにくく、その分踏み返しを多くすることで進みます。足にとっては不安定で指の付け根に大きな負担がかかりますので、アキレス腱を柔らかく保つことは足のトラブル予防に効果的です。
■アキレス腱ストレッチのやり方・正しい伸ばし方
  • 壁の前に立ち、両肘をまっすぐ伸ばして両手を壁につける。
  • 伸ばしたい足を一歩後ろに引いて、前の膝をゆっくり曲げていく。両足のつま先は壁に対して垂直に向け、かかとは床につける。
  • アキレス腱がやや突っ張る程度の状態で伸ばす。ゆっくりと呼吸をしながら気持ちよく1分程度キープする。反動はつけない。
  • 反対側の足も同様に行う。
アキレス腱ストレッチのやり方・正しい伸ばし方

外反母趾は男女比1:9と圧倒的に女性に多く、軽い例も含めると中高年の女性の約3割が悩んでいるとも言われています。足のトラブルを予防するために、自分の足に合った靴やインソールを選び、アキレス腱のストレッチを取り入れるなど、セルフケアを心掛けましょう。

桑原 靖 足のクリニック 表参道院長

埼玉医科大学医学部卒業。「日本では足に対する健康意識が欧米諸国と比べて低く、ちょっとした傷や症状がないがしろにされている」と考え、2013年4月、日本では珍しい足専門のクリニック「足のクリニック 表参道」を開院。日本下肢救済・足病学会評議員。著書に『放っておくと怖い「足の痛みと不調」を治す本』(宝島社)がある。

プロフィール写真