食で健康
2021.12.10

「体に良い油」の選び方とは?

~積極的に摂りたいオメガ3&6に注目~
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油の摂り過ぎは肥満や生活習慣病などの要因の1つになりますが、近年では良質な油を適量摂り続けることが健康維持に役立つことも知られるようになってきました。また、スーパーなどではさまざまな種類の油を手に入れることができるので、「どの油を選べばいいの?」と迷うこともあるでしょう。さまざまな油の特徴や、積極的に摂りたい油の種類などについて、慶應義塾大学医学部化学教室の井上浩義教授に伺いました。

脂質は細胞や脳の材料として
欠かせない栄養素

ダイエットや生活習慣病の予防などを心がけている人から、「太るし、油の摂取はできるだけ控えている」という声を聞くことがあります。

しかし、油は栄養学的には「脂質」と呼ばれ、糖質、たんぱく質と並ぶ三大栄養素の一つです。体にとって不可欠なものであり、毎日の食事で摂取する必要があります。

脂質は体の中でさまざまな働きを担っていますが、特に大きな役割として次の2つが挙げられます。

1. 全身の細胞膜の材料になる

私たちの体は、細胞が集まって組織を作り、さらに組織が集まって目や耳、皮膚や筋肉、骨、心臓や肺、胃、腸などの器官を形成することで成り立っています。

細胞は一つひとつが独立した形で存在し、細胞と体液は「細胞膜」で隔てられています。また、細胞と細胞が密着した場合にも「細胞膜」が連結する役割を果たしています。

この細胞膜の材料となっているのが「リン脂質」という脂質の一種です。すべての細胞は、脂質によって覆われています。

細胞は常に新陳代謝を繰り返していますが、食事による油の摂取を極端に控えていると体内の脂質が不足し、細胞の働きが低下する可能性があります。体を構成する細胞の形成に脂質は欠かせないものだということをぜひ知っておきましょう。

2. 脳の老化予防のためにも重要

脳は、水分を除く乾燥重量の約60%を脂質が占めています。超高齢化社会で増加傾向にある認知症などを予防するためにも、脂質は重要な栄養素の一つです。

飽和脂肪酸と
不飽和脂肪酸の違いとは?

飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸の違いとは?

脳や体の健康を保つためには、日々の食事で摂取する油の種類や摂り方に気をつけることが大切です。

油は「飽和脂肪酸」と「不飽和脂肪酸」の大きく2つの種類に分けられます。

飽和脂肪酸

常温で白く固まっている油です。脂肪として体内に蓄えられやすい傾向があります。

<代表的な油や食品>
牛や豚などの動物性の脂肪(ラード)、バター、マーガリン、ショートニング、ココナッツオイル、パーム油など。

飽和脂肪酸の例の中で、マーガリンとショートニングは分類としてはオメガ6です。オメガ6の油に水素付加することによって工業的に常温で固体にしています。

不飽和脂肪酸

常温でサラサラした液状の油です。体のエネルギーとして使われるほか、体の構成成分となり得ます。

<代表的な油>
オリーブオイル、サラダ油、ゴマ油、エゴマ油、アマニ油など。

不飽和脂肪酸には、体内で合成できない必須脂肪酸の「オメガ3(n-3系脂肪酸)」「オメガ6(n-6系脂肪酸)」、体内で合成できる「オメガ9(n-9系脂肪酸)」があります。

オメガ3、6、9を分類すると以下のとおりです。

■オメガ3・6・9の特徴 オメガ3・6・9の特徴

厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2020年版)」では、「生活習慣病の予防のために現在の日本人が当面の目標とすべき摂取量」として、1日の総エネルギー摂取量に占める脂質の割合は、20%以上30%未満(30~75歳以上、男女共通)と設定されています。

1日の推定エネルギー必要量で「ふつう」とされる基準は、30~49歳の男性で2,700kcal、同年代の女性で2,050kcalです。エネルギー摂取量の20%とした場合、脂質の摂取量は40~55g程度が目安となります。

大さじ1杯は約15gなので、3杯強ほどの油を取ると、上記の量に達します。「自炊ではそんなに油を使っていない」と思うかもしれません。しかし、パンや麺類、総菜、スナック菓子やインスタント食品などの加工食品にはたくさんの油が使われているものが多く、何気なく口にしていると適量を大幅に超えてしまう可能性が高いのです。

加工食品の取り過ぎに注意しながら、自分が料理で使う油はなるべく体にとって良いものを選ぶといった工夫が大切です。

常備するならエゴマ油と
オリーブオイルがおすすめ

常備するならエゴマ油とオリーブオイルがおすすめ

前述の飽和脂肪酸や、不飽和脂肪酸の一つであるオメガ6の油は、加工食品などに使用されている場合が多く、意識しなくてもすでに十分に摂取できていると考えられます。

健康のために特に意識的に摂取したいのは、オメガ3とオメガ9の油です。オメガ3には、悪玉コレステロールと呼ばれるLDLコレステロールを減らし、反対に善玉コレステロールと呼ばれるHDLコレステロールを増やす働きがあります。

一方、オメガ9にはHDLコレステロールを減らさずにLDLコレステロールだけを減らす働きがあります。体内のLDLコレステロールが過剰になると動脈硬化の要因になり、脳梗塞や心筋梗塞などの発症を招くリスクも考えられます。

オメガ3とオメガ9の油を日常的に摂取することで、病気を予防する効果が期待できます。どちらもさまざまな種類の油がありますが、中でも、オメガ3では「エゴマ油」、オメガ9では「オリーブオイル」がおすすめです。エゴマ油は味にあまりクセがないので、初めてでも食事に取り入れやすいでしょう。

エゴマ油もオリーブオイルも安価なものから高価なものまで価格帯にも幅がありますが、品質や体への働きなどに大きな違いはありません。金額的に無理なく続けられるオメガ3やオメガ9の油を常備し、毎日コンスタントに摂取することが健康のためには大切です。

オメガ3は加熱NG
オメガ9は揚げ物にもOK

オメガ3は加熱NG、オメガ9は揚げ物にもOK

オメガ3、オメガ9の油について、摂り方のポイントは次のとおりです。

■オメガ3(エゴマ油)
1日の摂取量は小さじ1杯分(6~9分目)程度を目安に

「日本人の食事摂取基準(2020年版)」におけるオメガ3の1日の摂取目安量は以下のとおりです。

■オメガ3の1日の摂取目安量 オメガ3の1日の摂取目安量

エゴマ油はオメガ3を多く含みます。1日分のオメガ3の摂取目安は約2.0 g(小さじ1杯分)に相当すると覚えておきましょう。食品ではサバやイワシなどの青魚に多く含まれています。

熱に弱く、酸化しやすいので加熱料理には使用しない

生野菜のサラダやヨーグルト、納豆などにかけたり、ドリンクなどに混ぜたりして、加熱せずに使いましょう。そのまま味わうことも可能です。

■オメガ9(オリーブオイル)
1日の摂取量は大さじ1杯分程度を目安に

オメガ9は必須脂肪酸ではないため、厚生労働省による1日の摂取目安量は設けられていませんが、他の脂質の摂取目安などから考えた場合、次の通りです。

30~49歳の男性の場合、摂取目安量を基準にオメガ6が10g、オメガ3が2g、総脂質が45gとすると、加工食品を考慮したうえで、オメガ9(オリーブオイル)の摂取量の目安は1日最大15g(大さじ1杯分程度)となります。女性の場合もほぼ同じ量を目安とし、摂り過ぎには注意しましょう.

加熱しても酸化しにくいので揚げ物にもOK

オリーブオイルは加熱してもしなくても、どちらでも使用できる油です。加熱せずそのまま使用する場合はサラダのドレッシングなどに。炒め物や揚げ物を作るときには、オメガ9のオリーブオイルなどを使ったほうが、サラダ油などに比べてヘルシーに仕上がるといえるでしょう。

ただし、高温調理に使用した油は劣化しやすいので、何度も使いまわすのは避けましょう。オリーブオイルに限らず、オメガ6のサラダ油なども同様です。

それぞれの油の特徴を理解して、効果的に摂取することを心掛けましょう。

井上 浩義 慶應義塾大学医学部化学教室教授

医学博士、理学博士。1989年九州大学大学院理学研究科博士課程修了。山口大学医学部生理学教室助手、久留米大学医学部放射性同位元素施設教授などを経て、2008年から現職。
『からだによいオイル 健康と美容をかなえる油の教科書』(慶應義塾大学出版会)、『ハーバード大の研究でわかった ピーナッツで長生き!』(文藝春秋)など著書多数。

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