健康ライフ
2019.07.26

スポーツマッサージで疲れ知らずの体になろう

〜運動後にも、日ごろの疲労回復にも役立つセルフケア〜
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多くのアスリートが試合や練習の前後に行っているスポーツマッサージは、一般の人にも、運動した時や日ごろの健康維持に役立ちます。スポーツマッサージの効用や簡単で効果的なマッサージの方法について、多くのトップアスリートのトレーナーを務めてきた筑波大学大学院人間総合科学研究科教授の白木仁さんに伺いました。

スポーツマッサージの効果は
血行促進と疲労回復

スポーツマッサージの主な目的は疲労回復です。運動して筋肉に負荷がかかると、代謝物質(疲労物質)が発生します。そこで、筋肉に刺激を加えて血液循環を良くすることで、この疲労物質を速やかに体外に排出させ、疲労を起こりにくくします。運動後にスポーツマッサージを行うと筋肉痛や筋肉の緊張を弱める効果が期待できます。

また、長時間同じ姿勢を続けたり、過度の緊張を強いられたりすると、うっ血して筋肉に疲労物質がたまり、硬くなります。マッサージで筋肉を緩めて柔らかくすることが、体のコンディションを整えるためにも役立ちます。

スポーツマッサージの
ルールと注意点

スポーツマッサージの手技には、揉む、さする、揺らす、圧迫するなどいくつかの方法がありますが、以下のようなルールがあります。

  • 1.なるべく皮膚に直接触れる
    衣類の上からではなく、皮膚に直接触れることが大切です。オイルやベビーローション、パウダーを使い、局所への摩擦や負担を減らすと良いでしょう。
  • 2.静脈の流れに沿って体の末梢から中枢へ向かって行う
    スポーツマッサージは、老廃物のたまった静脈血を心臓の方へ戻すという考え方によるもので、静脈の流れに沿って体の末梢から中枢へ向かって行うのが基本です。
  • 3.最初と最後は「さする」
    皮膚に手を密着させ、最初と最後にさすることで、血液やリンパ液の循環を促進する効果があり、リラックスしやすくなります。
  • 4.指の腹と手のひらを使う
    細かな部位など特定の場合を除いて、原則的には指先ではなく指の腹と手のひらを使います。
  • 5.力を入れすぎない
    「気持ちが良い」と感じるくらいの力加減がベストです。痛みを感じる強い刺激は、筋肉を痛める可能性もあるので注意しましょう。

また、スポーツマッサージを行う際には、以下のことに注意しましょう。

  • 怪我をした直後や炎症の激しい時には行わない。
  • 風邪で発熱しているなど体調不良の時には行わない。
  • お酒を飲んだ時には行わない。
  • 食後1時間以上をおいてから行う。
  • 脇の下、膝裏、鼠径部そけいぶ、肘関節の内側など血管が集中している場所は強い刺激を加えない。

また、しびれがある時は何らかの病気の可能性もあるので、整形外科を受診することをおすすめします。

やってみよう
自分でできるスポーツマッサージ

体の中で疲労がたまりやすいのは、首から肩にかけて(僧帽筋)そうぼうきんと、背中(菱形筋)りょうけいきんです。ハイヒールを履く人は足のすねやふくらはぎも張りやすくなります。
今回は、「首から肩」「足」「足裏」のマッサージをご紹介します。

(行う時間は目安です。筋肉の状態に合わせて行ってください)。

● 首から肩

・ 肩の上側(僧帽筋)を人さし指から小指までの4本の指で円を描くように揉む。5分程度を目安に行う。

首から肩

・髪の生え際から首の付け根まで、筋肉に沿って4本の指の腹で円を描くようにして揉む。一方向へ同じ動きを繰り返し20〜30秒程度行う。

首から肩
● 足

・ すねの外側にある筋肉に沿って下から上へ、親指の腹で2〜3cm間隔で押していく。2〜3秒かけて徐々に圧を加え、2〜3秒かけて徐々に弱める。

足

・片手を膝の内側に添えて固定し、手のひらでふくらはぎを下から上へ揉んでいく。ふくらはぎの内側と外側にある2つの筋肉の真ん中あたりを親指の腹で圧迫したり、揉むように押したりする。5分程度を目安に行う。

足
● 足裏

・ 指の付け根からかかとに向けて親指の腹で圧迫しながら揉んでいく。一方向へ足裏全体をほぐすように、指の腹で円を描くように揉むのも良いでしょう。

足裏

・指の付け根全体と踵の部分を持ち、お互いを反対方向にねじる。足裏全体を伸ばし、骨と骨の間の関節を広げるようなイメージで、5分程度を目安に行う。

足裏

揉む、押すだけではない
マッサージのコツ

痛みやコリを感じる部分だけではなく、体の端から徐々に中心に向かって指を移動させ、腱も含めてそこにつながる筋肉全体を広くマッサージするのがコツです。例えばアキレス腱が痛い場合は、運動前後にふくらはぎのマッサージをすることでアキレス腱への負担も減り、血流も良くなります。

また、「揺らす」のも手法の一つです。仰向けに寝た状態で手や足を空中に上げてブラブラ揺らすと、血液が上から下へ流れ落ちます。そこで元の姿勢に戻ると、一時的に血流が少なくなったところへ血液が流れやすくなります。血液循環が良くなると、疲労物質を体外に排出させ疲労回復を促すことにつながります。

筋肉をなるべく収縮させず、力を抜いて「緩める」ことも大事なポイントです。例えば腕をマッサージする時も、腕を机にのせるなど支えのある状態で行う方が、筋肉が緩んで揉みやすく、刺激を加えやすくなります。

筋肉が温まり
リラックスした状態で

マッサージは、筋肉が温まりリラックスした状態で行います。運動直後は筋肉が温まっているため、マッサージをするのに良いタイミングです。また、入浴前にストレッチをして筋肉を伸ばしてから、入浴後にマッサージをするのが理想です。湯船につかった後、軽く水をかけて冷やしてからもう一度お湯につかると、温冷刺激でより血行が良くなり、疲労回復を促進します。

ただし、マッサージだけでも心拍数は上がるので、できれば就寝3時間前までには終わらせましょう。寝る直前は交感神経(興奮・緊張モードの時に優位に働く自律神経)を活性化させないように、できるだけ静かに力を抜いてリラックスすることが大切です。

アスリートは、その日の調子や筋肉の状態を敏感に感じ取り、日々変わるコンディションを整えるためにマッサージやストレッチなどを組み合わせて、ケアをしています。私たちも体の声に耳を傾けて、日ごろのケアやリカバリーの意識を高め、疲れ知らずの体を作りましょう。

白木 仁 筑波大学大学院教授
人間総合科学研究科スポーツ医学専攻

1979年筑波大学体育専門学群卒。1982年同大大学院体育研究科体育学修士課程修了。1991年より筑波大学体育科学系にてスポーツ医学講師。日本陸上競技連盟医事委員会トレーナー、日本スケート連盟メディカルスタッフトレーナー、日本プロゴルフ協会技術委員、オリンピック冬季競技大会(長野)日本選手団本部トレーナー。日本ゴルフ連盟強化本部シニアディレクター。著書に『すぐにできるスポーツマッサージ』(成美堂出版)、『股関節コアトレーニング』(永岡書店)ほか。

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