食で健康
2019.04.26

大人気のサバ缶はなぜいいの?

~美味しく栄養もしっかり摂れるワケ~
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2018年、大ブームを巻き起こしたサバ缶は、栄養が豊富で健康に良く、いつでも手軽に摂取できるといった点が主な人気の理由です。サバ缶に含まれている栄養素や期待される健康効果について、満尾クリニック院長の満尾正先生に伺いました。

サバ缶の健康ポイントは「油(脂質)」
脂質の種類をまず知ろう

サバ缶が健康に良いと言われる理由のひとつに魚の「油(脂質)」があります。
脂質は、炭水化物、たんぱく質と並ぶ「三大栄養素」のひとつです。生きていくうえで不可欠なエネルギー源であるほか、ホルモンや細胞膜などを構成したり、皮下脂肪として臓器を守ったりするなど、重要な役割を担っています。

脂質を作っている成分である脂肪酸は「飽和脂肪酸」と「不飽和脂肪酸」の大きく2つに分けられます。

■飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸の特長

サバ類をはじめ、イワシ類、サンマなどの青魚(背の青い魚)には、「不飽和脂肪酸」が豊富に含まれています。
サバ缶がとりわけ注目されているのは、n-3系の不飽和脂肪酸の一種であるDHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(イコサペンタエン酸)を多く含んでいる点にあります。どちらも体内で合成できないため食品から摂取しなくてはならない「必須脂肪酸」です。
不飽和脂肪酸はさらに「一価不飽和脂肪酸」と「多価不飽和脂肪酸」に分かれます。
一価不飽和脂肪酸の代表的なものに、オリーブ油などに含まれるオレイン酸があります。多価不飽和脂肪酸には「n-3系」と「n-6系」の2種類があり、それぞれ次のものが代表として挙げられます。

  • n-3系
    ・DHA
    ・EPA
    ・α(アルファ)-リノレン酸
  • n-6系
    ・リノール酸
    ・γ(ガンマ)リノレン酸
    ・アラキドン酸

生のゴマサバよりサバ缶の方が
DHA、EPAが豊富

比較的手頃な価格で入手できる生のゴマサバの場合、可食部100g当たりに含まれるDHAは830mg、EPA230mg。水煮缶の場合、100g当たりDHA1300mg、EPA930mgと、缶詰の方がより多く含まれていることがわかります。
(数値はすべて文部科学省 食品成分データベース調べ)

厚生労働省は、18歳以上の男女のDHAおよびEPAの目標摂取量を1日当たり1000mg以上と算定しています。一般的なサバの水煮缶は200g前後なので、半分程度食べれば1日の目標量は十分に摂取することができます。
生のサバは足が早く、保存が難しい面があります。魚の下処理も慣れていないとなかなか難しく、面倒に感じるかもしれませんが、缶詰の場合は長期保存が可能で、手軽に摂取することができます。

脳の働きを高めるDHA
血液をサラサラにするEPA

青魚に豊富に含まれるDHAやEPA などの脂肪酸には、血液をサラサラにする効果だけでなく、さまざまな生活習慣病への効果があります。

  • DHA→主に脳や網膜などの神経系に働く
    ・高齢者の認知機能を高める
    ・脳の神経伝達をスムーズにする
    ・子どもの知能レベルを向上させる
    ・不整脈やうつ症状などを予防する
  • EPA→主に血管系に働く
    ・血中の中性脂肪を減らす
    ・血栓を防ぎ、動脈硬化を抑制する
    ・体内の炎症を抑え、皮膚炎や気管支炎、リウマチなどの発症を防ぐ

DHAとEPAには、血糖値を下げる働きを高め、糖尿病にかかりにくくする働きがあります(※)。

※出典:Sci Rep.2014,Oct21;4:6697.

47人の肥満男性(平均年齢46.5歳)の血液中のDHA、EPAの濃度を調べたところ、どちらの濃度も高かったグループには次の特徴がみられました。

  • インスリン(※1)がしっかり作用し、血糖値をコントロールできている(インスリン感受性が高い)
  • 空腹時のインスリン濃度が低い
  • 血圧が低い
  • 炎症の指標となるCRP(※2)の濃度が低い

※1インスリン
膵臓から分泌されているホルモン。グルコース(糖)の細胞内への取り込みを促し、血糖値を下げる。

※2CRP
C-リアクティブ・プロテイン。体内に炎症が起きたり、組織の一部が壊れたりしたときに血中に現れるたんぱく質の一種。

血糖値を一定に保つことができれば、結果的に余分な脂肪がつきにくくなり、さまざまな生活習慣病の予防につながります。サバ缶に豊富に含まれるDHAやEPAを摂取することで、こうした健康効果が期待できます。

■DHA・EPAの働き

中性脂肪と酸化LDLコレステロールは、血管内皮細胞を傷つけ、その下に蓄積して動脈硬化のリスクを高めます。DHA・EPAは中性脂肪や酸化LDLコレステロールを減らし、動脈硬化を抑制する働きがあります。

不足しがちなビタミンDも
豊富なサバの水煮缶

サバ缶の中でも水煮缶には、ビタミンDも100g 当たり11.0μg(マイクログラム)と豊富に含まれています。これは厚生労働省の食事摂取基準(2015年版)で、30~49歳の男女の1日当たりの目安量とされている5.5μgを大きく上回る数値です。

ビタミンDには、小腸や腎臓でカルシウムとリンの吸収を促進し、血液中のカルシウム濃度を高めることで、骨を丈夫にする働きがあります。食べ物から摂取するほか、日光を浴びることで体内でも作り出すことができる成分ですが、近年は肌の老化予防のためにできるだけ紫外線を浴びない生活をする人が増えています。その結果、ビタミンD不足の状態が続き、高齢になってから骨粗しょう症のリスクが高まるというケースも少なくありません。近年増加している乳幼児の「くる病」(足の骨などが変形する病気)も、日光浴不足によるビタミンDの欠乏が原因のひとつです。
ビタミンDは現代社会において不足しがちな栄養素のひとつなので、サバの水煮缶などを上手に利用して積極的に摂るようにすると良いでしょう。サバの水煮缶に豊富に含まれるカルシウムも、ビタミンDの働きによってより効率よく吸収することができます。

食生活に
サバ缶を上手に取り入れよう

健康のためには、DHAやEPA、ビタミンDなどの栄養素をコンスタントに摂取するのが望ましいため、積極的にサバ缶を食事に取り入れることをお勧めします。
特に、普段から揚げ物など油っこい料理を好んで食べている人は、意識的に摂取することが大切です。サラダ油などに含まれるリノール酸というn-6系脂肪酸は、体内でアラキドン酸を作ります。このアラキドン酸は、重要な必須脂肪酸ですが、増えすぎると免疫細胞の働きが低下し、体内で炎症を起こしてアレルギー性の疾患や動脈硬化のリスクを高めるという側面があります。
体内の炎症を抑える働きを持つEPAには、こうしたアラキドン酸の弊害を打ち消す作用があります。

サバ缶には先に挙げたDHA、EPA、ビタミンDのほか、たんぱく質やビタミンB群、ビタミンE、ナイアシンなども多く含まれています。一般的に、味噌煮缶より水煮缶の方が栄養素の含有量は多い傾向にあります。
一方で、水煮缶、味噌煮缶ともビタミンCやβカロテン、食物繊維などの栄養素はほとんど含まれていないので、緑黄色野菜や海藻類、豆類などをサバ缶と組み合わせてアレンジを楽しむと栄養バランスもアップします。
手軽なサバ缶を上手に取り入れて、美味しく栄養を摂りましょう。

満尾 正 満尾クリニック院長・医学博士
日本キレーション協会代表、米国先端医療学会(ACAM)理事、日本抗加齢医学会評議員。

1982年北海道大学医学部卒業。内科研修を経て杏林大学救急医学教室講師として救急救命医療に従事。米国ハーバード大学外科代謝栄養研究室研究員、救急振興財団東京研修所主任教授を経た後、キレーション治療とアンチエイジングを中心としたクリニックを2002年に赤坂に開設。2005年広尾に移転、現在に至る。著書に「世界の最新医学が証明した長生きする食事」(アチーブメント出版)、「125歳まで元気に生きる」(小学館)、「40代からの太らない体のつくり方」(三笠書房)など多数。

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