知っておきたい病気・医療
2021.02.12

その手荒れ、「手湿疹」かも!?

~こまめな保湿対策でしっとりスベスベに~
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冬になると手がカサカサする、痒くなると感じたことはありませんか。軽い手荒れと思っていたら、なかなか治らず「手湿疹」になり、ひどくなると、水ぶくれができたり化膿したりすることもあります。感染症対策として、1日に何度も手洗いやアルコール消毒をした結果、皮膚に負担がかかっているケースも多いようです。手荒れを悪化させないための予防や手湿疹の治療法について、南青山皮膚科スキンナビクリニック院長の服部英子先生にお伺いしました。

なぜ手荒れは起きるの?

皮膚の潤い(水分量)は、皮脂・天然保湿因子(ナチュラルモイスチャーライジングファクター)・角質細胞間脂質(セラミド)の3つの物質によって保たれています。皮膚の表面は皮脂膜という薄い膜が覆っており、水分の蒸発を防ぐようにガードする役目を果たしています。しかし、手は皮脂を分泌する皮脂腺が少なく、皮脂膜が薄い代わりに角質層が厚くなっています。加齢や乾燥など、何らかの要因で、元々少ない皮脂や潤い成分が減少すると、外部刺激をガードするバリア機能が低下してしまい、手荒れが起こりやすくなります。そこへ、さまざまなものに触れて摩擦による刺激が繰り返し加わると肥厚し、角質層が弾力性を失い、ひび割れてしまいます。

■健康な皮膚と乾燥した皮膚 ■健康な皮膚と乾燥した皮膚

手荒れを招きやすい要因

水仕事や手洗いの多い家事従事者や飲食関係者、薬品などの化学物質に触れる機会の多い美容師や看護師などは、手荒れが重症化しやすい傾向が見られます。頻繁に紙に触れる、パソコンのキーボードを長時間操作するといったことでも、摩擦が刺激になって悪化することもあります。また、ダンボールやガムテープを使った作業では、ダンボールに触れた摩擦が刺激になったり、ガムテープの粘着部分に皮脂を奪われたりして手が荒れることがあります。子どもの頃にアトピー性皮膚炎を患っていたなど、元々ある皮膚のバリア機能も関係しています。
特に秋から冬の時期は手荒れを悪化させる要因が多くなります。例えば、空気が乾燥して手の水分が蒸発しやすくなりささくれができる、お湯を使うことで皮脂が奪われる、などです。手指が冷えて血液循環が悪くなり、代謝が落ちて角質層が硬くなりやすいのも要因の一つです。

■手荒れを招きやすい生活習慣
  • 水仕事が多い
  • 手洗いのすすぎが充分ではない
  • 消毒剤をよく使う
  • 熱めのお湯をよく使う
  • パーマ液など薬品に触れる機会が多い
  • パソコン作業が多い
  • 紙をよく扱う
  • ダンボールやガムテープをよく触る

手荒れが進行すると手湿疹に

初期の手荒れは、親指・人さし指を中心に指先が軽くかさついたり、粉っぽくなったりします。指紋が薄くなってツルツルになったら、手が荒れ始めているサインです。進行すると、ほとんど全部の指や手のひらに広がり、乾燥して皮がむけたり、炎症を起こして赤くなったりします。角質層が硬くなり、ひび割れなどが起こることもあります。さらに重症化すると、手のひら全体に広がり、かゆみが出たり、小さな水ぶくれができたり、じゅくじゅくと化膿することもあります。このように手荒れが進行したものが「手湿疹」、俗に「主婦湿疹」とも言われます。
このような手湿疹になると、セルフケアだけで改善するのは難しくなります。保湿ケアをしてもなかなか治らない、手のひらに湿疹が広がっている、といった場合は、炎症がひどくならないうちに早めに皮膚科を受診しましょう。

■手荒れの進行 ■手荒れの進行

手湿疹の治療は
薬を正しく使うことが大切

手湿疹の医学的診断名は「進行性指掌角皮症(しんこうせいししょうかくひしょう)」と言います。皮膚科では接触皮膚炎など他の疾患ではないことを確かめたうえで、ステロイド剤と保湿剤を併用して治療を行います。よほど痒みがひどくなければ、外用薬が中心となります。
少し改善すると、自己判断で薬を使わなくなってしまう人もいますが、ひどくなった炎症はステロイド剤を使ってしっかりと抑えなければ、再発を繰り返してさらに悪化させてしまうこともあります。薬は医師の指示を守って適切に使いましょう。
また、保湿剤は弱くなったバリア機能をサポートします。手を洗ったら落ちてしまうので、なかなか塗るタイミングがないと思うかもしれませんが、たとえたった30分でも、塗っておけば皮膚のガードになり、成分が浸透します。なるべくこまめに保湿剤を使うようにしましょう。

セルフケアは
ハンドクリームでこまめに保湿

手荒れのセルフケアは、ハンドクリームでこまめに保湿をすることが基本です。市販のハンドクリームは有効成分によってさまざまな種類があります。以下の種類に大きく分けられますが、いくつかの成分や特徴が混合している場合が多いので、「症状が改善するか」「使いやすいか」といったことから好みのものを選べば良いでしょう。
ベタつきが気になる日中はサラッとしたローションタイプをこまめにつける、就寝前は油分の多いクリームをたっぷり塗って集中的にケアするなど、ライフスタイルや生活シーンに合わせて使い分けるのもおすすめです。

■ハンドクリームの種類 ■ハンドクリームの種類

ハンドクリームの塗り方にもポイントがあります。「ワンフィンガー・チップ・ユニット」といって、「両方の手のひらに対して、大きいチューブで人さし指の先端から第一関節まで絞り出した量(約0.5g)」が適量です。ベタつきを気にして量が足りていない場合も多いようですが、少し多いと感じるくらいたっぷり塗ることで十分な効果が期待できます。どうしてもベタつきが気になる場合は、クリームを塗った後、しばらく綿手袋やビニール手袋をしておくのも良いでしょう。

感染症対策の手洗い・消毒を優先しながら
工夫してケアを

日常ではこまめにハンドクリームでケアをしながら、原因となる摩擦や刺激を避けることが大切です。水仕事の際にはビニールやゴムの手袋をして直接洗剤に触れないようにするなど、できるだけ手の負担を減らすように工夫しましょう。また、症状が少し良くなったからといって油断せず、ケアを続けることも重要です。特に湿度が高くなり乾燥が和らぐ春から夏の時期にしっかりとケアを続け、出来るだけ状態を良くしておくことが、再発を防ぎ、冬の時期を楽に過ごすことにつながります。
これからは、年間を通して感染症対策として、手洗いやアルコール消毒を頻繁に行わなければなりません。手湿疹がある人にとっては難しい状況ですが、感染症対策を疎かにしてはいけませんので、バランスを見極めながらできる工夫を上手に行いましょう。あまりにも痛みや症状がつらい場合は、躊躇せず皮膚科を受診し、早めに治療を開始することも大切です。
なお、手洗いの際は、洗い流しが不十分で指と指の間の付け根部分などに洗浄剤が残っていると刺激になりやすいので、流水でよく洗い流し、こまめにハンドクリームを塗るということを習慣化しましょう。消毒液のアルコール成分も刺激になりやすいですが、消毒液の中には保湿成分を配合したものもありますので、そうした製品を選ぶと良いでしょう。

服部 英子 南青山皮膚科スキンナビクリニック院長

1998年東京女子医科大学卒業。皮膚科専門医。日本皮膚科学会、日本レーザー学会、日本臨床皮膚科学会、日本アレルギー学会に所属。大学卒業後に東京女子医科大学病院やJR東京総合病院の皮膚科に勤務した後、2005年から現職。

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