知っておきたい病気・医療
2022.10.14

「がん」になったら、医療費はどうする?

~万が一のために知っておきたい「お金」と「公的制度」~
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がんに罹患(りかん)した場合に必要となる医療費は、がんの種類や治療の内容、治療期間などによって異なりますが、大きな出費となることに違いはありません。必要となる費用の目安と、経済的な助けとなる公的制度について、近藤社会保険労務士事務所代表の近藤明美さんに伺いました。

個人差が大きいがんの医療費
がんの種類別の大まかな金額の目安とは

がん(悪性新生物)の医療費は、がんの種類や治療にかかる期間、使用する薬剤などによって異なります。

一概に「このくらいの金額が必要です」とは言えませんが、例えば厚生労働省が公表している「医療給付実態調査(令和元年度)」から、がんの種類別の入院費用の総額と、その3割を自己負担額と推計すると、下記の表の金額になります。

■がんの種類別・入院費用の目安(1件当たりの医療費を医療点数から算出) がんの種類別・入院費用の目安(1件当たりの医療費を医療点数から算出) データ/厚生労働省「医療給付実態調査(令和元年度)」第3表(制度・計)をもとに推計。表内の各金額は、算出された値を1円単位で四捨五入した金額。

上記の金額はあくまでも目安であり、誰にでも当てはまるというわけではありません。また、「高額療養費制度」があるため、上記の自己負担額を全額負担するわけではありません。
「高額療養費制度」は、医療機関や薬局の窓口で支払った額が、1カ月間(1日から末日まで)で一定の上限額を超えた場合に、その超えた金額が払い戻される制度です。

ただし、入院時の食費や差額ベッド代、先進医療にかかる費用などは高額療養費制度の対象となりません。別途、貯金や保険で備えておく必要がありますので注意しましょう。

今回は高額療養費制度について、詳しく見ていきます。

自分の年収で目安が分かる
高額療養費制度の上限額

高額療養費制度の上限額は、下記のとおり、年齢や所得によって異なります。

■69歳以下の場合の上限額(1カ月分) 69歳以下の場合の上限額(1カ月分)
■70歳以上の場合の上限額(1カ月分) 70歳以上の場合の上限額(1カ月分)

例えば69歳以下で年収が約370万~約770万円の場合、医療費が100万円で、窓口負担(3割)が30万円かかる際には、実際の自己負担額は上限の8万7430円となり、差額分の21万2570円は高額療養費として支給されます(下図参照)。

69歳以下で年収が約370万~約770万円の場合、医療費が100万円で、窓口負担(3割)が30万円かかる際には、実際の自己負担額は上限の8万7430円となり、差額分の21万2570円は高額療養費として支給

高額療養費制度にはさらに自己負担額を軽減する仕組みがあります。過去12カ月以内に3回以上、自己負担の上限額に達した場合は、4回目から「多数回」に該当するため、上限額が下表のとおり下がります。がんの治療は長期化するケースが多いため、覚えておきましょう。

多数回該当の場合の上限額

また、1人1回分の窓口負担では上限額を超えない場合でも、複数の受診や、同じ世帯で同じ公的医療保険に加入している他の人の受診で支払われた自己負担額を1カ月単位で合算することができます。その合算した額が上限額を超えた場合、超えた分が高額療養費として支払われます(ただし、69歳以下の場合は2万1000円以上の自己負担のみ合算されます)。

高額療養費制度を利用するための
手順をチェック

高額療養費の申請方法には、『事前申請』と『事後申請』があり、次の手順で利用できます。

■事前申請の場合
  • 1.自分が加入している公的医療保険(健康保険組合、全国健康保険協会<協会けんぽ>の都道府県支部、市町村国保、後期高齢者医療制度、共済組合等)の高額療養費支給申請書「限度額適用認定申請書」を提出する。
  • 2.1週間程度で、「限度額適用認定証」または「限度額適用・標準負担減額認定証」が交付される。
  • 3.医療機関・薬局で認定証を提示する。

なお、マイナンバーカードを健康保険証として利用すると、同カードを利用可能な医療機関・薬局では「限度額適用認定証」または「限度額適用・標準負担減額認定証」の提示がなくても、限度額を超える支払いが免除されるようになっています。

万が一、がんに罹患した場合に備えて、自分の年収ではどのくらいの上限額(自己負担限度額)となるか等、あらかじめ知っておくことも大切です。

「限度額適用認定証」または「限度額適用・標準負担減額認定証」がなくても、後から上限額を超えて支払った分を払い戻してもらうことは可能ですが、支給までには少なくとも3カ月程度かかります(協会けんぽの例)。入院する前に認定証の交付を受けておくと、退院時の負担を上限額までに抑えることができます。高額療養費の申請には期限(※)があるため、早めに高額療養費支給申請書の提出を済ませておきましょう。
※申請期限は、診療を受けた月の翌月の初日から2年です。

がん治療による休業期間は
「傷病手当金」で収入の減少分を補う

昨今では、がんの治療技術が進歩して入院する期間が短くなってきたことから、仕事をしながら通院による治療を続ける人も増えています。しかし、退院後も自宅療養が必要な場合や、体調が悪くて働くことができず、収入が減少する場合もあります。

こうした病気やケガによる休業で、事業主から十分な報酬が受けられない場合に、公的医療保険の被保険者とその家族の生活を保障するための制度として「傷病手当金」があります。傷病手当金は、病気やケガで会社を休んだ日が連続して3日(※)あったうえで、4日目以降、休んだ日に対して支給されます。※最初の3日間を「待期」といいます。
支給期間は、支給開始日から通算して1年6カ月です。

支給期間イメージ

1日当たりの支給額は、次の計算で求められます。
【支給開始日以前の12カ月間の各標準報酬月額を平均した額】÷30日×(2/3)

病気休業中も傷病手当金の額より多い給与を会社が支払う場合は、傷病手当金は支給されません。また、一部だけ給与が支給される場合は、傷病手当金から給与支給分を差し引いた額が支給されます。
なお、傷病手当金の支給期間が終了してしまったり、病気やケガで生活や仕事が制限されるようになったりしたときには、「障害年金」を受け取ることができる場合もあります。

こうした公的制度を利用するためには、健康保険や国民年金、厚生年金等に加入し、保険料を支払っていることが前提ですが、医療費がかさむ等によって経済的に苦しくなった場合は、国民健康保険料や国民年金保険料の納付猶予制度があるほか、国民年金保険料には免除制度も設けられています。自分の住む市区町村の役所の保険年金課に相談してみましょう。

また、がん診療連携拠点病院の「がん相談支援センター」では、就労に関する専門家である社会保険労務士と、お金に関するさまざまな相談を受け、生活設計などを立案し、その実行を援助するファイナンシャルプランナーによる相談も行われています。

公的制度の活用法や会社との交渉などは社会保険労務士を中心に、生活費に関わる不安や民間の保険のことなどはファイナンシャルプランナーを中心に、それぞれ相談してみるのも良いでしょう。

がん診療連携拠点病院は下記のサイトで検索できます。

■がん情報サービス「がん診療連携拠点病院などを探す 病院一覧(全国)」 https://hospdb.ganjoho.jp/kyoten/kyotenlist
■社労士とファイナンシャルプランナーでの相談会(一例) がんと暮らしを考える会 https://www.gankura.org/
がん制度ドック https://www.ganseido.com/
近藤 明美 近藤社会保険労務士事務所 代表
一般社団法人CSRプロジェクト 副代表理事
NPO法人 がんと暮らしを考える会 副理事長

明治大学卒業後、企業の総務・人事職に従事し、2007年社会保険労務士試験に合格し、法律事務所勤務を経て、2008年近藤社会保険労務士事務所開業。2009年からがん患者の就労支援に携わり、がん経験を持つ社会保険労務士として、働く世代のがん患者の就労・経済問題に取り組んでいる。

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