知っておきたい病気・医療
2023.10.13

高血圧はなぜ怖い?

~家庭で血圧を測って早めに対策を~
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日本には約4300万人の高血圧患者がいると推定されている一方、適切な治療を受けているのはわずか1200万人程度と言われています。高血圧を治療せずに放っておくと、さまざまな病気のリスクが高まり、ゆくゆくは命に関わる恐れもあります。高血圧のメカニズムや関連する病気、日常生活での注意点などについて、自治医科大学内科学講座循環器内科学部門教授の苅尾七臣先生に伺いました。

無症状のうちに病気に近づく
「サイレントキラー」高血圧

血圧は、心臓から全身に送り出された血液が血管の壁を押す圧力のことで、血管の中を流れる血液量と、血管のしなやかさによって決まります。血液量が増えると血圧は上昇します。また、血液量が変わらなくても、血管が狭くなったり硬くなったりすることでも血圧は高くなります。

高血圧は、医療機関で測った血圧が140/90 mmHg以上、または家庭で測った血圧が135/85mmHg以上と定義されています。高血圧の原因はさまざまで、生活習慣や体質など複数の因子が重なり合って生じるものですが、代表的なのが加齢です。なぜなら加齢に伴って血管が硬くなっていくためです。また、肥満や糖尿病などの罹患(りかん)も血管を狭くしたり硬くしたりするため、高血圧の原因となります。そして、高血圧になり血管に強い圧力がかかるようになると、さらに血管が硬くなって動脈硬化が進む、という悪循環が生じます。

塩分の摂り過ぎも高血圧の原因の一つです。塩分(ナトリウム)をたくさん摂ると、血液中のナトリウム濃度が高くなります。これを薄めようとして血管内に多くの水分が取り込まれ、血管に流れる血液量が増えるため、血圧が高くなるのです。

高血圧は「サイレントキラー」(静かなる殺人者)と呼ばれることがあります。高血圧自体は自覚症状がないため、知らないうちに動脈硬化が進み、ある日突然、脳卒中、心不全、心筋梗塞、狭心症、大動脈解離、腎不全などの病気を発症することがあります。これらの病気は命に関わることが多いものです。心血管疾患(心不全、心筋梗塞、狭心症、大動脈解離など)による死亡リスクは、上の血圧(収縮期血圧)が20、下の血圧(拡張期血圧)が10上がるごとに2倍ずつ上がっていくという研究結果も出ているため、もし高血圧が見つかった場合、症状がないからと放置せずに早めに治療を開始することが大切です。

健康診断で見つかりにくい
「仮面高血圧」にも注意

私たちの血圧は、1日の中で変動しています。通常、睡眠中は低く、起床とともに上がっていき、活動量の多い日中は高くなります。そして、活動量が減っていく夜には下がっていきます。1日で血圧が最も高くなるタイミングであっても、高血圧の基準を超えないのが健康な状態です。

注意が必要なのは、健康診断や医療機関での数値は正常であるにもかかわらず、特定の時間帯だけ高血圧になる「仮面高血圧」です。起床時間帯だけ血圧が高い「早朝高血圧」は、朝方に脳卒中などを起こしやすいタイプの仮面高血圧です。「夜間高血圧」は、本来夜には下がるはずの血圧がむしろ高くなるタイプで、腎臓病や睡眠障害がある人などによくみられます。さらに、日中、職場などでの強いストレスが原因で血圧が高くなる「昼間(職場)高血圧」もあります。ストレスのもとになる場所から離れると正常値に戻るため、健康診断などでは見つかりにくくなっています。

仮面高血圧に気づくためにも、40歳を過ぎたら毎日家庭で血圧を測り、記録する習慣をつけましょう。朝(起床から1時間以内の朝食前、排尿後)と夜(寝る直前)の1日2回、それぞれ2回ずつ測定します。測定には、上腕にカフ(腕帯)を巻く血圧計が正確に測定できるためお勧めです。

肥満、糖尿病、腎臓病などの基礎疾患がある場合や、家族の中に高血圧や脳卒中、心不全、心筋梗塞、狭心症、大動脈解離などにかかったことのある人がいる場合は、30代から家庭での血圧測定を始めることをお勧めします。家族は似たような生活環境で暮らしているため、塩分の摂り過ぎなど、高血圧になりやすい生活習慣も無自覚のうちに引き継いでいる傾向があります。そのため、親が高血圧の場合、子どもも高血圧になりやすいと考えられます。また、高血圧になりやすい体質が遺伝することもあります。

減塩をはじめとした
生活習慣の改善を

医療機関で測った血圧が140/90 mmHg以上、または家庭で測った血圧が135/85mmHg以上という高血圧の基準を超えた場合は治療が必要です。血圧を下げる薬を使いますが、さらに生活習慣の改善に取り組むことが非常に大切であり、血圧が下がるだけでなく、すべての生活習慣病の予防にも効果が期待できます。

改善策として最も大切なのは減塩です。日本高血圧学会のガイドラインでは、食塩摂取量を1日6g未満とすることが推奨されています。現在、日本人の食塩摂取量は1日平均約10gですので、減塩の余地はかなり大きいと言えます。日頃からよく使う調味料や食品の塩分量を確認しておきましょう。普段の食事における減塩の工夫として、みそやしょうゆなどの調味料を減塩タイプに置き換える、塩分の代わりにだしのうまみ、酢やかんきつ類の酸味、スパイスの風味などを加える、たれやソースは「かける」のではなく「つける」ようにする、汁物の汁気を減らし具だくさんにして1日1杯までにする、といった方法が有効です。

普段の食事における減塩の工夫

その他、野菜や果物を積極的に摂ること、動物性脂肪やコレステロールを控えることも大切です。規則正しい生活を送り、節酒や禁煙、運動にも積極的に取り組みましょう。また、血圧は生活環境の影響を受け、寒さによって上昇することから、高血圧は「生活環境病」とも呼ばれています。特に高齢者では、冬場に早朝の血圧が上昇します。冬でも朝の室温を18℃以上に保ち、早朝血圧を135/85mmHg未満に保つようにしてください。さらに、急激な気温差があると血圧が急上昇することがあります。リビングが暖かくても洗面所や脱衣所、浴室などは寒くなりがちです。他の部屋との気温差を小さくするためにも、使用前にはこれらの場所も暖めておきましょう。

なお、2022年に、医師が処方する高血圧治療用アプリが保険適用されています。このアプリは、6カ月にわたって生活習慣の改善を支援してくれるもので、臨床試験で高血圧に対する効果が証明されています。生活習慣を変えるのはなかなか大変ですので、病院で処方してもらうのも一案です。

また、高血圧の基準を超えていなくても、医療機関で測定した血圧が130/80mmHg以上、家庭で測定した血圧が125/75mmHg以上の場合は「高値血圧」と呼ばれます。高値血圧の人は、正常血圧の人よりもさまざまな病気のリスクが高いことが分かってきていますので、前述のような生活習慣の改善をお勧めします。

苅尾 七臣 自治医科大学内科学講座循環器内科学部門教授

1987年自治医科大学卒業。兵庫県北淡町国民健康保険北淡診療所、自治医科大学循環器内科学助手、コーネル大学医学部循環器センター/ロックフェラー大学Guest Investigator、自治医科大学循環器内科学講座講師、コロンビア大学医学部客員教授等を経て、自治医科大学COE教授・内科学講座循環器内科学部門教授、2009年より現職。専門は循環器内科学。特に高血圧、動脈硬化、老年病学。

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