知っておきたい病気・医療
2022.11.11

たばこを吸わなくても高リスクの人も!

~肺がんに備えよう~
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肺がんは、喫煙者が罹患しやすいと言われている病気ですが、たばこを吸うこと以外にも肺がんのリスクを高める要因があります。近年では治療方法も進歩しているため、日常生活での予防に加えて、検診による早期発見を心がけましょう。知っておきたい肺がんの基礎知識について、国立がん研究センター東病院呼吸器外科長の坪井正博先生にお聞きしました。

受動喫煙や大気汚染も
肺がんの原因に

肺がんは、気管支の細胞や気管支の先端にある肺胞(下図)の細胞ががん化したものです。年間約12万人が新たに肺がんに罹患しており、肺がんによる死亡者数は全ての種類のがんの中で男性は1位、女性は2位となっています。肺がんの予後は、タイプやできる場所、進行度などによってかなり異なりますが、肺がん全体での5年生存率は約35%となっており、がん全体の中でも悪い傾向があります。一方で、肺がんの5年生存率は近年、やや改善傾向にあります。背景として、進行がんの治療が進歩していることに加え、日本では海外に比べてCT検査が普及しており、他の病気の診断・治療を目的として撮ったCT画像で早期の肺がんが偶然見つかる場合などがあります。

気管支の細胞や気管支の先端にある肺胞

肺がんに罹患するリスクを高める要因として、最も知られているのは「喫煙」です。喫煙者は非喫煙者に比べて、男性で4.4倍、女性で2.8倍肺がんに罹患しやすいとされています。しかし、たばこを吸わない人でも、受動喫煙(周囲のたばこの煙を吸うこと)でリスクが2~3割高くなることが分かっており、周囲に喫煙者が多くいる人も肺がんに罹患するリスクが高いといえます。また、アスベストなどの化学物質(職業的曝露)や、PM2.5などによる大気汚染といった環境要因も、肺がんに罹患するリスクを高めます。近親者が肺がんにかかったことがある人、間質性肺炎や慢性閉塞性肺疾患(COPD)にかかっている人、高齢の人なども高リスクであると考えられます。

肺がんは必ずしも症状が出るわけではありません。検診などで胸部エックス線検査あるいはCT検査を受けた際に、偶然見つかることがあります。症状が出る場合、最初は咳、痰、発熱といった風邪に似た症状が多く見られます。進行すると痰に血が混じる場合もあります。また、リンパ節が腫れたり、気管支が狭くなって喘息のような症状が続いたりすることもあります。進行すると、肩が張った感じや胸の痛みを訴える人もいますが、痛みの感じやすさには個人差があり、かなり進行しているにも関わらずあまり痛みを感じない人もいます。病気を見つけるためには、「なんとなくいつもと違う」という感覚がサインになるため、「我慢できる程度の症状だ」と思っても放っておかずに、2週間以上長引いたら躊躇せずに医療機関を受診しましょう。

治療方法は
肺がんの種類によって異なる

肺がんが疑われる場合、胸部エックス線検査やCT検査を行います。また、肺がんかどうかや、どのような種類の肺がんなのかを診断するための検査(気管支鏡検査など)や、全身への転移がないか調べるための検査(MRI検査、PET/CT検査など)が追加されることもあります。また、一部の肺がんは特定の遺伝子の変異が関係しているため、変異のある遺伝子に合わせた薬を使えるように、遺伝子検査を行う場合もあります。

肺がんは、細胞の形や性質によって大きく4つに分類されます(下表)。小細胞肺がんとそれ以外(非小細胞肺がん)では、治療方法や予後が異なります。

■肺がんの組織型分類 肺がんの組織型分類

この組織型分類と、がんの進行具合(病期)を考慮して治療を行います。肺がんの治療は「手術」「放射線療法」「薬物療法」に大別され、適宜これらを組み合わせて治療を行います。

  • 手術
    手術の最大のメリットは、がんを直接的に取り除くことができる点です。ただし、肺を切除することになるため、体に負担がかかるほか、肺炎などの合併症を起こすリスクがあります。これまでの肺がん手術は、がんができた肺葉全体を取り除くのが標準的でしたが、近年、末梢にできた早期がんの場合は、胸腔鏡やロボットを用いた、できるだけ患者の体に負担が少ない方法によって肺葉の一部分だけを切除する縮小手術が主流になってきました。ただし、状況によって再発のリスクが高くなるため、適応を見極めることが大切です。手術後は呼吸リハビリテーションを半年から1年ほど行い、呼吸機能を回復させます。
  • 放射線療法
    放射線を照射し、がん細胞にダメージを与える放射線療法は、体力の低下などで手術が行えない場合にも実施できます。がん細胞にピンポイントで放射線を当てる照射法が普及し、がん周囲の正常な細胞への影響は少なくなっています。新しい放射線療法の一つとして、従来の放射線より体の奥で威力を発揮する陽子線を用いた「陽子線療法」も選択肢の一つとなります。ただし、がんを完全に取り除くわけではないため、CT画像に写らない範囲でがんが広がっている場合には一定の再発リスクが残ります。
  • 薬物療法
    以前から使われている抗がん剤は、がん以外の細胞にも影響が及ぶ薬ですが、分子標的薬(がん細胞を狙って攻撃する薬)や、免疫チェックポイント阻害剤(がんによって壊された免疫機能を回復させて再びがんを攻撃する薬)など、新しい薬剤の開発に伴い選択肢の幅が広がっています。肺がんに特異的な遺伝子変異があるかを調べる「遺伝子パネル検査」(進行がんの場合は保険適応)を行い、陽性であれば、その遺伝子異常に対応する分子標的薬を選択できます。同様に、免疫の働きを抑制するPD−L1というたんぱく質ががん細胞の表面にあるかを調べる「PD−L1検査」を行います。このたんぱく質を持つがん細胞の割合によって免疫チェックポイント阻害剤を使える場合があります。

従来の抗がん剤を含め、薬物治療が進歩して治療が長く続くようになった結果、医療費負担が増えるなど新たな問題も浮上しています。高額療養費制度など金銭面を支える制度もありますので、使える制度を上手に利用しましょう。医療機関には生活面の相談窓口もあり、さまざまな不安や悩みの相談に応じています。

毎年検診を受けて
早期発見につなげよう

がんの早期発見のためには、検診を定期的に受けることが基本です。現在、自治体で推奨されている肺がん検診として、40歳以上の人を対象に胸部エックス線検査、50歳以上のヘビースモーカーの人にはさらに喀痰細胞診(かくたんさいぼうしん)が行われています。早期の肺がんほど5年生存率は高くなります。毎年検診を受けて早期発見に努めることが大切です。

一方で、自治体では実施されていませんが、欧米のデータから、重度喫煙者など肺がんのリスクが高い人ではCTによる検診の有用性(肺がん死亡率の減少)が科学的に証明されています。エックス線検査よりも早期のがんを見つけることができるため、肺がんのリスクが高いと考えられる人や基礎疾患のある人は、CT検査を受けても良いでしょう。ただし、高線量のCT検査を何度も受けると、かえって被曝による発がんリスクが高まるおそれがあります。がんの早期発見を目的に低線量のCT検査を行っている施設で、50歳以上の肺がん高リスクの人は毎年、それ以外の人は3~5年に1回を目安に受けると良いでしょう。

日常生活では、たばこを吸っている人は禁煙し、吸わない人もたばこの煙を避けましょう。たばこを吸っていると、肺がん発症のリスクが高まることに加えて、肺機能が落ちているため手術ができない、薬が使いにくい、放射線治療でも合併症を起こしやすいなど、肺がんになったときの治療の選択肢も狭まります。また、適度な運動を続けて体力を保ち、肺機能を維持することも心がけたいものです。太ももが1cm細くなると肺活量が100cc落ちるともいわれており、全身の筋力を落とさないことが呼吸機能を維持することにもつながります。今から運動習慣を持って、高齢になっても元気に動ける体力を維持できるようにしましょう。

坪井 正博 国立がん研究センター東病院 呼吸器外科長

1987年東京医科大学医学部卒業。同大学病院、国立がんセンターなどへの勤務を経て、2007年東京医科大学病院准教授、2008年神奈川県立がんセンター呼吸器外科医長、2012年横浜市立大学附属市民総合医療センター呼吸器病センター外科、化学療法・緩和ケア部准教授・部長。2014年から現職。専門は肺がんの臨床(手術・抗がん剤治療)、遺伝子および分子生物学的検索を利用したがんオーダーメイド治療の研究など。著書に『肺がん 最先端治療と再発・転移を防ぐ日常生活の工夫』(主婦の友社)などがある。

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