さまざまなお酒の中でも赤ワインは「健康に良い」というイメージが定着しています。日常的に親しまれ、ボージョレ・ヌーボー解禁のニュースも秋の風物詩としておなじみのものになりました。赤ワインが健康に良いのは、抗酸化作用を持つポリフェノールを豊富に含んでいるからですが、ポリフェノールは赤ワイン以外にもさまざまな食品から摂ることができます。ポリフェノールの効果と摂り方について、芝浦工業大学システム理工学部生命科学科の越阪部奈緒美先生に伺いました。
ポリフェノールって何?
ポリフェノールとは、植物が紫外線から身を守るために自ら作り出す成分の総称で、強い抗酸化作用があります。種類や量の違いはありますが、基本的に土の下に根を張り、地上で育ち実を付けるほとんどの植物にはポリフェノールが含まれています。花の色の素となる色素や渋味となる成分がポリフェノールの正体です。天然のポリフェノールはこれまでに7,000種類以上の分類が明らかになっています。
中でも研究が進んでいるのがフラボノイド類(※)です。緑茶などに多く含まれる「カテキン」もその一種で、他にも玉ねぎやブロッコリーに含まれる「ケルセチン」、大豆に含まれる「イソフラボン」、ブルーベリーなどベリー類に豊富に含まれる「アントシアニン」などがあります。フラボノイド類以外でも、コーヒーの「クロロゲン酸」、カレーの色素である「クルクミン」、カカオや赤ワイン、紅茶の「テアフラビン」など特定の種類は食品の機能性研究の対象にもなり、一般にも知られています。
※フラボノイド類
ポリフェノールの一種で天然に存在する有機化合物群の植物色素の総称。抗酸化作用や抗菌・殺菌作用など、多くの自己防衛機能のために作り出されている物質で、野菜や果物などの色素や苦味成分にもなっている。
ポリフェノールが
体に与える影響とは?
ポリフェノールは、活性酸素による酸化から体を守る抗酸化作用が健康に役立つと考えられてきましたが、実は、食事やサプリメントからポリフェノールを摂取しても、体内で代謝され化学構造が変化してしまうため、抗酸化作用はほとんど失われてしまいます。
さらに最近分かってきたこととして、ポリフェノールの中には極めて吸収されにくいものもあります(アントシアニジン、プロシアニジン、テアフラビンなどで渋味が特徴)。吸収されにくいにもかかわらず、これらはメタボリックシンドロームや心血管疾患のリスク低減、抗炎症・抗アレルギー作用、骨粗鬆症予防、目の機能を調節する効果、抗老化、最近では脳の認知機能維持にも作用するといった有効性が科学的に証明されています。なお、これらの作用は、ポリフェノールの種類によっても大きく違います。例えばベリー類に多く含まれるアントシアニンは目の機能を調節する作用があることが分かっていますので、目を酷使するときに摂取するなど、状況に応じて使い分けていくと良いでしょう。
最近の研究では、消化吸収の経路を経ずに、口内や消化管の知覚神経を介して脳に認識され、自律神経(交感神経)を刺激することによって循環・代謝に影響を与えるのではないかという可能性も示唆されています。例えば辛いものを食べると熱くなって汗が出るように、味の成分が知覚神経を通じて交感神経を興奮させることで反応が表れる仕組みが体には備わっています。このように交感神経が一時的に興奮することで表れる生理的変化は、運動した時にも見られます。運動することで骨や筋肉に適度なストレスが加わり、そのストレス刺激が脳に伝わって、心拍数や血圧が上がるなど循環・代謝の変化が起こるのも同じメカニズムです。ポリフェノールにも同様のメカニズムが働いており、これまで報告されてきた多彩な機能は自律神経調整作用によるものではないかと考えています。
ポリフェノールが摂れる食材は
赤ワイン以外にも数多い
植物の成分であるポリフェノールは野菜・果物にも多いのですが、赤ワインなどにも多く含まれています。ブドウは種に多くのポリフェノールを含むので、ブドウジュースや白ワインよりも、実から種皮まで丸ごと使って醸造する赤ワインの方が、ポリフェノールの種類も量も多くなります。また、緑茶も紅茶も同じお茶の木ですが、茶葉を発酵させる紅茶は、その過程でカテキンが結合してテアフラビンという形に変化します。
近年、特に注目されているのはプロシアニジンです。赤ワインをはじめ、カカオ(チョコレート)、黒豆の種皮、柿などに多く含まれ、内外で実施された大規模研究でもメタボリックシンドロームの危険因子の改善効果が認められるなど確かな科学的根拠が得られています。また、摂取から短時間で脳血流が上昇し、短期記憶が向上するという報告もあり、集中力アップや作業速度・正確性の向上に役立つと期待されています(出典 Osakabe&Terao Nutr.Rev.2018 76.174-186)。
基本的に植物性食品にはポリフェノールが含まれているので、普段の食事から知らず知らずのうちに摂取している可能性があります。一つの食品に一つの成分だけではなく、複数のポリフェノールが含まれるので、ポリフェノールを効果的に摂るには「幅広くさまざまな食品を食べること」と考えるのが良いでしょう。
ポリフェノールの
効果を活かす摂り方
7,000種類以上もあるポリフェノールをすべて分析するのは難しいため、1日の摂取量などの明確な基準は設定されていません。一般的には食事内容によって1日20mg〜1gを摂取していると言われています。1日1gを目安と考えると、小分けにされた高カカオチョコレートなら5〜6枚です。例えば持ち運びしやすい高カカオチョコレートを携帯しておき、気分転換したい時、疲れたけれど集中しなければならない時などに食べると、ポリフェノールが短時間で作用するため、即効性を期待できます。
赤ワインならボージョレ・ヌーボーなどよりも、渋味のある赤ワインの方がポリフェノールの効果は大きいでしょう。赤ワインの種類にもよりますが、1杯(約100ml)で約400mgのポリフェノールが摂れるので、2杯で1日1gのうち約7~8割程度摂れることになります。
また、ポリフェノールはタンパク質と結合して変性するので、コーヒーや紅茶を飲む時にミルクを入れると効果は低減してしまいます。効果を最大限に活かすには、ミルクは入れずに飲むことをお勧めします。ただし、いずれも嗜好品ですので、状況に応じて選択しながら楽しめば良いでしょう。
サプリメントなどに頼るのではなく、いろいろな食品からバランスよくポリフェノールを摂取することを心掛け、食品の持つ味を存分に味わい、食生活を楽しみましょう。
星薬科大学薬学部衛生薬学科卒業後、食品メーカーに入社し開発に従事。2009年4月、芝浦工業大学に入職。専門分野は機能性食品学。主な担当科目は食品衛生学、生命科学実験。日本農芸化学会、日本栄養食糧学会、日本フードファクター学会などに所属。産学連携事業にも取り組む。