インスタント食品やハム・ソーセージ、スナック菓子など、手軽に摂取できて、なおかつおいしい食品は数多くあります。しかし近年、こうした高度な工業的に加工された食品は「超加工食品」と呼ばれ、摂り過ぎによる健康へのリスクが懸念されています。超加工食品とはどのようなものなのか、どんな摂り方をすればよいのか、日本人を対象とした超加工食品の研究を手掛ける、東京大学大学院医学系研究科 社会予防疫学分野 助教の篠崎奈々先生に話を伺いまとめました。
栄養バランスが偏りやすい
現代の日本人の食生活
栄養バランスの取れた食事は、健康維持のために大切です。そう分かっていても、実際の食生活で必要十分な栄養が摂れているとは胸を張って言えない……。こうした人は少なくないのではないでしょうか。
厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2020年版)」では、栄養摂取量の不足の有無を判断するための指標として「推定平均必要量」が設定されています。
普段の食生活での習慣的摂取量が「推定平均必要量」を下回る人が多いことが、東京大学大学院医学系研究科栄養疫学・行動栄養学講座と同研究科社会予防疫学分野の研究グループが日本人4,450人(1~79歳)を対象に行った全国規模の
※1 Shinozaki N, Murakami K, Masayasu S, Sasaki S. Usual nutrient intake distribution and prevalence of nutrient intake inadequacy among Japanese children and adults: A nationwide study based on 8-Day dietary records. Nutrients. 2023;15:5113.
*1~9歳の男女、12~64歳の女性の鉄摂取量の適切性の評価には確率法を用いた。それ以外の性・年齢層では食事摂取基準に基づくカットポイント法を用いた。図では示していないたんぱく質、ナイアシン、ビタミンB12、ナトリウム、銅については、摂取量が推定平均必要量を下回る者の割合が、参照値が設定されているすべての性・年齢層において10%を下回った。
このように、カルシウムの摂取量が推定平均必要量を下回る人の割合は、すべての性・年齢層で高く(29~88%)、鉄の摂取量は18~64歳の女性で不足している人の割合が高い(79~95%)ことが分かりました。
また、食事摂取基準では、生活習慣病の発症予防を目的とする指標として「目標量」が設定されています。同調査で習慣的摂取量を目標量と比較したところ、たんぱく質、食物繊維、カリウムで習慣的摂取量が目標量の下限値を下回る人が一定の割合でいることが分かりました。さらに、男女ともにすべての年齢層の20%以上で総脂肪と飽和脂肪酸が目標量の上限値を超えており、88%以上でナトリウム(食塩)が目標量をオーバーしていました。
摂取すべき栄養素が不足し、脂質や食塩など摂り過ぎに注意すべき栄養素が過剰となっている現代の食生活の傾向が見えてきます。このような状態になる原因の一つに、超加工食品があると推測されます。
普段何気なく摂取している
「超加工食品」とは?
普段の食生活で栄養バランスが乱れる背景には、多忙で料理になかなか手をかけられない、忙しい中で栄養バランスを考えるのが面倒、といった現代社会ならではの事情が関係していると思われます。
このような状況から、見た目や味付けにもさまざまな工夫がされ、食が進みやすい外食やスーパー、コンビニエンスストアなどの弁当・総菜、インスタント食品などを利用する機会が増えています。
そうした食品の中には、複数の食材を工業的に配合して製造された、加工の程度が非常に高い「超加工食品」が多くあります。
超加工食品とは具体的にどのようなものなのでしょうか。国内ではまだ正式に定義されていませんが、世界的にはブラジル・サンパウロ大学の研究者によって、2009年に考案された「NOVA分類」をはじめ、いくつかの分類法があります。
東京大学大学院医学系研究科栄養疫学・行動栄養学講座では、米国ノースカロライナ大学チャペルヒル校の研究者らが開発した、食品分類の枠組みを用いて研究を行っています。
同分類では下表のように、加工レベルが低い順に「未加工/最小限の加工」「基本的な加工」「中程度の加工」「高度な加工(超加工食品)」の4段階に分けられています。
超加工食品からのエネルギー摂取量が多い人ほど、食事の栄養学的質が低いことが分かりました。
超加工食品の定義は研究間でも一致しない部分はありますが、果糖ぶどう糖液糖やゲル化剤など「家庭での調理には使われない工業的に作られた食材」を含んでいる食品が該当すると考えてよいでしょう。
超加工食品を多く摂りがちな
人にある傾向が見えてきた
同研究グループは、日本人の成人2,742人から得られた8日間にわたる詳細な食事記録データを基に、超加工食品の摂取量を調査し、年齢、体格、喫煙状況などの個人的特性との関連を調べました。
その結果、次のことが分かりました(※2)。
- □超加工食品からのエネルギー摂取量は、平均して1日の総エネルギー摂取量の3~4割程度を占める
- □年齢が若い人や喫煙者ほど、総エネルギー摂取量に対して超加工食品の占める割合が高い
※2 Shinozaki N,et al. Highly processed food consumption and its association with anthropometric, sociodemographic, and behavioral characteristics in a nationwide sample of 2742 Japanese adults: An analysis based on 8-day weighed dietary records. Nutrients. 2023;15:1295.
また、別の調査では、日本人の成人2,232人を対象とした全国規模の質問票調査のデータを基に、超加工食品の摂取量と食に関する知識や技術、価値観、行動特性との関連を調査した結果、次のことが分かりました(※3)。
- □女性では、年齢が高く、栄養に関する知識が多く、食の安全性を重視する人ほど、超加工食品の摂取量が少ない
- □男性では、調理技術が高い人ほど、超加工食品の摂取量が多い
- □男女共に、満腹感を覚えやすい人ほど、超加工食品の摂取量が多い
※3 Shinozaki N,et al. The association of highly processed food consumption with food choice values and food literacy in Japanese adults: a nationwide cross-sectional study. Int J Behav Nutr Phys Act2023;20:143.
超加工食品を多く摂取すると食事の質が低下しやすく、さまざまな病気のリスクを高める可能性があることも各国の研究で分かってきています。
超加工食品の摂取量が
多いことによる健康リスク
超加工食品がどのようなメカニズムで健康に影響を与えるのかは、まだ研究段階であり、十分に明らかにされていません。
一方で、オーストラリア・ディーキン大学のMelissa M. Lane氏らの研究では、超加工食品の摂取の多さと次のような病気や死亡のリスクとの関連性が示されています(※4)。
- □心疾患関連死
- □2型糖尿病
- □抑うつ
- □睡眠障害
- □ぜんそく
- □肥満
- □がん
- □認知症
※4 Melissa M Lane et al. Ultra-processed food exposure and adverse health outcomes: umbrella review of epidemiological meta-analyses. BMJ. 2024;384:e077310.
超加工食品の中には、ビタミンやミネラルなどの栄養素が豊富なものもあり、一概にすべて控えるべきだとはいえません。
ただし、一般的な傾向として、加工の度合いが高くなるほど、食品に使われる砂糖や塩、添加物の量は多くなります。
糖質や食塩の摂り過ぎが体によくないことは多くの人が認識しているはずです。健康のためにも、次のことをぜひ心掛けてみましょう。
- □1日に摂取する超加工食品の量が多くなりすぎないようにする
- □超加工食品にかかわらず、たんぱく質やカルシウムの摂取源となる食品(魚、豆類、乳製品)や野菜を意識して摂取するなど、基本的な食事のバランスを整える
- □食品を選ぶ際、パッケージの栄養成分表示をチェックして、糖質や脂質、食塩や添加物が多いものはなるべく控える
- □甘過ぎるもの、しょっぱ過ぎるものは食べる量や頻度を減らす
普段の食事の内容が偏っていないかを見直して、健康的な食生活を目指していきましょう。
三井住友海上あいおい生命のヘルスケアサービス「MSAケア」では、毎日の食事のお困りごとを解決する「おいしい健康」を提供しています。「おいしい健康」では、がん罹患者や血圧が気になる方向けに、おいしく楽しめるレシピを日替わりで掲載しています(無料)。80種類以上の食事のお悩みに対応した有料のアプリもあります。
※MSA ケアのご利用には、MSAケアWebサービスの登録が必要です。
博士(保健学)。2009年、お茶の水女子大学 生活科学部 食物栄養学科卒業。東京大学医学部附属病院と西東京中央総合病院で管理栄養士として勤務。20年、東京大学大学院医学系研究科 健康科学・看護学専攻博士後期課程修了。同大学院医学系研究科 栄養疫学・行動栄養学講座の特任助教などを経て、24年4月に同大学院医学系研究科 公共健康医学専攻 社会予防疫学分野助教に就任。専門分野は公衆栄養学、食事調査法、栄養疫学、行動栄養学。