食で健康
2023.03.10

お酒はがんに影響するの?

~毎日、多量に飲酒する人は要注意~
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お酒は、適量なら「百薬の長」とも呼ばれますが、飲み過ぎると健康を損ねる原因となり、がんも例外ではありません。飲酒量とがんとのリスクの関係について調査した研究結果も多く報告されています。産業医科大学 医学部 第1外科学教室 講師の佐藤典宏先生のお話をもとに、お酒との上手なつき合い方を考えてみましょう。

お酒の「飲み過ぎ」が
がんのリスクを招く

お酒とがんの関係を考えるうえで、重要なポイントの一つとなるのが飲酒の量です。厚生労働省が推進する「健康日本21」では、「節度ある適度な飲酒量」は1日平均の純アルコールが20g程度とされています。これは、ビールなら中瓶(500ml)1本程度です。
女性はその2分の1から3分の2程度の量が適当と考えられています。女性は男性よりアルコール分解速度が遅く、同じ量を飲酒した場合、臓器障害を起こすリスクが男性より高いためです。約7万3000人の日本人男女を対象に10年間にわたって行われた、国立がん研究センターの多目的コホート研究(以下、JPHC研究)で、次のことが分かっています。

  • 男性では、時々飲酒している人と比べ、1日平均で純アルコール換算43~64g飲む習慣がある人は、がん全体の発生率がおよそ1.4倍、1日平均で純アルコール64g以上飲む習慣のある人は1.6倍に上昇した(※1)。

また、国内で行われたさまざまな研究で、次のことも報告されています。

  • 肝臓がんの発生リスクは、多量に飲酒(1日当たりの純アルコール摂取量69g以上)する男性において1.8倍に上昇した(※2)。
  • 食道がん(扁平上皮がん)の発生リスクは、飲酒しないグループに比べ、1日当たりの純アルコール摂取量21~43g飲む人は2.6倍、43g以上飲む人は4.6倍に上昇した(※3)。
  • 大腸がんの発生リスクは、男性では、飲酒しないグループに比べ、1日当たりの純アルコール摂取量23~45.9gのグループは1.4倍、46~68.9gのグループは2.0倍、92g以上のグループは3.0倍となった。女性の場合も1日当たりの純アルコール摂取量23g以上のグループは、飲酒しないグループよりも1.6倍リスクが高まるという結果になった(※4)。
  • 乳がんの発生リスクは、お酒を飲んだことがない女性に比べ、1日平均で純アルコール21g以上飲む女性は1.75倍高いことが分かった(※5)。

以上のことから、飲酒の量が増えるほど、さまざまながんのリスクが高まると考えられます。

(※1)Br J Cancer 2005,92:182-187.
(※2)Int J Cancer 2012,130:2645-2653.
(※3)Cancer Lett 2009,275:240-246.
(※4)Am J Epidemiol 2008,167:1397-1406.
(※5)Int J Cancer 2010,127:685-695.

お酒を飲む頻度にも
気をつけよう

がんに限ったデータではありませんが、週に5~7日、1週当たり純アルコール摂取量300g以上の飲酒をする男性のグループでは、週4日未満のグループに比べて総死亡率が高いという研究報告(※6)もあります。
また、飲酒と(すい)がん罹患(りかん)との関連について調べたJPHC研究では、調査開始時からの5年間に飲酒習慣が変化しなかった男性で、飲酒量が多いグループの方が膵がんの罹患リスクが高いことが示されています(※7)。

多量のお酒を毎日飲む習慣がある人は、そうでない人よりもがんのリスクが高いことを意識して、飲む量や頻度を減らすように心がけましょう。

(※6)Am J Epidemiol 2007,165:1039-1046.
(※7)Cancer Epidemiol Biomarkers Prev 2022,31 (11): 2011-2019.

お酒を飲むと顔が赤くなりやすい
体質の人は、少量でもリスクが

お酒による発がんリスクは、人によって異なります。お酒を飲んだ時に顔が赤くなる「フラッシング反応」が起こる人は、アルコールを代謝する酵素「アルデヒド脱水素酵素(ALDH2)」の働きが弱く、飲酒によるがんのリスクが高いという研究報告(※8)もあります。
これは7万8825人の日本人男女を対象に行ったJPHC研究によるもので、男性でフラッシング反応のあるお酒に弱い体質の人は、少量の飲酒量でも肝臓がんなど飲酒に関連するがんのリスクが高いという結果が出ています。
エタノールの最初の代謝産物であるアセトアルデヒドは、フラッシング反応の原因物質であり、発がん性が疑われています。アセトアルデヒドの分解が遅いことが、がんのリスクに関与している可能性も考えられています。

(※8)Preventive Medicine 2020,133:106026.

「適量」と「休肝日」で
上手にコントロールを

がんを予防するためには、飲酒を控える、飲んでも「適量」にとどめることが大切です。飲酒の量は、前述のとおり、純アルコール換算で1日20g程度に抑えるようにしましょう。下図を参考にしてください。

いろいろなお酒の適量(純アルコール換算で1日20g程度)

あるいは「缶なら1本まで」「コップやグラスなら2杯まで」と決めて、飲酒のたびに守ることも効果的です。焼酎やウイスキーなどの濃いお酒は、水やお湯で薄めて飲むことをおすすめします。

なお、お酒のおつまみは塩分や脂質の多いものに偏りがちです。食塩の摂取量が最も多い男性は、最も少ない男性に比べて胃がんのリスクが2倍以上という研究報告(※9)もあります。塩分や脂質の多い料理は減らし、野菜や豆腐、魚介類などを中心におつまみにするのがおすすめです。

(※9)Br J Cancer 2004,90:128-134.

そして、休肝日をきちんと設けることが大切です。連続ではなく間隔をあけて、少なくとも週に3日は「お酒を飲まない日」にしましょう。

佐藤 典宏 産業医科大学医学部第1外科学教室講師、外来医長

九州大学医学部卒業。外科医として研修後、九州大学大学院へ入学。学位(医学博士)取得後、米国ジョンズ・ホプキンズ大学医学部にてがんの分子生物学の研究に従事。YouTube「がん情報チャンネル、外科医佐藤のりひろ」は登録者8万人を突破。『手術件数1000件超の名医が教えるがんにならないシンプルな習慣』(青春出版社)、『がんに負けないたった3つの筋トレ』(マキノ出版)など著書多数。

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