知っておきたい病気・医療
2019.12.06

胸やけ、喉の違和感に要注意!

働き盛りを襲う逆流性食道炎とは
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食後に胸やけがする、喉のあたりに不快感や違和感があるといった日が続いている…。そのような症状が起こったら「逆流性食道炎」かもしれません。近年では「新国民病」と呼ばれるほど、患者数が増加しています。逆流性食道炎の発症のメカニズム、改善法などについて、東邦大学大学院消化器外科学講座の島田英昭教授に伺いました。

逆流性食道炎が生じる
メカニズムとは

胃の中で食物を消化する胃酸はpH※(ピーエイチまたはペーハー)1~1.5で、非常に強い酸ですが、胃の粘膜を酸から守る粘液が分泌され、表面を覆っていることで胃壁を守っているため、胃そのものが酸によって痛んだり傷ついたりすることはありません。

※pH:水溶液の酸、アルカリの度合いを数字で表したもの。pH7が中性とされ、それより数字が低くなると酸性、高くなるとアルカリ性を意味する。

しかし、何らかの要因によって胃酸が食道へと逆流してしまう場合があります。食道には酸から守る粘液が少ないため、強い酸によって粘膜がダメージを受けます。これにより、みぞおちのあたりがムカムカしたり、胸や喉のあたりに酸っぱいものがこみ上げてきたりするなど、さまざまな不快な症状を引き起こします。これが一般的に「逆流性食道炎」と言われる病気です。

逆流性食道炎の診断のポイントは
食道の炎症の有無

逆流性食道炎は、「胃食道逆流症」の一つです。
「胃食道逆流症」とは、胃酸を多く含む胃の内容物が食道へと逆流して起こる病気の総称で、下表のように「びらん性胃食道逆流症」と、「非びらん性胃食道逆流症」の2つに分けられます。

■胃食道逆流症の種類 胃食道逆流症の種類

びらん性、非びらん性いずれも胃食道逆流症では胸やけや酸っぱいものがこみあげるなどの自覚症状を伴いますが、逆流性食道炎と診断されるのは、内視鏡検査で食道に炎症による病変が見られるびらん性の場合です。

なお、食道の粘膜に傷や炎症などが見られても、本人は症状を感じていない場合もあります。これは「無症候性逆流性食道炎」と呼ばれます。
特に、次のような症状がある場合には、内科、消化器内科、胃腸科などを受診し、内視鏡検査を受けることをお勧めします。

■胸やけ

・脂っこいものや辛いものを食べた後、お酒を飲んだ後などに表れやすい症状。

・みぞおちのあたりが突然カーッと熱くなる。

・チリチリ焼けるように痛む。

呑酸どんさん

・喉や口の中に酸っぱいものや苦いものがこみあげてくる症状。

・酸味のあるものを食べたり、飲んだりしていないのに、口の中に急に酸っぱさを感じることがある。

■喉のつかえ

・何かが喉につかえるような感じや、食べ物が喉を通りにくい感じを伴う症状。

・医学的には「嚥下えんげ困難」と呼ばれる。

■胸のあたりの痛み

・胸やけがひどくなることで、背中から胸にかけて締め付けられるような痛みを感じる。

・心臓の病気が原因ではない「非心臓性胸痛」と呼ばれるもの。
心臓の病気かそうでないのかは医師による診断が不可欠です。このような症状がある場合には、特に早めに医療機関を受診しましょう。

この他、頻繁にゲップが出る、ゲップをすると酸っぱい胃酸がこみあげてくるといった症状も、逆流性食道炎の特徴として挙げられます。

どうして胃酸は
逆流するの?

私たちが食事をして口から入れた食物は、食道が筋肉を伸び縮みさせながら胃の方へと運ばれます。食道の下の方に食物が下りてくると、食道と胃の境目にある筋肉「下部食道括約筋かぶしょくどうかつやくきん」が緩み、通常は閉じている胃の「噴門ふんもん」が開き、胃へと食物が送られます。

この下部食道括約筋は、胃の噴門を筋肉の力で締めることで、胃酸を含む胃の内容物が食道に逆流するのを防いでいます。
ところが、加齢などによって筋力が衰えてくると、噴門を閉じる力が弱くなります。すると食物を胃に送らない時でも噴門が緩みやすくなり、胃酸が逆流するのです。

また、口から入った食物を胃の方へと送る食道の筋肉の動き(ぜん動運動※)も加齢とともに低下するため、逆流してきた胃液をスムーズに胃に戻すことができにくくなります。

※食道から直腸までの消化管壁にある平滑筋へいかつきんがリズミカルに収縮運動すること。

このように加齢に伴う体の機能低下は、逆流性食道炎の大きな要因の一つであり、高齢になるほど発症しやすい傾向にあります。

しかし、年齢を問わず気を付けたいのは「食べ過ぎ」「飲み過ぎ」です。食べ過ぎ、飲みすぎにより胃の中の圧力が高くなり、胃液が押し上げられ、胃酸が逆流しやすくなるのです。

食事と日常生活を見直し
症状を緩和

逆流性食道炎と診断された場合には、薬物療法と生活改善の2本立てで治療を行うのが基本です。日常生活の中では次のことを心掛けましょう。

  • 食べ過ぎ、飲み過ぎを避け、消化の良い食事を心掛ける
    腹八分目の量を、ゆっくり噛んで食べる習慣をつけましょう。また、就寝の3~4時間前に夕食を済ませることも大切です。
  • 良い姿勢を保つ
    猫背や前かがみの姿勢はお腹を圧迫し、胃を押すことになりやすいので注意が必要です。胃酸の逆流を引き起こす原因になるので、日ごろから意識して、背すじを伸ばすようにしましょう。
  • 上半身を高くして寝る
    就寝中の胃酸の逆流を防ぐため、なるべく上半身を高くして寝るのがお勧めです。背中に積み重ねたタオルなどを置き、上半身に15度くらいの傾斜をつけて寝るようにしましょう。

逆流性食道炎は、仕事や日常生活に影響を与えることがあります。生活習慣を改善し、必要に応じて医療機関を受診しましょう。

島田 英昭 東邦大学医学部外科学講座教授、臨床腫瘍学講座教授
東邦大学大学院消化器外科学講座教授

1984年千葉大学医学部卒業。マサチューセッツ総合病院、ハーバード大学外科研究員、千葉大学医学研究院講師、千葉県がんセンター主任医長などを歴任。2009年から現職。東邦大学医療センター大森病院がんセンター長併任。日本外科学会専門医・指導医、日本消化器外科学会専門医・指導医、日本消化器病学会専門医・指導医、日本食道学会食道外科専門医など。著書に『逆流性食道炎は自分で防ぐ!』(池田書店)などがある。

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