知っておきたい病気・医療
2018.03.09

高い血圧を放置しないで!

~40代からリスクが高まる高血圧性心不全とは~
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ほとんど自覚症状がない高血圧。だからといって放置していると、将来的に生命に関わるような深刻な病気を招く可能性があります。特に命を失う危険性が高いと言われる“高血圧性心不全”について、日本医科大学武蔵小杉病院 循環器内科教授の佐藤直樹さんに伺いました。

ご存じですか?
心不全の怖さ

「心不全とは、心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり、生命を縮める病気です」

これは、2017年10月に日本循環器学会と日本心不全学会が発表した「心不全の定義」です。

日本における心疾患の死亡数はがんに次いで多く、心疾患のうち4割近くに及ぶ約7万人が心不全で亡くなっているというデータがあります(厚生労働省「平成26年(2014)人口動態統計(確定数)の概況」による)。

心不全は完治することがなく、また、5年生存率は50%と決して良くない病気であるにも関わらず、その怖さはあまり認知されていません。特に働き盛りの30~40代では、「自分はまだ大丈夫」と思っている人も少なくないでしょう。

10年後、20年後も健康に過ごすためにも、心不全について正しい知識を持ち、今からしっかり予防することは極めて重要です。

高血圧が心不全の
リスクを高める

心不全にはさまざまな原因がありますが、特に大きな原因のひとつとなっているのが、高血圧です。

私たちの心臓は血液を全身に送り出すポンプ機能を持っています。血圧が正常な場合、心臓は拡張して血液を溜めた後、収縮して血液を送り出します。

ところが高血圧になると、血管に圧力がかかることで血管の壁が厚く硬くなっていきます。すると心臓はその圧力に抵抗しようと、より強い力で血液を押し出そうとします。この状態が長く続くことで、心臓の筋肉は次第に厚くなり、広がりにくくなります。その結果、その手前にある肺に負担がかかやすくなるために、時に息切れが生じ、さらに放置すると全身に血液を送り出す力も弱ってきてしまいます。

このように、血圧が高い状態が長く続くことで心臓に負担がかかり、だんだんとその機能が低下して十分な血液を全身に送り出せなくなる状態を、「高血圧性心不全」と言います。

主な症状は息切れやむくみ
進行すると呼吸困難なども

心臓のポンプ機能が低下することで、血液の流れが障害され、交通渋滞を引き起こし、さまざまな臓器で「うっ血」という状態が起こります。「うっ血」とは、体のある部分に血液の流れが悪くたまってしまう状態を言います。血液の流れが妨げられたり,心臓の働きが弱ったりした時に起こります。

肺がうっ血すると、階段の上り下りの時などに軽い息切れが起こるようになります。症状が進行すると、横たわると息苦しくなる(起き上がると楽になる)、仰向けに寝ると咳が続いたりするようになります。さらに悪化すると安静時でも横になれない強い呼吸困難を起こすなど、生命に関わるような緊急事態に陥ることもあり、その場合には救急車を呼ぶなどして、緊急処置を受ける必要があります。

このほか、顔や足がむくんだり、胃や腸にむくみが生じることでおなかが張ったり、食欲が落ちたりすることもあります。

症状が現れない「隠れ心不全」に
要注意!

高血圧性心不全は、初期段階ではほとんど症状が現れません。だからといって油断するのは禁物です。高血圧の人の場合は症状がない「隠れ心不全」にかかっている可能性も、少なくありません。
米国心臓協会が作成した慢性心不全のレベルは、以下のように分類されています。

■症状が現れない“ 隠れ心不全” の判断基準

高血圧を放っておくと、自分では気づかないうちにじわじわと症状が進行していく危険があります。

深刻な状態に陥ることを防ぐためには、上に挙げたステージA~Bの段階できちんと予防や治療を行うことが重要です。

自分の普段の血圧を
知ることが重要

皆さんは、血圧を毎日測っていますか? 30~40代では、測っている人は少ないかもしれませんが、家庭で毎日血圧測定をすることが重要です。

高血圧は、血圧が高くても自覚症状が現れないのが特徴です。健康診断などの結果で高血圧と診断されたら、できるだけ早く病院の循環器内科を受診することをお勧めします。

ただし、病院などで血圧測定をしてもらうと、緊張によって血圧が上がる場合もあります。一度の計測で本当に高血圧かどうかを判断するのは難しいので、血圧が気になる人は家庭用の血圧測定器を入手するとよいでしょう。

家庭で血圧測定する場合は、起床してトイレを済ませた後など、同じ時間帯に行います。例えば、朝の起床後1時間以内と夜の就寝前の測定をお勧めします。1週間毎日続けてみて、週の半分以上、血圧が高い日があれば、高血圧だと考えられます。

日本高血圧学会が2014年に発表した「高血圧治療ガイドライン」では、「140/90mmHg未満」を血圧の正常値としています。この血圧の基準値は「診察室血圧」と呼ばれ、病院で測定した場合の基準になります。家庭で測定する場合には「135/85mmHg未満」が正常血圧とされます。

■治療が必要な血圧の目安

塩分制限と運動で
高血圧を防ぐ!

高血圧および高血圧性心不全の予防と治療には、血圧のコントロールが必須です。特に塩分制限と定期的な運動は非常に重要です。

日本人の平均食塩摂取量は1日10~12gと言われていますが、血圧をコントロールするためには約半分の6gを目標にしましょう。

「そんなに塩辛いものは食べていないつもりだけど……」と思っても、普段何気なく食べているうどんやそば、ラーメンなどの麺類の塩分は意外なほど多いものです。食品の塩分含有量などをチェックしながら、うっかり摂り過ぎないよう気をつけましょう。

また、家での食事は気をつけていても、会食や飲み会などで塩分の多いものをたくさん摂ってしまう日はあるものです。そのような場合は、翌日の食事で塩分をできるだけ控えるというように、数日単位で調整するのがお勧めです。

また、忙しくて運動をする時間がない人も多いかもしれませんが、運動不足によって血管が硬くなると高血圧になりやすくなります。

筋肉痛にならない1日30分程度の軽い散歩やジョギングなどを日課にしましょう。

塩分制限と定期的な運動を数カ月間続けることで、血圧が改善するケースも少なくありません。それでも血圧が下がらないという場合は降圧薬による治療が有効です。

虚血性心不全は
30代からリスクが高まる

心不全には、心臓に酸素や栄養を送る冠動脈が狭くなったり詰まることで起こる「虚血性心不全」もあります。冠動脈の閉塞により発症する心筋梗塞を起こした後に心臓の機能が悪くなり、発症する例も多くみられます。虚血性心不全も、高血圧をはじめ、動脈硬化、糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病が引き金となって発症することは少なくありません。虚血性心不全の前兆には、心臓から離れた左肩・左腕・左手や背部、あるいは顎や歯や耳にまで痛みを感じる「放散痛」という症状が現れることがあります。このような症状を感じたら「虚血性心不全」を疑い、すぐに病院に行きましょう。

30歳を超えると動脈硬化などが起きやすくなり、心筋梗塞のリスクも高まります。塩分制限や定期的な運動に加え、禁煙やアルコールを飲み過ぎないよう気をつけるなど生活習慣を見直し、将来的な心不全の予防につなげましょう。

佐藤 直樹 日本医科大学武藏小杉病院 循環器内科教授

1987年、日本医科大学医学部卒業。2011年より現職。NPO法人日本心不全ネットワーク理事長として、一般市民への心不全啓発活動や臨床・基礎研究など幅広く手がける。日本内科学会総合内科専門医・指導医。日本循環器学会循環器専門医。日本集中治療医学会集中治療専門医。

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