新型コロナウイルスの感染拡大によって、殺菌や消毒、除菌に対する意識が高まっています。とはいえ、「この方法で本当に正しいの?」「この製品で確かな効果は得られるの?」といった疑問や不安は尽きません。そもそも殺菌と消毒、除菌にはどのような違いがあるのか、どの方法が新型コロナウイルスに対して効果的なのか、北里大学大村智記念研究所ウイルス感染制御学研究室1の片山和彦教授に伺いました。
殺菌、消毒、除菌
違いを知って正しく選ぶ
新型コロナウイルス感染症(病名:COVID-19)予防のため、液体や泡のハンドソープを使った手洗いや、手指消毒用アルコールによる消毒、外出時のマスクの着用、「3密(密閉空間、密集場所、密接場面)」の回避、ソーシャルディスタンス(社会的距離)の確保など、さまざまな取り組みが私たちの生活の中に浸透してきています。
こうした中で、よく聞かれるのが「キッチンまわりや食品、家具や遊具など直接手で触れる機会の多いものは、どのように殺菌や消毒、除菌をすれば良いのか」という声です。
ドラッグストアやコンビニエンスストア、スーパーなどでは、多種多様な殺菌や消毒、除菌などの効果をうたった製品が販売されています。
その中から適切な製品を選ぶためには、まず「殺菌」「消毒」「除菌」の違いを知っておく必要があります。
- □殺菌
菌を殺すこと。法規上は細菌だけでなく、ウイルスを含む微生物全体に使います。
ウイルスに対しては、消毒や不活性化という言葉を使うことが多いです。 - □消毒
感染症を引き起こす原因となる細菌やウイルス、真菌(カビ)、原虫などの病原性微生物の毒を消し去ること。法規上は殺菌と同じように使われます。 - □除菌
細菌を除くこと。ウイルスに対しては、“ウイルス除去“が使われている場合があります。
このうち、「殺菌」作用、「消毒」作用を表示できるのは「医薬品」「医薬部外品」だけです。雑貨品は、この効能を表記することができません。
「医薬品」「医薬部外品」とは、薬機法(旧薬事法)に基づき、厚生労働大臣が品質・有効性・安全性を確認した製品に記される表示です。製品を選ぶ際にはパッケージの表示などをぜひチェックしてみましょう。
殺菌剤や消毒液に使われる代表的な成分に、「次亜塩素酸ナトリウム」や「消毒用エタノール」などがあります。この二つは、消毒剤として認可されています。
一方、「除菌」や「ウイルス除去」といった作用をうたった製品は、医薬品や医薬部外品ではなく、「雑貨品」として扱われ、 殺菌、消毒の効能が承認されていません。雑貨品には除菌スプレーや洗剤、漂白剤などが該当します。
市販の殺菌、消毒、除菌製品の
使い分け方をチェック
次に、殺菌や消毒などの効能を持つ製品の代表的な成分である「次亜塩素酸ナトリウム」、「消毒用エタノール」、除菌作用のある雑貨品(除菌スプレー、洗剤、漂白剤など)の主な用途について見てみましょう。
次亜塩素酸ナトリウム溶液の形状で、医薬品、医薬部外品として市販されています。
なお、雑貨品(除菌剤)の衣料用漂白剤でも代用できますが、製品の説明書に従って使用方法をきちんと守ることが重要です。
- □キッチンまわりやテーブルまわりの拭き掃除に
衣料用漂白剤を使用する場合は、次亜塩素酸ナトリウムが0.05%になるように薄めて拭き、その後水拭きします(※1)。
(※1)
参照:新型コロナウイルスの消毒・除菌方法について(厚生労働省・経済産業省・消費者庁特設ページ)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/syoudoku_00001.html
しかし、最近の研究では、0.15%以上の濃度でなければ完全に新型コロナウイルスを消毒できないことが分かってきました。
人体に直接使用したり、空気中に噴霧したりするのは避けましょう。
また、金属に使用すると、錆が発生することもあるので要注意です。
漂白の効果があるので、色物の布製品などに使う際も気をつけましょう。
「消毒用エタノール」は日本薬局方によりアルコール濃度が76.9~81.4vol%のものと規定されています。
エタノールの持つ脱水作用や脱脂作用により、菌体やウイルスを壊す働きがあります。新型コロナウイルスやインフルエンザウイルスなど、細胞の外側が「エンベロープ」という脂質の膜で覆われたウイルスに対しては有効ですが、エンベロープを持たないノロウイルスやロタウイルス、カビなどの胞子には効果が期待できません。
- □手指
手全体がぬれるように塗り広げ、指先を内側にして手を組み、1分間ほどぬらしたまま待ちます。その後、乾燥させます。 - □家具や遊具、布製品など
消毒用エタノールを含ませた布などで表面を拭き取ります。スプレータイプを吹きつけるのも有効です。
アルコール濃度が60vol%以上の製品は引火性なので、空間に噴霧しないなど取り扱いには十分な注意が必要です。
界面活性剤や低濃度のエタノールを含む製品などがあります。
市販の家庭用洗剤の主成分である界面活性剤には、前述のエンベロープを持つウイルスの「膜」を壊す作用があり、独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)の検証試験結果では9種類の界面活性剤が新型コロナウイルスに有効であると確認されています(2020年6月現在)。
https://www.nite.go.jp/information/koronataisaku20200522.html
- □食器、衣類、ドアノブなど
除菌スプレーや家庭用洗剤は基本的にそのまま使用します。漂白剤や台所用洗剤は薄めて使うなど、製品に記載されている使用方法を守ることが大切です。
塩素系漂白剤は酸性タイプの製品と一緒に使うと有害ガスが発生するので厳重に注意が必要です。人体に直接使用したり、空間噴霧などを行うのも禁物です。医薬品や医薬部外品ではないため、誤った使用方法で健康被害に遭っても自己責任となり、補償もされません。製品に記載されている使用方法を遵守しましょう。
空間の殺菌、消毒、除菌には
こまめな換気がベスト
室内から細菌やウイルスを除去するために、殺菌、消毒、除菌効果をうたった商品を空間に噴霧するケースも見られますが、人のいる環境では、眼や皮膚に付着したり、口や鼻から吸入してしまう場合があり、健康被害のリスクがあることから厚生労働省も推奨していません(※2)。
(※2)
参考:新型コロナウイルス対策ポスター「新型コロナウイルス感染症対策 消毒や除菌効果を謳う商品は、目的に合ったものを、正しく選びましょう。」
https://www.caa.go.jp/notice/assets/consumer_system_20200626_01.pdf
空気中のウイルス対策のうえで最も重要なのは換気です。窓を開けて換気を行う場合は、1時間に2回以上、2方向の窓を数分間程度全開にすると、風の流れができて効果的です。
さらに、感染予防対策のためには、冒頭に挙げたような手洗い、マスク着用、3密回避などを今後も続けていくことが不可欠です。
そのうえで適切な殺菌や消毒、除菌、そして健康管理を意識し、感染を予防していきましょう。また、かかりつけ医がいる場合は、感染予防のコツを相談してみるのも良いでしょう。
国立感染症研究所ウイルス第二部第一室・室長を経て、2016年から現職。日本臨床ウイルス学会、日本分子生物学会、日本ワクチン学会、日本ウイルス学会に所属。獣医学博士。2020年5月、片山教授らの研究グループがSARS-CoV-2の中和VHH抗体の取得に成功したことが発表され、話題に。ノロウイルスの専門家としては、国際的に著名。