古くから伝統医学(※)などに用いられてきたスパイス。複数のスパイスから作られるカレーは、暑さで食欲が減退する夏でも食が進み、夏バテ予防・回復に一役買ってくれる存在です。そこで日米で内科専門医として活動し、スパイスにも詳しい横浜市立大学の石川義弘教授に、カレーに含まれるスパイスの特徴や、取り入れ方のコツなどについて伺いました。
※現代医学が発達する以前に、長い歴史の中で人々の知恵によって発展してきた医学。
スパイスの持つ
抗酸化力に注目!
抗酸化物質は、私たち人間の体にとって極めて重要です。抗酸化物質には、細胞が傷つくのを予防する・遅らせるという性質があり、がんや心疾患、糖尿病など、さまざまな病気の一因である“酸化ストレス(※)”の作用を弱めると言われています。
生きるために酸素は欠かせませんが、体内に取り込んだ酸素は代謝の過程などで、数パーセントが活性酸素になります。活性酸素には体内の免疫機能をアップしたり、感染を防いだりするといった重要な働きがある一方、過剰に増えると細胞を傷つけ、老化や生活習慣病、がんなどを引き起こす要因になります。
※酸素が体の中の細胞や組織などに結びつき、ダメージが蓄積していくこと。
活性酸素が増加する主な要因は、以下のとおりです。
- □加齢
- □ストレス
- □紫外線
- □過度の飲酒
- □喫煙
- □激しい運動
健康を保つためには、こうした要因をできるだけ取り除き、活性酸素を増やさないようにすることが大切です。また、抗酸化物質を含む食品を積極的に摂取して、増えてしまった活性酸素を取り除くことも必要です。
ここで、注目したいのがスパイスのもとである、植物に備わっている「抗酸化力」です。
カレーには10~30種類のスパイスが使われますが、すべてインドや南アジアなどの熱帯地域の植物です。例えば、カレーの色味と風味に欠かせない「ターメリック」は、ショウガ科の植物で、ウコンの根茎を乾燥させたものです。また、カレーの良い香りの中心的存在である「クミン」はセリ科の植物で、ウマゼリの種子を乾燥させたものです。
植物は、光合成の副産物である酸素や、紫外線による酸化ダメージから自身を守るために、抗酸化物質の「ポリフェノール」を作り出しています。ほとんどの植物に含まれる苦味や色素の成分の総称で、その種類は7,000種以上に及ぶと言われています。先に挙げたスパイスのターメリックには、「クルクミン」と呼ばれるポリフェノールが豊富に含まれています。
優れた抗酸化力を持つスパイスがふんだんに使われたカレーは、健康をサポートしてくれる強力な味方だと言えます。
殺菌・抗菌作用を持つ
スパイスも多い
料理でよく使われるニンニクやショウガも、カレーに欠かせないスパイスです。どちらの食材にも含まれる成分で共通している効能が「殺菌・抗菌作用」です。
こうした殺菌・抗菌作用を持つスパイスは、インドや中東などで防腐剤や保存剤として活用されていたと考えられています。現代のように科学的なメカニズムが解明されていなかった時代から、世界の先人たちの知恵が生かされ、伝承されています。
スパイスは、インドや南アジアでは「アーユルヴェーダ」、中国や東アジアでは「漢方薬」、ドイツでは「ハーブ薬」として古くから伝統医学に使われてきました。
代表的なものは下表のとおりです。
スパイスの効能からも、暑くて食欲が減退しがちな夏に、スパイスを使用したカレーが適している理由が分かります。胃腸の調子が整い、食が進むことで夏バテ予防や回復につながります。
カレーのスパイスは
組み合わせが無限大
カレーに使われるスパイスは、種類によって味や香り、効能などが異なります。スパイス同士はもちろん、野菜や肉、魚などさまざまな食材との組み合わせによってスパイスカレーのバリエーションはどんどん広がります。
自分好みのスパイスを見つけ上手に合わせ、楽しく、おいしく味わって、夏バテ予防や健康づくりに役立てましょう。
横浜市立大学医学部を卒業(1984年)、米国コロンビア大学、ハーバード大学医学部助教授、ラトガース大学医学部教授・病院指導医(内科)などを経て現職。医学博士。日米医籍登録。アメリカ内科学会フェロー、米国心臓病学会フェロー、欧州心臓病学会フェロー、日本心臓病学会フェロー、日本内科学会フェローなどの認定。