健康ライフ
2019.03.22

やり過ぎは禁物!耳掃除

~耳を傷めない正しいケアとは~
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洗顔や歯磨きなどと同じ感覚で、「耳の中もいつもきれいにしていたい!」と耳掃除を毎日していませんか? 実は、清潔に保とうとこまめに掃除するよりも、あまり触れない方が耳のためには良いと言います。耳掃除の適切な方法や耳掃除をやり過ぎることで生じる症状などについて、神尾記念病院の神尾友信先生に伺いました。

耳あかは本来、
自然に外に出ていくもの

耳あかとは文字どおり、耳の中に付着したあかのことです。そう聞くと、「お風呂で体を洗うように、耳あかも耳掃除をしてきれいにしなくてはならない!」と思うかもしれません。
しかし、入浴とは違い、耳掃除は基本的に必要ありません。その理由は耳の構造にあります。

■耳の構造 耳の構造

耳の入り口から鼓膜までの間1/3くらいの部分を「軟骨部外耳道」と言います。
この部分にある耳垢腺じこうせんや皮脂腺、汗腺などからの分泌物と、空気中のホコリや皮膚の古い角質などが混ざり合ったものが耳あかです。
耳あかは軟骨部外耳道の中にたまりますが、ここに密集する細いうぶ毛が耳あかを自然に外に押し出す働きをしています。
自分で耳掃除をしなくとも、食事や会話などであごを動かすたびに、耳あかは耳の穴の方へと移動し、毛の力を借りていつの間にか外に出て、きれいになっているのです。
耳掃除はまめにしていないけれど耳あかがほとんどない、という人は少なくありません。

ウェットタイプの耳あかは
週1回を目安に掃除を

耳あかにはカサカサしたドライタイプと、ベタベタしたウエットタイプの2種類があります。これは体質によるもので、どちらが良い・悪いということではありません。

ドライタイプの場合は、先に説明したように自然と外に出ていきやすい傾向にあります。
しかしウエットタイプの場合は、定期的に耳あかを取り除かないと耳の奥の方までたまってしまうことがあります。ひどい場合には、耳あかが外耳道を塞ぐ「耳垢塞栓じこうそくせん」という病気を招き、耳が詰まったような感じがする、聞こえが悪くなる、痛みを伴うなどの症状が生じることもあります。
耳あかがウェットタイプの人は、週に1回程度のペースで耳掃除をすると良いでしょう。
その際のポイントは次のとおりです。

  • 耳掃除は入浴後に行う
    湿気で耳あかが軟らかくなっているため、スムーズに取り除くことができます。
  • 大人用ではなく、ベビー用の綿棒を使う
    日本人の外耳道は一般的に狭い傾向があります。そこに大人用の先の太い綿棒を入れると、かえって耳あかを鼓膜の方へと押し込むことになるケースが少なくありません。先端部が細く、軸のコシの弱いベビー用の綿棒であれば、外耳道を傷つけることなく安全に耳あかを取り除くことができます。
  • 耳の手前のみ、円を描くように綿棒を動かす
    耳あかは外耳道の手前(耳の入り口近く)にたまります。小指の爪が入るくらいの範囲が、綿棒を入れる目安です。奥までぐっと綿棒を差し込まないように気を付けて、手前のみやさしく円を描くように1~2回動かしましょう。定期的に耳掃除を行っていれば、それだけで十分きれいになります。

耳にダメージを与えないよう
細心の注意を払おう

耳掃除の際に耳を傷めないよう、以下のポイントに気を付けましょう。

  • 耳の奥まで綿棒を入れない
    皮脂腺や汗腺などの皮下組織のある軟骨部外耳道の皮膚には厚みがありますが、その奥の「骨部外耳道」は皮膚が薄く、その下はすぐ骨となります。つまり、軟骨部外耳道に比べると摩擦に弱く、傷つきやすい傾向にあります。その部分をこすり過ぎると一種の擦り傷のようになり、その傷から細菌などが繁殖して炎症を起こし、「外耳炎」を招くこともあるので注意しましょう。
  • 金属製、木製、竹製などの耳かきは使わない
    綿棒よりも耳掃除の手応えを感じやすい、耳をかく感覚が気持ちいいなどの声も聞きますが、つい使い過ぎたり、耳の奥までかいたりして、外耳道を傷つけることがあります。先に挙げたベビー用綿棒の使用をお勧めします。
  • 肘に何かがぶつかりそうな状況では行わない
    耳掃除をしているときに近くに人がいたり、体に当たるような物があったりすると、誤って肘がぶつかったりする可能性があります。その拍子に綿棒が耳の奥に突き刺さり、外傷を負うケースがあります。
    出血したり、鼓膜が破れてしまったりするリスクがあるほか、綿棒の刺さり方によっては、まれに鼓膜の奥にある中耳の耳小骨じしょうこつが障害されることもあります。さらに内耳に障害がおよぶと、難聴やめまい、耳鳴り、顔面神経麻痺などの後遺症がずっと残る場合もあります。
    耳掃除をしながら動いたり、寝転がった状態で耳掃除をしたりすることもやめましょう。

耳だれ、かゆみ、痛みが
生じたら耳鼻咽喉科へ

耳掃除をやり過ぎることの大きな問題は、上に挙げたような外耳炎や外傷などの危険を伴うことにあります。
ベビー用の綿棒なら大丈夫だろうと、何度も繰り返し耳の中を触っていると、刺激でかゆみや湿疹が生じたり、荒れてジュクジュクと湿ってくることがあります。これを「外耳道湿疹」と言います。
さらに、このジュクジュクした状態の外耳道に空気中の真菌(カビ菌の一種)が付着すると、耳に強いかゆみや痛みを生じる「外耳道真菌症」という病気になることもあります。
反対に、「そもそも耳がかゆくなるので耳かきがやめられない」という人もいますが、この場合は乾燥などの要因でかゆみを感じやすくなっている可能性もあります。
いずれの場合も耳鼻咽喉科で、薬を塗るなどの治療を行うことで改善することが可能です。

なお、耳の中から液体や膿が出る「耳だれ」の症状が現れた場合には、できるだけ早く耳鼻咽喉科を受診してください。外耳道の炎症のみであれば大きな心配はありませんが、中耳炎を起こしている場合には内耳まで影響がおよぶ危険があります。耳の健康においても、早期発見・早期治療は極めて重要です。

神尾 友信 神尾記念病院理事長・院長

1993年、帝京大学医学部卒業。日本医科大学付属病院耳鼻咽喉科、山形県北村山公立病院耳鼻咽喉科、日本医科大学付属千葉北総病院耳鼻咽喉科を経て、2001年に神尾記念病院へ入職。2011年より現職。医学博士、日本耳鼻咽喉科学会認定専門医、日本耳鼻咽喉科学会認定補聴器相談医、補聴器適合判定医師。

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