健康マメ知識
2020.11.13

不快な静電気を解消!

~皮膚の乾燥対策がカギ~
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空気が乾燥する冬は静電気が発生しやすい季節です。衣類を脱ぎ着する時にパチッとしたり、ドアノブやエレベーターのボタンなどに触れる時に突然痛みが走るなど、何かと不快です。その大きな要因は、実は皮膚の乾燥にあることが分かりました。静電気への適切な対処法や予防法について、順天堂大学大学院医学研究科 環境医学研究所の髙森建二所長に伺いました。

皮膚の水分不足が
静電気を引き起こす

乾燥した時期に、金属製のドアノブに触れた時に「パチッ」とする痛みの原因は静電気です。あらゆる物質は電気を帯びており、人の体も例外ではありません。通常はプラスとマイナスの電気量がバランス良く保たれています。しかし、衣類を脱ぎ着する際に肌と素材がこすれることによって、プラスとマイナスの電気量のバランスが崩れやすくなり、アンバランスな状態で体内や物質内にたまった電気が、静電気の正体です。

とりわけ冬になると静電気が起こりやすくなりますが、その要因は、皮膚に蓄えられている水分が乾燥によって減少することにあります。一般的に、水分が多く蓄えられている環境では自然と放電が進みますが、水分が少ないとスムーズに放電ができなくなり、電気がたまりやすくなります。それと同じことが人の皮膚でも起こるわけです。

たまった電気は、金属などに触れた時に一気に放電され、それによって「パチッ」という痛みが引き起こされるのです。静電気を上手に防ぐために、まずは皮膚の仕組みや働きについて知っておきましょう。

乾燥や静電気から皮膚を守る
セラミドと皮脂膜とは

皮膚は、一番外側から「表皮」「真皮しんぴ」「皮下組織」の順に3つの層で成り立っています。このうち水分の蒸発を防ぐバリアの機能を持つのが、「表皮」の最も外側にある「角層」です。健康な肌の角層の中では細胞同士が密着し、レンガ塀のように規則正しく積み重なっています。その下には水分を保持する「真皮」があります。

細胞同士を密着させる役割を担うのは、細胞と細胞の間を埋める細胞間脂質です。細胞間脂質の主成分である「セラミド」が持つ水分を引き寄せて保つ働きによって、角層内の水分は維持されています。

さらに角層を覆う皮脂膜が、皮膚内部の水分が蒸発しないよう、しっかり閉じ込める役割を果たしています。

こうして皮膚のバリアが保たれることで、細菌やホコリなどの外部からの異物が体内に侵入するのも防ぐことができているのです。

しかし、さまざまな要因によって皮脂膜が減少すると水分が蒸発しやすくなり、角層内のセラミドも少なくなっていきます。すると、角層に蓄えらえた水分も失われ、皮膚が乾燥した状態になっていくのです。

皮脂膜が減少する要因の一つとして加齢が挙げられますが、若い世代でも油断は禁物です。石鹸でゴシゴシ洗う、熱い湯船に長時間浸かるといったことによって皮脂膜が溶け出し、角層の水分が蒸発してしまいます。

■健康な皮膚と乾燥した皮膚の構造 健康な皮膚と乾燥した皮膚の構造

皮脂膜が少なくなり、角層の水分が失われて乾燥が進むと、皮膚のバリアの働きが低下します。すると外部の異物が体内へと侵入しやすくなり、痛みやかゆみを伝える神経(C線維)が刺激を受けることになります。

健康な皮膚のC線維は表皮と真皮の境目あたりまでしか伸びていませんが、乾燥した皮膚では角層のすぐ下あたりまで伸びてきます。このため、ちょっとした刺激でも痛みやかゆみを感じやすくなるのです。

静電気もC線維に刺激を与える大きな要因の一つです。乾燥肌の場合、静電気による痛みやかゆみが増しやすくなるので、特に注意が必要です。かゆみの症状が強い場合などは早めに皮膚科を受診しましょう。

■健康な皮膚と乾燥した皮膚におけるかゆみの伝わり方 健康な皮膚と乾燥した皮膚におけるかゆみの伝わり方

たっぷり保湿とやさしい洗い方で
乾燥と静電気、どちらも予防

皮膚を乾燥から守ることは、静電気の予防にもつながります。そこで最も重要なのが、乳液やクリームなどの保湿剤を塗布するケアです。

特に、静電気を感じやすい手指は、冬場はただでさえ乾燥しやすいうえに、昨今は特に感染症の予防のために手洗いする機会も多く、皮脂や水分が失われがちです。ハンドクリームなどの保湿剤を常備し、手洗いをしたら直後に必ず保湿ケアもセットで行いましょう。

お風呂上がりにも出来るだけ早く全身に保湿剤を塗ることが大切です。何もつけずに放置していると、どんどん水分が蒸発し、乾燥を悪化させる要因になります。

使用する保湿剤は、自分の肌に合うもの、継続して使いやすいものなら基本的にどんなものでも構いません。ただし、塗る量はたっぷりと使い、ぐいぐい肌に押し込むように塗るのではなく、優しくなじませることを心掛けましょう。

また、先にも少し触れたとおり、入浴では石鹸でゴシゴシ洗う、熱い湯船に長時間浸かるということも避けることが大切です。

汚れを落とすために、毎日石鹸で全身を洗う必要はなく、脇の下や陰部など汚れやすいところのみ、石鹸で洗えば大丈夫です。ナイロンタオルでこすり洗いをするのは避け、手や綿・絹などの天然繊維のタオルで優しく洗うのがおすすめです。

湯船の温度は40度前後くらいを目安にし、お湯に浸かる時間は長くても10~20分程度にとどめましょう。皮脂膜やセラミドが溶け出すのを防ぐうえで効果的です。

加湿や衣類の素材選び、
水分補給も重要!

さらに、室内の湿度を50%以上に保つようにするなど、乾燥しにくい環境を整えることも静電気予防の大事なポイントの一つです。カラカラに乾燥した環境の中では静電気の流れが滞り、放電しにくくなります。

加湿器を使用する、室内に洗濯物を干す、観葉植物を飾る、といった方法で、室内の湿度は高まります。空気中の水分が多くなることで、たまった静電気が放出されやすくなります。

また、下着など、いつも身に着ける衣類の素材選びも重要です。吸湿性が高く、水分を含みやすい綿や絹などの天然繊維なら、静電気の放電もスムーズになります。吸湿性の低い化学繊維は放電する力が弱く、静電気がたまりやすい傾向にあります。乾燥肌にはピリピリした刺激やかゆみなどを招く原因になる場合もあるので、なるべく避けましょう。

こまめに水分補給をすることも乾燥予防には欠かせません。利尿作用を促すカフェインを含むコーヒーや緑茶はできるだけ控え、ミネラルウオーターや白湯さゆなどを積極的に摂りましょう。

なお、「パチッ」という静電気による痛みを避けるためには、金属製の物質に触れる前に木製の家具や壁などに触れて一旦放電しておくことをおすすめします。

最近は静電気を防ぐブレスレットやキーホルダー、手袋といったグッズも多く市販されています。こうしたものをうまく活用するのも良いでしょう。

髙森 建二 順天堂大学大学院医学研究科 環境医学研究所所長

順天堂大学名誉教授・特任教授、学校法人順天堂理事。順天堂かゆみ研究センター センター長。医学博士。順天堂大学医学部卒業。同大学医学部生化学講師、米国デューク大学リサーチアソシエイトを経て、1993年順天堂大学医学部皮膚科教授に就任。2005~12年、順天堂大学医学部附属浦安病院院長。2008年から現職、2019年から順天堂かゆみ研究センター センター長に就任。

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