たんぱく質は炭水化物、脂質と並ぶ三大栄養素のひとつで、体を作り、健康に暮らすために必要不可欠なものです。その一方で、ダイエットなどの影響により、日本人女性のたんぱく質の摂取量が減ってきています。たんぱく質の摂取量が不足すると、老化が早まったり、疲れがとれなくなったりするなど、さまざまな不調が現れます。たんぱく質の働きや効果的な摂り方について、神奈川工科大学健康医療科学部管理栄養学科非常勤講師の佐々木一さんに伺いました。
美も健康も
たんぱく質で作られる!
たんぱく質は、筋肉や骨、細胞、内臓、血管、血液、皮膚や髪、爪など、体の各部分の主要成分です。また、体の機能を調整するホルモン、代謝に必要な酵素、脳内の神経伝達物質、免疫抗体などの材料にもなります。
体を作り、健康を維持するために不可欠なたんぱく質ですが、日本の成人女性の摂取量は年々、減少しているというデータがあります。では、たんぱく質が不足すると、どのような不調が現れるのでしょうか。
- □筋肉が減る
体を支え、動くために必要な筋肉は、主にたんぱく質で構成されています。筋肉が減ると身体機能が低下し、若くても転倒や骨折のリスクが高まります。体型が崩れたり姿勢が悪くなったりする原因にもなります。 - □疲れやすくなる
筋肉が減ると体力がなくなり、少し動くだけでも疲れやすくなります。また、たんぱく質が不足すると、筋肉疲労の回復が滞り、疲労が蓄積していきます。 - □妊娠・出産に悪影響
たんぱく質が不足すると体全体の代謝のバランスが崩れ、生殖機能も影響を受けます。生理サイクルが狂い、月経異常や不妊に繋がることがあります。また、若くても更年期障害が始まる人もいます。さらに、筋肉が少なくて痩せた女性が妊娠した場合、低出生体重児(出生時体重2500g未満)が生まれやすくなります。低出生体重児は小児肥満や成人した後に生活習慣病にかかるリスクが高いことが分かっています。 - □肌や髪がボロボロに
皮膚、髪、爪を作るのもたんぱく質です。不足すると、潤いやハリが失われてしまいます。 - □気分が晴れない
脳内ホルモンのセロトニンは、たんぱく質を材料としています。セロトニンが減ると、うつ気分になる、睡眠障害が出る、認知機能が低下するなどの不調が現れます。
若くても
「サルコペニア」予備軍に!?
最近、問題になっているのが、加齢に伴って骨格筋量と骨格筋力が低下することによって起こるサルコペニア(加齢性筋肉減弱症)です。高齢になり食欲が衰えていくと、たんぱく質の摂取量が減って、筋肉の質と量に影響し、基礎代謝や身体機能の低下が始まります。するとエネルギーの消費量も低下するので、食欲も減少し、ますます栄養が不足する、という負のサイクルに陥ります。
サルコペニアは、高齢者に限らず、若い女性にも起こる可能性があります。たんぱく質=肉は太るというイメージから、食べるのを控えている人、野菜ばかり食べている人、ほとんど運動をしない人は、知らないうちにこの負のサイクルが始まっているかもしれません。
最近では、コロナ禍で外出せず、食事量が増えたことで、脂肪の蓄積と筋肉の減少が合わさった「サルコペニア肥満」も心配されています。体型は変わらないように見えますが、実は体脂肪を除くと筋肉はほとんどない、という状態がサルコペニア肥満で、生活習慣病のリスクが高くなります。
たんぱく質は
毎日食べて摂ることが大事
食事からたんぱく質を摂ると、消化によってアミノ酸に分解されて吸収されます。アミノ酸は血液と共に全身に運ばれると、体の各部位で働いているたんぱく質のアミノ酸と入れ替わります。体のエネルギー源、ホルモンや神経伝達物質の合成にも使われます。
一方、古くなったたんぱく質、不要な代謝物は尿や便などと一緒に排出されます。
このように体内のたんぱく質は、「分解」と「合成」、「排出」と「供給」というバランスで成り立っています。
このサイクルは、常に動いています。排出と供給のバランスを保つには、排出される分量に見合った量のたんぱく質を、食事から摂取する必要があります。食べる量(たんぱく質の摂取量)が足りなければ、体内のたんぱく質が消費され、筋肉は痩せ細っていくばかりです。逆に、意識してたんぱく質の摂取量を増やせば、筋肉量も増やすことができます。
自分に必要な
たんぱく質の摂取量を知ろう
では、どのくらいのたんぱく質を摂れば良いのでしょうか。
「日本人の食事摂取基準(2020年版)」では、18歳以上の女性のたんぱく質の推奨摂取量は1日50gです。ただし、これは病気にならないための、最低限の目安です。
日々、健康的に過ごすには、もっと多くのたんぱく質が必要です。20代から50代の女性の場合、1食につき20g以上、1日60g以上の摂取を心掛けましょう。いきなりこの量は食べられないという人は、まずは50gを目標に、少しずつ摂取量を増やしていくと良いでしょう。
- 1日あたり:1g(0.8~1.5g)×体重( )㎏=目標量( )g
- 1食あたり:1日あたりの目標量( )g÷3
体重1kgあたり1gで計算した量を摂取目標にしてみましょう。1日の活動量が少ない日は0.8g、運動量が多い日は1.5g程度で目標量を計算します。
たんぱく質を
効果的に摂るためには
たんぱく質は、20種類のアミノ酸で構成されています。そのうち9種類は、食事から補わなければならない必須アミノ酸です。必須アミノ酸は1種類でも不足すると、たんぱく質の合成が進みません。必須アミノ酸9種類を含む食事をバランス良く摂るのがポイントです。
たんぱく質には動物性と植物性があります。多くの動物性たんぱく質は、すべての必須アミノ酸を含みますが、一部の植物性たんぱく質はそうではありません。しかし、動物性たんぱく質は油脂を多く含んでいるので、油脂をほとんど含んでいない植物性たんぱく質と組み合わせて摂取することがおすすめです。動物性、植物性のどちらかに偏らず、1:1の割合で摂取するのが理想です。
長寿の研究から、野菜と魚や大豆を常食していた人は、長生きという結果が出ています。ビタミンはアミノ酸がたんぱく質に再合成される際に補酵素として働くため、たんぱく質は、たっぷりの野菜と一緒に摂りましょう。野菜に加えて海藻も一緒に摂るのがおすすめです。
「毎食」摂ること、
軽い運動も大事
血液中の必須アミノ酸濃度がある程度まで上がらないと、体内でのたんぱく質合成は始まりません。少しだけ食べても、たんぱく質の合成は促進されないのです。
成人では1食あたり20gのたんぱく質を摂取するのが良いでしょう。たんぱく質の合成は1日通して維持する必要があるので、毎食20gずつ、コンスタントに摂ることが大切です。夕食の時だけ多く摂っても、摂りすぎた分は無駄になってしまいます。
また、筋肉は刺激を与えることで作られます。坂道を歩く、階段の上り下りをする、スクワットをするなど、軽い運動を生活に取り入れましょう。運動した後、1〜2時間の間にたんぱく質を摂ると、体内でのたんぱく質合成が高まります。
たんぱく質は、体の約20%を占める大切な栄養素です。病気を防ぐための免疫抗体を作る働きも持っています。日々の食事でバランス良く、賢く摂ることを心掛けましょう。
理学博士。1976年、山形大学理学部生命学科卒業。82年、名古屋大学理学部大学院生物学専攻修了。乳業メーカーの研究員を経て、2014年より神奈川工科大学栄養生命科学科教授。19年3月に定年退職し現職。研究員時代にホエイたんぱく質の抗炎症作用を発見。現在は乳清たんぱく質および乳清ペプチドを用いた筋肉増強作用の研究解明を進めている。