知っておきたい病気・医療
2019.02.08

生理不順は不調の前触れ

~ホルモンバランスを整えるには?~
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毎月の生理は女性にとって健康のバロメーターの一つです。「生理がこない」「期間が短い」などの生理の異常を放っておくと、隠れた病気を見逃したり、将来の妊娠・出産に影響したりすることもあります。生理不順の原因や対策について、いけした女性クリニック銀座院長の池下育子先生に伺いました。

正常な生理とは
どんなもの?

生理(月経)の周期や血量には個人差がありますが、以下のような状態が正常範囲とされています。

  • 周期日数
    25~38日
  • 出血持続日数
    3~7日間(平均5日間)
  • 1周期の総経血量
    20~140ml

これに当てはまらない場合は月経異常とされ、周期が24日以内で出血が反復する「頻発月経」、39日以上3ヵ月以内の「稀発月経」、3ヵ月以上生理がこない「続発性無月経」などがあります。
また、経血の量が少ないものを「過少月経」、多いものを「過多月経」と言い、月経とは異なる出血が見られる場合を「不正性器出血(不正出血)」と言います。不正出血が頻繁に見られる場合は、何かの病気が隠れている可能性もあり、がんなど悪性の病気でないことを確かめる必要があります。
40代半ばごろになると、ホルモンバランスが乱れてきて、排卵を伴わない無排卵性月経や不正出血も増えてきます。生理の流れとしては、生理が始まる前に、お腹や胸の張り、気分がイライラする、頭痛などの症状があって、生理1日目は経血量が少なく、2〜3日目は総経血量の3分の2程度の量が出て月経痛を伴うこともあり、4〜5日目は少なくなるというメリハリがあるのが通常です。しかし、こうしたメリハリがなく、茶色っぽい出血がダラダラと続くような場合は不正出血の可能性が高いと言えます。

■いろいろな生理の異常 いろいろな生理の異常

棒の太さが生理の量を表し、その間隔が周期を表しています。

脳がストレスを感じると
ホルモンバランスが乱れる

生理周期は、卵巣から分泌されるエストロゲン(卵胞ホルモン)、プロゲステロン(黄体ホルモン)という2種類の女性ホルモンが大きく関わっており、その分泌は脳からの指令によってコントロールされています。脳の視床下部(※)から「性腺刺激ホルモン放出ホルモン」が分泌されると、その刺激を受けて脳の下垂体から「卵胞刺激ホルモン」が分泌され、卵巣の中の卵子が大きくなり(卵胞期)、それに伴い、卵胞から出る「卵胞ホルモン」によって子宮内膜が厚くなります。そしてその後、下垂体から「黄体化ホルモン」が24時間分泌され、排卵が起こります。排卵後は「黄体ホルモン」が多く分泌され(黄体期)、子宮内膜は妊娠の準備が整った状態になります。この期間に妊娠しなければ、卵胞ホルモン、黄体ホルモンの量が減り、子宮内膜は出血を伴って剥がれ落ちます。これが生理です。

※視床下部:
間脳にあり、体温調整や物質代謝、ホルモンだけではなく内臓の働き、睡眠など自律神経系や免疫調整を行う。

■生理の周期 生理の周期

このように、生理の周期というのは脳のコントロールを受けているものです。脳がリズムを形状記憶しているかのように規則的に指令を出せば、生理不順も起こりにくいと考えられますが、脳がストレスを感じるような刺激が多くあれば、そのコントロールに追われて、卵巣への指令がうまくいかなくなることもあります。
精神的・身体的ストレスによってホルモンバランスが崩れると、生理の異常が現れる可能性があります。引っ越し、転職、結婚といった幸せな出来事であっても、生活が大きく変化するイベントはストレスになります。また、異常気象や季節の変わり目の寒暖差など、環境刺激も自律神経のバランスが乱れる原因となり、脳にとってはストレスとなります。
生理不順の原因の多くは、こうしたストレスによるホルモンバランスの乱れだと考えられます。ストレスを完全になくすことは難しいので、何かのきっかけでホルモンバランスが乱れ、排卵が遅れたり不正性器出血が起こったりと、生理不順は決して珍しいことではありません。ただし、ストレスフルな時間が常態となり、体がストレスを感じていることに気付かないまま「特に大きなストレスはないのになぜか生理がこない」と慣れてしまうこともあるようです。1週間以上のズレや不順な生理が3ヵ月以上続くようであれば、婦人科を受診しましょう。

生理の異常に
関連する女性の病気

卵巣や子宮の病気が関連して、生理の異常を引き起こす場合もあります。

  • 子宮体がん
    子宮の内側にある、子宮内膜から発生するがん。40代から多くなり、50~60代の閉経前後で最も多くなります。約8割はエストロゲンの長期的な刺激と関連していると考えられています。月経とは無関係の出血、おりもの、排尿痛や排尿困難、性交時痛、骨盤領域の痛みなどの症状を感じたら、婦人科医の診察を受けることが大切です。
  • 子宮内膜症
    子宮内膜に似た組織が、卵巣や腹膜など子宮以外の場所で増殖し、生理のたびに出血する病気。放っておくと炎症や周辺組織との癒着を起こし、激しい痛みを引き起こします。通常、子宮内膜は経血として体外に出ますが、子宮以外の場所ではその組織にとどまり、卵巣にたまると「チョコレートのう胞」(※)となります。排卵に影響をおよぼし不妊にもつながります。

    ※チョコレートのう胞:
    子宮内膜症が原因で子宮内膜に似た組織により卵巣内に血液がたまって塊ができる。
  • 子宮筋腫
    子宮にこぶのような良性の腫瘍ができる病気。子宮の内側にできると(粘膜下筋腫)、月経量の増加や不正出血が多く見られます。できる場所によっては、不妊や流産の原因になることもあります。
  • 月経困難症
    月経中に起こる腹痛や腰痛、疲労感、イライラ、抑うつなどの症状が、日常生活に支障をきたすほど強い状態。子宮内膜症や子宮筋腫などが原因となっている場合、これらの病気の治療が必要です。

放っておくと
妊娠・出産に影響することも

「いつもこんな感じだから大丈夫」「ちょっと遅れているだけ」と生理不順を放っておくと、排卵できなくなったり、子宮(膣)がはれわたり卵巣が萎縮して女性ホルモンが低下し、不妊症につながったりすることもあります。将来、子どもを産みたいと希望する人はもちろん、今は希望しない人も、女性ホルモンに関連する病気のリスクを減らすためにも、生理の異常は放っておかずに早めに対処しましょう。
婦人科を受診する際は、自分の生理の周期や状態を把握して「直近3ヵ月の生理開始日、持続日数、状態」を伝えられるようにしておくと良いでしょう。普段から基礎体温を測っていると、自分の体のリズムを知るのに役立ちます。記録に役立つアプリを活用すると便利でしょう。

生理の回数が多い現代女性には
上手に対処する知識が必要

対処法としては、体を冷やさない、バランスの取れた食事を摂る、ストレスを柔軟に受けとめる工夫など、日常生活を見直すことが大切です。また、婦人科を受診し、月経異常を改善するための女性ホルモン薬を使用することも選択肢の一つとなります。OC(Oral Contraceptives:低用量経口避妊薬)、LEP(Low dose Estrogen Progestin:低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬)など、女性ホルモン薬にはいくつかの種類があり、いつ妊娠・出産を希望するかというライフイベント、月経時の症状などに合わせて薬を選択します。女性ホルモン薬を適正に使えば、生理周期が規則正しくなるためホルモンバランスが整い、卵巣が休む期間を設けることによって卵巣の病気のリスクも減らせます。
出産機会の多かった昔の女性は生涯の月経回数は平均50回でしたが、現代女性は出産回数が減ったために、450回と生理のある期間が長くなり(※)、その結果、生理にまつわるトラブルも増えています。知識を持って生理と上手に付き合うことは、現代の女性にとって必要不可欠なスキルと言えるかもしれません。気になることがあったら、早めに婦人科医に相談しましょう。

※出典:Short RV:Proc R Soc Lond B Biol Sci.1976;195(1118):3-24

池下 育子 いけした女性クリニック銀座 院長

帝京大学医学部卒業後、帝京大学麻酔学教室助手として勤務。国立小児病院麻酔科を経て、東京都立築地産院産婦人科へ。1991年、同産院医長に就任。92年に池下レディースクリニック銀座を開業。著書に『女性の病気百科 気になる体の悩みや症状がわかる』(主婦の友社)、『ラブ&セーフティ・セックス 愛するふたり』(日東書院)、『Maternity Book ママになるまでの10ヵ月ダイアリー』(梧桐書院)など。

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