知っておきたい病気・医療
2023.05.12

突然死の原因にもなる「大動脈瘤」

~破裂する前に治療をすることが大切~
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心臓から送り出された血液を運ぶ大動脈に、こぶ状の膨らみができる大動脈瘤。破裂するまで自覚症状がないことがほとんどですが、破裂してしまうと命にかかわる病気であり、突然死の原因にもなります。大動脈瘤の原因や治療法などについて、国立循環器病研究センター副院長の松田均先生に伺いました。

無症状のまま大きくなり
破裂すると突然死の原因に

大動脈は、人間の体の中で最も太い血管です。心臓から出て少し上に向かい、弓状にカーブを描いて下行し、横隔膜を貫いて下半身へ向かっています。横隔膜から上の部分を「胸部大動脈」、下の部分を「腹部大動脈」と呼びます。大動脈からは、手足や脳、肝臓、胃腸、腎臓などの主要な臓器に向かう血管が枝分かれしており、心臓から送り出された血液を全身に送り届ける大切な役割を果たしています。

この大動脈の一部がこぶのように膨らんだ状態を、「大動脈瘤」と言います。通常、大動脈の直径は20mm前後ですが、胸部大動脈が直径40mm以上に膨らむと「胸部大動脈瘤」、腹部大動脈が直径30mm以上に膨らむと「腹部大動脈瘤」と診断されます。胸部大動脈瘤よりも腹部大動脈瘤の方が多く見られます。

大動脈瘤(胸部動脈瘤と腹部動脈瘤)

大動脈瘤の主な原因は動脈硬化です。動脈硬化はいわば「血管の老化」であり、血管の壁が弱くなった状態です。弱くなった血管の壁に、血圧などの圧力がかかることで、血管が膨らんで大動脈瘤が生じると考えられています。遺伝性疾患などが原因で、若いうちに大動脈瘤を発症する人もいますが、年齢が高くなるほど発生頻度が高くなり、治療を受ける人は70〜80代の高齢者が中心となっています。

大動脈瘤ができても、自覚症状はほとんどありません。人間ドックや他の病気の疑いでCTやMRIなどの画像検査を受けた時に、偶然見つかるケースがほとんどです。しかし、大動脈瘤が大きくなって破裂してしまうと、ショック状態に陥り意識を失ったり、激しい痛みを生じたりするなど、急速に命の危険にさらされる状態になり、緊急手術を受けるしかありません。また、破裂してしまった場合の死亡率はきわめて高く、突然死の原因にもなります。

命を守るためには
破裂する前に治療を

大動脈瘤が見つかった場合、大きくなって破裂する前に治療を行うことが大切です。大動脈瘤がまだ小さい場合など、破裂する危険性が低い段階であれば定期的に専門医を受診して画像検査を受け、大動脈瘤の状態を確認するようにします。一度できた大動脈瘤は、自然と小さくなることはなく、小さくするための薬もないため、命を守るためにも放置せずに経過観察を続けましょう。

大動脈瘤が一定以上の大きさになっている場合や、急速に大きくなった場合など、破裂する危険性が高いと判断された時は手術を行います。胸部大動脈瘤は60mm、腹部大動脈瘤は50~55mmが手術の目安となりますが、大動脈瘤の形状、性別や他の病気の有無なども考慮したうえで、手術を行うかどうかを判断します。

大動脈瘤の手術には2種類の方法があります。一つは、大動脈瘤ができた部分の血管を切除して人工血管に置き換える手術(人工血管置換術)です。もう一つは、足の付け根の血管からカテーテルを入れ、ステントグラフト(網状の金属を取り付けた人工血管)を血管内に挿入することで、大動脈瘤の拡大を防止する手術(ステントグラフト内挿術)です。人工血管置換術は、長年行われてきた安全性の高い方法ですが、開胸または開腹が必要となるうえ手術中は大動脈の血流を止めなければならないため、身体への負担が大きい手術です。ステントグラフト内挿術の方が負担は少なくて済みますが、大動脈瘤の場所などによっては行えない場合もあります。全身の状態をしっかりと調べたうえで、どちらの手術が適切か判断されます。

発症を防ぐためには
生活習慣の改善が大切

大動脈瘤の発症を防ぐためには、原因となる動脈硬化を防ぐことが大切です。そのためにも、動脈硬化の危険因子となるような生活習慣の改善を心がけたいものです。動脈硬化の最も大きな危険因子となるのが喫煙です。喫煙は、大動脈瘤に限らず、さまざまな病気と関連するため、禁煙が強く勧められます。また、高血圧や糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病も動脈硬化のリスクを高めます。適度な運動を取り入れる他、暴飲暴食を避ける、塩分や油分を摂りすぎないようにするなど、健康的な食生活を心がけましょう。

すでに大動脈瘤と診断されて経過観察を行っている場合も、禁煙や食生活の改善などを行い、悪化を防ぐようにします。特に、血圧が上がらないように管理することが大切です。便秘にならないようにする(いきむと血圧が上昇)、入浴時は脱衣所を温めておく(急激な温度の変化により血圧が上昇)など、血圧が急激に変動しないように注意しましょう。また、大動脈瘤の人は、動脈硬化が原因となる脳や心臓の病気も抱えていることがあります。高血圧や糖尿病など他の病気の治療を受けている場合は、こうした治療もきちんと継続することが大切です。

松田 均 国立循環器病研究センター副院長

1986年神戸大学医学部卒業。医学博士。Harvard大学New England Deaconess病院心臓胸部外科、神戸大学医学部附属病院などを経て、2003年国立循環器病研究センター心臓血管外科、2007年同センター心臓血管外科医長、2014年兵庫県立姫路循環器病センター心臓血管外科部長、検査・放射線部長(兼任)、2016年国立循環器病研究センター心臓血管外科(血管外科)部長、2023年4月より現職。大動脈外科、弁膜症外科、末梢血管外科、肺動脈外科を専門とする。日本外科学会外科専門医・外科専門医指導医、心臓血管外科専門医・心臓血管外科修練指導者。

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