咳が1週間以上続いて、なかなか治らない…。風邪だと思っていたら、実は深刻な感染症や他の病気が隠れていることもあります。どんなサインに注意したらよいのか、和光駅前クリニック内科医師、元筑波大学呼吸器内科教授の寺本信嗣さんにお聞きしました。
風邪をこじらせると
肺炎などの病気につながることも
風邪は冬の風物詩…というイメージがありますが、暑い季節にも風邪をひくことはありますよね。
夏風邪の症状には咳、くしゃみ、鼻水、発熱、痰などさまざまなものがありますが、これらの症状は体がウイルスの攻撃に対抗している防御反応です。ウイルスで鼻や喉の粘膜の細胞が一度壊されても自らの力で修復し、自然に治ることがほとんどです。
はじめは風邪だったのに、こじらせて別の病気にかかるケースも多くあります。それは何故なのでしょうか。
ウイルスの大きさは目に見えないナノメートル(百万分の1ミリ)単位で、ほとんどは「上気道」といわれる鼻や喉などに感染します。感染すると上気道の細胞が壊れて粘膜が荒れ、表面がボロボロの窪地状態になります。その窪地にマイクロメートル(1000分の1ミリ)単位の細菌がくっつきます。肺炎や結核などを引き起こす細菌やその他の微生物はウイルスより大きいため、通常は直接細胞に付着することは不可能なのですが、粘膜に窪地ができることで付着しやすくなり、感染症にかかりやすくなるのです。そうして、時には肺炎などの重大な病気につながることもあります。
風邪が1週間ほどで治っても、「咳がなかなかよくならない」などと言いながら、無理を続けて肺炎になるケースもあります。「動けるから大丈夫」と油断せず、しっかりと水分補給をする、こまめに休息をとるなど、自分の体をいたわれるかどうかで、その後の経過が変わってきます。
「咳が続く」症状が出る
いろいろな呼吸器系の病気
1週間以上咳が続くなど、風邪の症状が長引いたら、他の病気を疑ってみましょう。咳が続く原因としては、感染症(肺炎、結核など)とアレルギー性の病気(ぜんそく、アレルギー性鼻炎など)とに分けられます。
感染症ではマイコプラズマ肺炎や百日咳、アレルギー性の病気ではぜんそくなどが外来でよく見られます。その他、COPD(慢性閉塞性肺疾患)などにかかっていても意外に気づいていないこともあります。
主な病気の特徴は以下の表の通りです。
同じような症状であっても、その原因や治療はそれぞれ違います。
肺炎にもさまざまな種類があります。近年若い世代に増えているのがマイコプラズマ肺炎です。一方、高齢者では肺炎球菌による肺炎が多く、重症化して死亡の原因となることも少なくないため、肺炎球菌ワクチン接種の予防が勧められています。また、特殊な肺炎として、温泉施設や循環式浴槽などでうつる可能性を持つ「レジオネラ肺炎」があります。肺炎と診断されたら、最近、該当する場所に行ったかどうか伝えるようにしましょう。動物からうつる肺炎もあるので、ペットを飼っている人もその旨を伝えたほうがよいでしょう。
結核は日本では撲滅されたと思われていましたが、現在も少なくない感染症です。結核菌に感染しても、初期は寝汗や微熱程度と症状も軽く、結核とは気づきにくいようですが、我慢しているうちに時間がたち、結核菌が気道に出てきてついには肺結核になってしまいます。咳が本格的に続くようになった時点で、既に肺が広い範囲でダメージを受けていることが多いのです。結核の進行はゆっくりで、月単位で徐々に悪化します。寝汗が多い、体重が減っているときは要注意です。
結核菌とよく似た構造の非結核性抗酸菌(MAC菌)という細菌に感染する「肺MAC症」という病気も、近年注目されています。この菌は水や土の中にいて、水回りなどから感染することが多いといわれています。水仕事の多い人や土いじりをする人は注意しましょう。
40代以上の喫煙者で長く咳が続く場合は、COPD(慢性閉塞性肺疾患)という慢性の肺の病気が一時的に悪くなっている可能性も疑ってみる必要があります。治療可能なのにもかかわらずCOPDに気づかず放置しているケースもあり、肺へのダメージも大きくなります。タバコの害が体に影響を与えていることを理解し、すぐに禁煙する必要があります。
このように、風邪に似た症状でもさまざまな病気が考えられます。心配な症状があるときは速やかに医療機関を受診しましょう。
感染症か
アレルギーかの見極め方
咳や痰など同じような症状が見られても、感染症かアレルギー性の病気かによって、かかる診療科が違ってきます。見分けるポイントを以下にまとめました。
- □ポイント1 くしゃみ
咳、鼻水は感染症でもアレルギー性でも共通して見られる症状ですが、感染症でくしゃみが出ることは少ないそうです。くしゃみが主な症状の場合はアレルギー科を、くしゃみも鼻水もないが咳だけが続くというような場合は呼吸器科を受診すると解決が早そうです。 - □ポイント2 症状が起こる時間帯・状況・姿勢
咳の症状が夜間にひどくなる場合は、アレルギーの可能性が高くなります。アレルギーは自律神経のバランスの崩れが原因のひとつです。通常、活動状態となる日中は交感神経優位のため気道が拡張し、休息状態となる夜間は副交感神経優位となり気道が収縮します。アレルギーで副交感神経が優位になりすぎると気道が過剰にせまくなり、呼吸が苦しく咳も激しくなります。また、カビが原因で起こる夏型過敏性肺炎のように、特定の環境下で起こる病気もあります。いつから、どんなときに症状が出ているのか、状況をよく把握しておくことも大切です。
また、心臓病で起こる咳もあります。この場合、仰向けに寝ると悪化して、座っていると改善するという特徴があります。
まずは乾燥に注意!
ウイルス・細菌感染を防ぎましょう
ウイルスや細菌は、粘膜が乾燥していると付着しやすくなります。風邪や感染症を防ぐには、まずは乾燥に注意しましょう。エアコンの除湿や扇風機などは長時間の利用を避けるなど上手な使い方を。また、咽喉を潤すには、夏でもマスクが効果的です。
毎年、夏風邪をくり返す人は、何かしらの感染しやすい要因を持っています。体質だけでなく、生活パターンや環境に要因が潜んでいることもあるため、栄養バランスは取れているか、睡眠は十分かなど、生活習慣を見直してみましょう。特に、タバコを吸うと
夏は日中の活動時間が長く生活リズムが乱れがちなうえ、気温が高く、微熱があっても気づきにくくなります。単なる風邪と侮らず、咳や鼻水などの症状が1週間以上続くようなら、早めに医療機関を受診することをお勧めします。
1961年生まれ。1986年山形大学医学部卒業。専門は呼吸器病、老年病。東京大学講師として、東京大学医学部附属病院(老年病科)にて数多くのCOPD患者の診療にあたる。2008年から2010年まで独立行政法人国立病院機構東京病院・呼吸器科医長。2011年から2016年まで筑波大学附属病院ひたちなか社会連携教育研究センター教授。『肺と呼吸に不安があるときに読む本 早わかり健康ガイド』(小学館)の監修を務める。