健康マメ知識
2019.06.28

血管をしなやかに保つには⁉

~今からできる運動と食生活で血管力を高めよう~
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血液を体のすみずみまで送る血管が衰えると、血管が詰まったり切れたりする危険があります。血管を拡張させてしなやかにしてくれる物質として注目されているのが「一酸化窒素(NO)」です。血管の内皮細胞から分泌される一酸化窒素の働きなどについて、東京医科大学病院健診予防医学センターセンター長の山科章さんに伺いました。

血管を拡張させる
一酸化窒素「NO」とは?

一酸化窒素(NO)とは、窒素(N)と酸素(O)が結合した物質です。体内で発生するNOには血管を拡張させる作用があるということが分かりました(※)。

血管は、内側から内膜、中膜、外膜の三層構造をしており、内膜には血管内皮細胞が敷き詰められるように並んでいます。NOは、特に運動などで血流が加速したときに、この血管の内側にある血管内皮細胞から分泌されます。NOが分泌されることで、血管が拡張されてしなやかになり、血流が良くなります。また、NOには血液が固まるのを予防する作用もあることが分かってきました。血管を若くしなやかに保つために欠かせない物質がNOなのです。

※カリフォルニア大学ロサンゼルス校ルイス・イグナロ教授の発見。1998年ノーベル賞を受賞。

■血管(動脈)の構造
NOは、血管内皮細胞から分泌される

不健康な生活習慣を続けると
30代でも血管はボロボロに…

多くの病気には血管や血流が関係していますが、血管内皮細胞がダメージを受けると、NOが分泌されなくなります。高血圧、高血糖、喫煙、不健康な生活習慣などのリスク因子によって引き起こされる内皮のダメージ「血管内皮機能障害」により、血管が正常に働かない「血管不全」が起きます。知らない間に、動脈硬化が進行し、血管がボロボロに傷んでしまい、心臓病や脳卒中などの大きな病気を発症してしまいます。

女性ホルモン「エストロゲン」には血管をしなやかに保つ働きなどがあり、女性は男性よりも血管力の衰えが抑えられていますが、男性は若い年代から血管の力が衰える傾向があります。例えば、甘い飲み物を飲みながら、1日中座りっぱなしでパソコンに向かい、食事はファストフードで済ませる。30代でもこのような生活を続けていれば、血管がボロボロになります。さらに、メタボリックシンドロームでお腹が出てきた自覚があれば要注意です。

血管のダメージから病気になり、最終的に死に至るような大きな病気になるのをできるだけ早い段階で食い止めるためには、NOを十分に分泌できるよう血管内皮を良い状態に保つことが大切です。

血管を守るために
生活習慣の見直しを

血管を傷める主な要因は、「高血圧」「高血糖」「肥満」「喫煙」「運動不足」です。

さまざまな要因と関わりがあるため、どれか一つを治せば血管が守られるということではありません。「症状がなくても血管は傷んでいる可能性がある」ことを自覚し、自分のライフスタイルの中でリスクになっていることを、できるだけ少なくしていく意識を持つことが大切です。

■血管のダメージ チェックリスト

下記の項目をチェックしてみましょう。
あてはまる数が多いほど、血管を傷めるリスクが高くなるため、要注意です。

  • タバコを吸う
  • 甘い飲み物をよく飲む
  • コーヒー、紅茶には砂糖を入れる
  • ファストフードを週に3回以上利用する
  • 魚をあまり食べない
  • 野菜をあまり食べない
  • 塩辛いものが好き
  • 普段からあまり歩かない
  • 自分の血圧値を知らない
  • 普段、血糖値を意識して食事をしない
  • アルコールを1日あたり25g(日本酒で1合)以上摂取する
  • 腹囲が男性85cm、女性90cm以上である

血管をしなやかに保とう
〜運動編

NOを増やして血管を守る方法として、まずは運動が挙げられます。運動は1日30分が目安ですが、短時間に分けて合計で30分行っても同じ効果が得られます。

血流が加速したときにNOが分泌されますので、大きな筋肉を収縮させることがポイントです。いちばん簡単な運動は歩くことです。歩くことが難しい場合は、次のような体操でNOの分泌を促すことができます。NOはすぐ代謝されてしまい、長く保つのは難しいため、運動は繰り返し行うことが大切です。

■グー・パー運動

両手をグーの形に、ぎゅーっと血管を圧迫するように握り、1〜2秒キープした後、パーの形に開く。これを10回繰り返す。

※足でも行うと効果的です。

■つま先上げ

① 椅子に姿勢よく座り、両足の裏全体を床につける。

② かかとを床につけたまま、つま先を上げ、ふくらはぎに力を入れて1〜2秒キープする。

③ 力を抜いてつま先を床につける。
これを10回繰り返す。

血管をしなやかに保とう
〜食生活編

NOは、L-アルギニンというアミノ酸から作られます。アミノ酸はたんぱく質の構成成分ですので、食事で十分なたんぱく質を摂ることが大切です。L-アルギニンは、赤身肉、魚、鶏肉、豆、ナッツなどに含まれています。

また、カカオ含有量70%以上の高カカオチョコレートに含まれるカカオポリフェノールは、動脈硬化を防ぐ効果が高いことが分かっているため、注目が集まっています。

塩分の摂りすぎは、血圧を上げるだけでなく、血管にダメージを与え、動脈硬化を進行させる原因となります。日本動脈硬化学会(※)では、動脈硬化の予防に減塩を心掛けた日本食パターンの食事を推奨しています。サンマやイワシ、サバなどの青魚で不飽和脂肪酸を多く摂り、野菜から食物繊維やビタミン、ミネラル、抗酸化物質を摂るように心掛けましょう。

食生活においては、大豆、魚、野菜、海藻、きのこ、果物、玄米などの未精製穀類をバランスよく食べるのが鉄則です。ライフスタイルを振り返り、血管を守る食生活に切り替えましょう。

※日本動脈硬化学会 医学の分野からだけでなく、栄養、統計、農学などあらゆる分野の人々が集まり、動脈硬化の原因を探るとともに、その予防、治療について研究している。

山科 章 東京医科大学名誉教授
東京医科大学病院健診予防医学センター センター長
東京医科大学病院トータルヘルスケアセンター センター長

1952年、広島県生まれ。1976年広島大学医学部卒業後、聖路加国際病院内科勤務。1980年ニューヨーク市St.Luke-Roosevelt Hospital Center心臓核医学部門フェローを経て、1982年聖路加国際病院内科に復職。聖路加国際病院内科医長を経て、1999年東京医科大学第2内科教授。医学博士。日本内科学会認定総合内科専門医、日本循環器学会認定専門医、日本脈管学会認定専門医、日本集中医療学会認定専門医。

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