春は寒暖差が大きく、また、生活パターンや住環境の変化などで、心や体の調子を崩しやすい季節です。メンタルの不調が悪化すると、うつなどになる可能性もあり、不調のサインを見極めて早めに対処することが大切です。うつ病の特徴や気付きのポイント、対処法を北青山診療所院長の鷲見恵美子先生に伺いました。
春に心身の調子を
崩しやすいのはなぜ?
季節の変わり目である春は、「
同時に、春は進学・就職・異動・転職などで生活環境が変化する時期でもあり、ストレスの内容や度合いが変化して、精神的にも不安や緊張を強いられることが多くなります。新しい環境に慣れるまでには一定の期間を要するため、生活が大きく変化した人は、「しばらくの間は身体的にも精神的にもストレスを感じやすい時期」と自覚しておく方が良いでしょう。初めは変化に適応しようと頑張ることができても、しばらく経ってから調子を崩すこともあります。「無理をせず、徐々に慣れていく」という心構えを持つことも大切です。
無理をすると
うつや適応障害を発症することも
メンタルの調子を崩すと、うつや適応障害などにつながる可能性があります。
うつとは、一時的な気分の落ち込みのことです。さまざまな要因が複雑に絡み合い、脳のエネルギーが低下することによって、憂うつになったり、意欲が低下したりするといった精神症状のほか、眠れない、だるいなどの症状が続くこともあります。軽い抑うつ状態から重度のうつ病まで症状は幅広いですが、典型的なうつ病は次のような特徴があります。
- □楽しみや喜びを感じない
- □何か良いことが起きても気分が晴れない
- □趣味や好きなことが楽しめない
- □明らかな食欲不振や体重減少
- □朝、最も気分が落ち込む
- □早朝に目がさめる
- □過度の罪悪感
最近は、こうした典型的な症状に当てはまらない非定型うつ病※も多く見られ、症状の現れ方や程度も人によってさまざまです。
※非定型うつ病:出来事に反応して気分が明るくなるなど、気分の浮き沈みが激しく、過食・過眠・体が重い感覚などの症状が特徴。薬物療法だけでは良くならないケースも多い。
一方、適応障害とは「自身の置かれた特定の状況に適応できず、精神および行動の異常が発生している状況」です。基本的には、ストレス要因がはっきりしていて、解決のためには外的環境の調整が必要だと考えられますが、適応障害が発端でうつ病が生じる場合もあります。適応障害と軽い抑うつ状態を明確に区別することは難しいです。いずれにしても、外的・内的な環境がどのように影響を与えているかを把握することが必要ですので、重症のうつ病に至る前に、早めに医療機関を受診することが大切です。
メンタルの不調に
気付くためのサイン
まずは、自分の変化に気付くことが大切です。日常生活において、次のような変化があった場合は注意が必要です。
- □いつもできていることが億劫になる
- □些細なミスが増える
- □注意が散漫になる
- □集中力が落ちる
- □身近な人に対して、いつも以上にイライラしてあたってしまう
- □些細なことで泣く
- □眠れない
- □食欲不振または食欲過多
- □体調不良(頭痛、だるさ、胃腸の調子が悪い、めまいなど)
仕事においては、知らず知らずのうちに、周りの人とのコミュニケーションがうまくとれなくなる、些細なミスが増えるなど、パフォーマンスが低下します。
家庭では、家事が以前のようにできなくなる、ちょっとしたことでイライラするなど、小さな変化が最初のサインです。自律神経の乱れから、不眠や原因不明の体調不良など体の症状として現れることもあります。
「いつもと違う。何かおかしい」と感じたら、ストレスを受けている可能性を考えてみましょう。
早めに
心療内科・精神科に相談を
悩みを一人で抱え込むと長引いたり、状態が悪くなってしまったりする場合があります。そんな時は、早めに心療内科や精神科に相談することをお勧めします。誰かに話すだけでも気持ちが軽くなることもあり、また、いつも話している身近な人ではなく、第三者に話すことで新しい視点を得られることもあります。
心療内科や精神科では、その人の置かれている外的環境から気持ちの内面までの話を聞き、悩みの解決に向けての対処法を一緒に考えていきます。医療機関を選ぶ際は、予約制で初回はじっくりと話を聞く時間をとっている、医師以外に臨床心理士にも話を聞いてもらえる、などをポイントにすると良いでしょう。
時間をかけて相談することで、薬を服用せずに解決につながることもあります。薬を服用する場合は、信頼できる医師に相談しながら、自分に合った薬を探していくことが大切です。
健康的な生活リズムが
変化に対応する力に
日頃から「あまり人を頼らない」「何でも一人で解決しようとする」などの傾向がある人は、メンタル不調を招きやすいようです。また、「『〜〜でなければならない』と考えがち」「他人にも自分にも厳しい」といった考え方にも注意が必要です。思い当たる節があると感じたら、メンタルヘルスを保つために、ストレスに対して柔軟に対応し、時には自分を許す寛容さを持つことも大切です。
栄養バランスを心掛けた食事を1日3食しっかり摂る、適度に運動する、睡眠を十分にとる、など規則正しく健康的な生活を送ることがメンタルヘルスを維持するための基本となります。特に女性の場合は、月経の前後にホルモンが大きく変動することで、メンタルも影響されやすいので、生活のリズムを整え、体を労るよう心掛けましょう。
ストレス社会と言われる現代では、環境の変化があると、些細なことが予想以上にメンタルに響いてくることがあります。ストレス解消法は人それぞれです。日頃から自分なりのストレス解消法をできるだけ多く持っておくと、柔軟に変化を乗り切ることができるでしょう。
1959年横浜市生まれ。国際基督教大学教養学部・心理学専攻修士。病院、こども相談センター等勤務。臨床心理士資格取得後、東海大学医学部入学、在学中NYメディカルカレッジ短期留学。卒業後、東海大学付属病院で外来・入院治療、精神分析的精神療法を担当。横浜丘の上病院で躁うつ病・統合失調症の入院治療、神奈川県精神保健福祉センターで精神科救急・鑑定を経験。2004年から東京・表参道の北青山診療所に院長として勤務。他に、二松学舎大学学生相談室校医、日本医師会認定産業医。