知っておきたい病気・医療
2018.06.08

お酒好きはリスク大!
猛烈な腹痛を招く急性膵炎すいえんとは

~大量の飲酒や欧米型の食生活に要注意~
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患者数が年々増え、2011年には年間約6万3,000人※が発症していると言われる急性膵炎。膵臓の内部やその周囲に急激に炎症が起こることで、猛烈な痛みに襲われます。軽症のうちに適切な治療を受ければ治る病気ですが、重症化すると死に至ることもあると言います。急性膵炎を防ぐためにはどうしたらよいのか、どのような治療があるのか、膵臓の病気に詳しい、がん・感染症センター 都立駒込病院消化器内科の神澤輝実副院長に伺いました。

※出典:「厚生労働省難治性膵疾患に関する調査研究班 平成25年度報告書」

急性膵炎は上腹部に
激しい痛みを引き起こす

膵臓は、胃の裏側あたりに位置する臓器です。重さは100g強程度、長さは15cm程度と、決して大きな臓器ではありませんが、人が生きていくために不可欠な役割を果たしています。その役割とは、次の2つです。

  • 内分泌機能
    インスリンなどのホルモンを血中に分泌して血糖をコントロールする。
    インスリンは血糖を下げるホルモンです。膵臓から分泌されるインスリンの量が少なかったり、分泌されてもその働きが悪いと高血糖の状態が続き、糖尿病の要因になります。
  • 外分泌機能
    膵液を十二指腸に分泌して、食べたものを消化する。
    膵臓で作られる膵液には糖質を分解するアミラーゼ、脂肪を分解するリパーゼ、たんぱく質を分解するトリプシンなどの消化酵素が含まれています。

膵液は膵臓で大量に作られますが、膵液に含まれる消化酵素が活性化するのは膵臓から膵管を通り、十二指腸に分泌された後です。これは膵臓そのものを消化しないようにするためです。

ところが、何らかの要因によって膵液の分泌が過剰になったり、膵液の流れが悪くなったりすると膵臓に膵液がたまり過ぎてしまい、急激に活性化した消化酵素が膵臓やその周りの組織を溶かし始めます。つまり膵臓そのものを消化してしまうのです。このように膵臓が「自己消化」を起こすことにより、急性膵炎を発症します。

■膵臓の位置

急性膵炎になると、主に次のような症状が見られます。

  • みぞおちから左上腹部にかけて猛烈に痛む。
  • 背部にも痛みが走る。
  • 左上腹部を押すとさらに痛みが増す。
  • 吐き気や嘔吐を伴う。
  • 発熱する。

エビのようにおなかと膝をくっつけて背中を丸めた体勢をとると痛みが多少緩和されますが、基本的には我慢できないほどの激しく強い痛みが起こるのが急性膵炎の特徴です。
重症化すると意識障害や呼吸困難などを引き起こすこともあります。

男性はアルコール、
女性は胆石が主な原因

急性膵炎の患者数は1.9:1の比率で男性に多い病気です。患者数は男性では60代、女性では70代に最も多く見られます。

■急性膵炎の男女別年齢分布グラフ

出典:「厚生労働省難治性膵疾患に関する調査研究班 平成25年度報告書」

また、急性膵炎の原因には、次のような性差があります。

【男性】
  • 1位 アルコール性(46.2%)
  • 2位 胆石性(19.7%)
  • 3位 特発性※(13.4%)
【女性】
  • 1位 胆石性(40.3%)
  • 2位 特発性※(22.8%)
  • 3位 アルコール性(9.9%)

※原因が良く分からないもの。臨床的には見つけることのできなかった胆石の症例を含む。

出典:「厚生労働省難治性膵疾患に関する調査研究班 平成25年度報告書」

さらに年代によっても特徴があり、アルコール性の急性膵炎の割合が高くなるのは20~50代で、胆石性は高齢になるに従って増える傾向にあります。

急性膵炎の患者数は1998年から2011年までの13年間で3倍以上増加※しています。その背景にあるのが高脂肪・高カロリーの欧米型の食生活です。肉の脂身やラード、バターなど動物性の脂肪を多く含む食品は、コレステロールが固まった「コレステロール胆石」を生み、急性膵炎を発症する要因になっています。

さらに、アルコールの摂取量が増えていることも一因と言えるでしょう。

アルコール性の急性膵炎は大量の飲酒によって生じることがほとんどで、飲んでから数時間~半日後に症状が表れます。

普段からお酒をたくさん飲む習慣がある人はもちろん、あまり飲み慣れていない人が宴会などで急に大量に飲むこともリスクとなります。お酒の飲み方に注意することは、急性膵炎を防ぐ鉄則のひとつです。また、脂っこい食べ物はできるだけ控えめにするなど、日ごろの食事に気を付けることが大切です。

※出典:「厚生労働省難治性膵疾患に関する調査研究班 平成25年度報告書」

重症化すると
命にかかわることも

突然激しい腹痛に襲われたとしても、急性膵炎なのか、あるいは別の病気なのかを自分で判断することは極めて困難です。先に挙げたような急性膵炎の症状が表れたら、できるだけ早く病院で診断を受けることが必要です。急性膵炎は、腹痛で救急外来を受診する患者さんの約1割に見られます。

急性膵炎の臨床診断基準は、厚生労働省特定疾患対策事業「難治性膵疾患に関する調査研究班」により、以下のように定められています。

  • 1.上腹部に急性腹痛発作と圧痛※1がある
  • 2.血中または尿中に膵酵素すいこうそ※2の上昇がある。
  • 3.画像(腹部CT検査や腹部超音波検査)で膵臓に急性膵炎を示す異常所見がある。

※1 皮膚に圧を加えたときに感じる痛み。
※2 炭水化物を分解するアミラーゼ、脂肪を分解するリパーゼやホスホリパーゼA2(PLA2)、たんぱく質を分解するトリプシンやエラスターゼ1などの総称。

上記のうち2項目を満たし、他の膵臓の病気や急性腹症を除外したものを急性膵炎と診断します。

急性膵炎と診断されたら、さらに重症度と原因(アルコールによるものなのか、胆石があるのかなど)を調べます。

急性膵炎で特に注意が必要なのは、重症化すると命にかかわる場合があるという点です。
患者さんの約2割が重症化し、その場合の死亡率は約1割におよぶと言われています。

重症化すると、膵臓の外の臓器にまで炎症が広がって多臓器不全を起こしたり、膵臓が壊死えししたところに感染症を起こしたりします。

急性膵炎は発症から24~48時間後に悪化する症例が多く、最初は軽症であっても急激に重症化することもあるので、発症後48時間以内は繰り返し重症度の判定を行います。

重症度にかかわらず
入院治療が必須

重症と診断された場合には、重症急性膵炎に対応できる高次医療施設で専門的な治療を行います。

また、胆石性の急性膵炎の場合は、内視鏡を用いて胆石を取り除くことで劇的に改善する例があります。

膵臓にむくみが生じる程度の軽度の急性膵炎でも、入院治療は必須です。飲食をすると膵液が分泌されて膵臓に負担がかかるので、入院中は食事と水分を断つことが原則となります。膵臓の炎症によって水分が失われ、脱水症状を起こします。そのため数リットルにおよぶ大量の点滴が必要となる場合もあります。

このほか、膵臓で自己消化を起こしている酵素を抑えるたんぱく分解酵素阻害剤や、鎮痛薬、抗菌薬などを用いた内科的治療を行います。

軽度の急性膵炎であれば、適切な治療を行うことで膵臓を元の状態に戻すことは可能です。

ただし、一度発症すると再発する例があるので、膵炎を引き起こす原因をきちんと取り除く必要があります。

特にアルコール性の急性膵炎を発症した場合は、禁酒が推奨されます。

年齢を重ねるほど発症のリスクも高まるので、今のうちからお酒の量や食生活に気を付けましょう。

神澤 輝実 がん・感染症センター 都立駒込病院副院長(消化器内科)

1982年、弘前大学医学部卒業。同年東京都立駒込病院臨床研修医、84年同院病理科非常勤医、96年内科医長、2008年内科部長、15年副院長就任、現在に至る。東京女子医科大学、日本大学医学部、関西医科大学の非常勤講師を務める。膵臓がんと誤診されやすい自己免疫性膵炎研究の世界的なパイオニアとして知られ、13年、東京都から第17回東京スピリット賞を受賞。

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