健康マメ知識
2018.05.25

その疲れやすさ、貧血が原因かも!?

~鉄分の収支バランスを整えよう~
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貧血は女性に圧倒的に多い病気ですが、近年は筋トレブームの影響などで筋肉に負荷が掛かると慢性的に鉄分不足になるため、実は男性にも増えてきていると言います。自分ではなかなか気付きにくい病気なだけにきちんと知っておきたい症状や原因、対策について、鉄医会ナビタスクリニック新宿の濱木珠恵院長に伺いました。

貧血の症状に
気付いていますか?

最初に、下記の項目に当てはまる症状がないかチェックしてみましょう。

  • 睡眠をとっても、疲れやだるさ、頭の重さがとれない
  • 階段や坂を上るときに息切れする
  • 顔色が悪いと言われる
  • 爪が弱くなり、割れたりへこんだりしている

以上の項目に2つ以上該当する場合は、貧血の可能性が高いと言えます。

「疲れやすさやだるさも貧血の症状のひとつなの?」と意外に思う人もいるかもしれませんが、このようなちょっとした体の不調が、実は貧血によるものであることは決して少なくありません。

「いつものことだから病気ではないだろう」「仕事が忙しいせいだろう」などと放置することで、知らず知らずのうちに仕事や家事など日常生活に支障をきたしている可能性も十分あります。

鉄分が不足することで
体内が酸欠状態に

貧血とは、血液中の赤血球が減少し、赤血球に含まれる血色素けっしきそ(ヘモグロビン=Hb)の濃度が基準値(成人男性13.0g/dl、成人女性12.0g/dl)未満の状態を言います。

ヘモグロビンは肺で酸素を受け取って全身に運び、また代謝で産み出された二酸化炭素を肺まで運ぶという重要な役割を担っています。

このヘモグロビンを生成するのに不可欠な材料が鉄分です。鉄分が不足すると、ヘモグロビンの生成も減少し、体内に十分な酸素が行き渡らなくなってしまうのです。
体内が酸素不足になると、先のチェック項目で挙げたような疲れやすさやだるさ、息切れなどの症状が現れます。

貧血にはさまざまな種類がありますが、その大半を占めているのが、この鉄分不足によって起こる「鉄欠乏性貧血」です。

血液が十分に酸素を補給できないために血行不良を起こし、肌がくすみ、顔色も悪くなります。皮膚の新陳代謝も低下し、肌が乾燥したりゴワゴワしやすくなるといったトラブルも生じます。

さらに爪が薄くなって割れやすくなり、ひどい場合には爪の中央がへこんで先が反り返る「スプーンネイル」になることもあります。

抜け毛が増えたりするのも、体内の酸素不足や血行不良によって毛根に栄養が届かなくなることが一因となっている場合があります。

■貧血の種類
  • 鉄欠乏性貧血
    ヘモグロビンの構成成分である鉄不足が原因。
  • 巨赤芽球性貧血きょせきがきゅうせいひんけつ(悪性貧血)
    赤血球の合成に必要な造血ビタミン(ビタミンB12、葉酸)などの不足が原因。
  • 再生不良性貧血
    骨髄機能の低下が原因。
  • 腎性貧血
    エリスロポエチン※産生の低下が原因。
  • 溶血性貧血
    赤血球の破壊が進み、造血が追いつかないことが原因。

※エリスロポエチン:血液(赤血球)をつくるホルモンのこと。骨髄に作用して血液を造る指示をする。

なお、足元がふわふわするような浮動性のめまいも貧血の典型的な症状の一つですが、似たような症状のある「起立性低血圧」とは異なります。

起立性低血圧によるめまいや立ちくらみは、急に立ち上がったり、あるいは立ちっぱなしの状態が続いたりすることで血圧が急降下し、脳に十分な血液が送り届けられなくなるために生じるものです。

鉄分不足は
こうして起こる

鉄欠乏性貧血の大きな原因である鉄分不足は、摂取される鉄分と、消費される鉄分の“収支バランス”がきちんととれないために起こります。

体内に摂取される鉄分が不足する主な理由として、以下のようなことが挙げられます。

  • 過度なダイエットをしている。
  • インスタント食品やファストフードなどを食べることが多く、偏食になりがち。
  • 加齢によって消化器系の働きが衰え、栄養を十分に吸収できなくなっている。

一方、体内の鉄分は主に以下のような体の働きによって減少します。

  • 汗や尿、便とともに鉄分も排出される。
  • 月経のある女性は、月1回の出血によって、摂取した量を上回る鉄分が排出される。
  • 妊娠時や授乳時は胎児や乳児に優先的に鉄分が運ばれる。
  • 激しい運動などで筋肉量が増加するとき、筋肉を動かすための酸素やエネルギーが必要とされ、酸素を運ぶ赤血球の材料となる鉄分の必要量も増す。

日常的に激しい運動などをしていない成人男性であれば、1日3食、普通に食事をしていれば汗や尿、便などで排出された分も補うことができ、鉄分の収支バランスを整えることが可能です。

しかし月経のある女性や妊婦、毎日何kmも走るなど筋肉に大きな負荷をかけるような運動をしている人は、鉄分が慢性的に不足しやすい状態にあるので、意識して毎日の食事でしっかり補うことが必要です。

貧血を防ぐ
正しい食事とは

まずは、鉄分の多い食品を積極的に摂ることです。

鉄分は、レバーをはじめとして肉類や魚貝類、大豆、緑黄色野菜、海藻などさまざまな食品に含まれています。
このうち肉類や魚貝類などの動物性食品に含まれるのがヘム鉄、緑黄色野菜や大豆、海藻に含まれるのは非ヘム鉄と、鉄分には2つの種類があります。ヘム鉄の方が吸収率が高く、体内に効率よく摂り入れることができますが、非ヘム鉄にも動物性たんぱく質やビタミンCと一緒に摂ることで吸収率が上がるものがあります。

また、鉄分以外にもビタミンB12や葉酸を含む食品を摂りましょう。ビタミンB12は肉類や魚介類などの動物性食品に、葉酸は緑黄色野菜に多く含まれており、ヘモグロビンの生成を助け、造血を促す作用があります。

食事だけではどうしても十分に補うことができない場合は、鉄とビタミンB12、葉酸を組み合わせたサプリメントやドリンクなどの栄養補助食品を適宜摂り入れるとよいでしょう。

いろいろな食材をまんべんなくバランスよく摂ることを心がけましょう。

貧血に大きな病気が
隠れていることも

貧血はなかなか自覚しにくい病気ですが、健康診断の血液検査が目安のひとつになります。特に重要なヘモグロビン濃度の基準値のほか、ヘマトクリット(Ht)値、赤血球数、MCVをチェックしましょう。

  • ヘモグロビン濃度の基準値
    成人男性13.0g/dl未満、成人女性12.0g/dl未満、妊婦・6カ月~6歳の幼児11.0g/dl未満
  • ヘマトクリット(Ht)の正常値(血液全体に含まれる赤血球の割合)
    男性39.8~51.8%、女性33.4~44.9%
    これより数値が低い場合は鉄欠乏性貧血が疑われる。
  • 赤血球数の正常値(血液1マイクロリットルあたり)
    男性427万~570万個、女性376万~500万個
  • MCVの基準値(平均赤血球容積)
    男女ともに80~100fl

貧血かもしれないと感じたら、まず病院で医師の診察を受けることをおすすめします。貧血の原因には、大きな病気が隠れている場合もあるからです。

例えば、月経血の量が多すぎたり、閉経後でも不正出血などで貧血になっている女性を診察すると、子宮筋腫や子宮内膜症など婦人科系の病気が見つかる場合があります。

また、胃潰瘍や十二指腸潰瘍、胃がんや大腸がんなどで消化器系に慢性的な出血が起こり、貧血が進行している場合もあります。

こうした病気を見逃さないようにするのはもちろんのこと、適切な治療を受けることでぐんと体調が良くなり、その後の仕事のパフォーマンスなども向上するといったメリットも期待できます。

「たかが貧血くらい」と思って放置せずに、正しい知識を持って対処しましょう。

濱木 珠恵 医療法人社団鉄医会ナビタスクリニック新宿院長

北海道大学医学部卒業。国際医療センターにて研修後、虎の門病院、国立がんセンター中央病院にて造血幹細胞移植の臨床研究に従事。都立府中病院、都立墨東病院にて血液疾患の治療に従事した後、2016年4月より現職。專門は内科、血液内科。著書に『ドラキュラ女子のための貧血ケア手帖(健康美人シリーズ)』(主婦の友社)がある。

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