季節の変わり目になると、体調を崩す人が少なくありません。昼間は暑いのに、夜になると急に寒く感じ、くしゃみ、鼻水、鼻づまりで鼻がムズムズすることはありませんか。このような不調を感じたら、「寒暖差アレルギー」を疑っても良いかもしれません。寒暖差アレルギーとは何か、特徴や対処法などについて、池袋大谷クリニック院長の大谷義夫先生に伺いました。
原因不明の鼻水・鼻づまり
寒暖差アレルギーとは
くしゃみ、鼻水、鼻づまりなどアレルギーに似た症状が出るものの、特定の原因(アレルゲン)によって引き起こされるアレルギーでもなく、熱っぽいけれど風邪でもない症状を「寒暖差アレルギー」と言い、医学的には「血管運動性鼻炎」と呼ばれます。
花粉症やアレルギー性鼻炎などのアレルギー疾患は、花粉、ホコリ、ダニなどが原因となるアレルゲンによって免疫反応が起こりますが、血管運動性鼻炎は検査をしても明確なアレルゲンが見つかりません。また、風邪のようにウイルスに感染して炎症を起こすわけでもありません。このような原因の分からない鼻水、鼻づまりなどの症状が出るのが、血管運動性鼻炎です。風邪との大きな違いは、鼻水がサラサラした水っぽい状態であることと、発熱がないことです。また、アレルギー疾患によく見られる目や皮膚のかゆみなどの症状もなく、人にうつることもありません。
- □温度差によって鼻水や鼻づまりなどの症状が出る
- □サラサラした水っぽい鼻水が出る
- □鼻がムズムズする
- □目のかゆみや充血はない
- □熱はないのに、だるいなど風邪のような症状がある
寒暖差アレルギーの原因は
自律神経のアンバランス
寒暖差アレルギーの症状は、温度差が7度以上(*)になると出やすいとされています。原因はまだ解明されていませんが、温度差によって自律神経のバランスが崩れることで発症すると考えられています。自律神経には交感神経と副交感神経(※)があり、相反する作用を持つこの2つの神経がバランスをとって体内の臓器や血管などの働きをコントロールし、体内環境を調節しています。鼻の粘膜にある血管の収縮・拡張も自律神経によってコントロールされています。激しい温度差が刺激になってこの調節がうまくいかなくなり、鼻水が出やすくなってしまうのです。
※ 交感神経と副交感神経
さまざまな内臓器官を調整する役目を持つ自律神経は交感神経と副交感神経の2つの神経から成り立つ。それぞれ相反する働きをし、交感神経は昼間に優位に、副交感神経は夜間や睡眠中に優位になる。
また、寒暖差アレルギーは、温度差だけでなく、タバコ、排気ガス、香料などの化学物質、精神的ストレスなども影響すると言われています。
* 出典:長谷川真也「血管運動性鼻炎の病態に関する研究」『千葉医学雑誌』75巻 57〜67ページ 1999年出版
筋肉量が少ない
中高年の女性に多い
寒暖差アレルギーは、子どもには少なく、大人、なかでも中年以降の女性に多いことが分かっています。男性に比べて筋肉量が少ない女性は、体内で作り出す熱量が少なく体温調節がしづらいため、寒暖差に弱いのではないかと考えられます。
また、寒暖差アレルギーの名称には「アレルギー」という単語が入っていますが、実際にはアレルギーではありません。しかし、もともと喘息や花粉症などのアレルギー疾患があって粘膜が過敏になっている人などに併発する場合もあります。喘息の発作がひどくなることもあれば、鼻水や鼻づまりの症状が出ることもあるように、温度差はさまざまな症状を誘発する要因の一つです。
寒暖差アレルギーの
治療と対策
寒暖差アレルギーは温度差が刺激になるため、例えば寒い戸外に出て鼻水が出た場合、室内で体を温めれば症状は抑えられます。できるだけ温度差やタバコの煙、大きなストレスなど、刺激になるようなことを避けるのが対策になります。
症状を抑えるために薬を使うこともあります。基本的にはアレルギー性鼻炎と同様に、抗アレルギー薬の内服薬や点鼻薬、ステロイドの点鼻薬などを用います。症状が軽ければ市販の点鼻薬を使うのも良いですが、種類によって作用も異なるため、薬剤師に相談のうえ、用量・用法を守って使用しましょう。
温度差を小さくし、
血流を良くする
日常では、温度差をなるべく小さくするように心掛け、血流を良くすることが大切です。衣服などでこまめに体温調節ができるように羽織れるものを携帯しておきましょう。マスクも鼻の粘膜に触れる冷気を遮断するので効果的です。
また、血流を良くするためには、太い血管が皮膚の表面近くを通っている首・手首・足首の“3つの首”を温めると効率的です。食事ではショウガなど体を温める食材を積極的に取り入れましょう。カカオポリフェノールに血管拡張作用が期待できるという研究報告もありますので、カカオ成分が70%以上のダークチョコレートやココアなどもうまく取り入れれば血流改善に役立つでしょう。
さらに、筋肉を維持するためにも、血流を良くするためにも運動が大切です。自律神経のバランスを整えるという意味では、就寝の1時間くらい前に入浴し、軽いストレッチをして深部体温(体の内部の体温)を上げてから寝床に入ると、深部体温が下がるタイミングで眠りにつくことができ、質の良い睡眠が取れます。睡眠のリズムが整うと自律神経のバランスも整ってきます。
自律神経を整える健康的な生活を送ることは、寒暖差アレルギーの予防だけでなく、健康全般にとって有益です。寒さなどの環境刺激に負けない丈夫な体は日ごろの生活習慣の積み重ねによって作られます。できることから改善していきましょう。
1963年東京都生まれ。1989年群馬大学医学部卒。九段坂病院内科医長、東京医科歯科大学呼吸器内科医局長、同大学呼吸器内科兼任睡眠制御学講座准教授、米国ミシガン大学留学などを経て、2009年に池袋大谷クリニック開院。医学博士、日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医、日本アレルギー学会専門医・指導医、日本内科学会総合内科専門医。 著書に『逆流性食道炎を自力で防ぐ』(扶桑社) 、『長生きしたければのどを鍛えなさい』(SBクリエイティブ) など。