健康ライフ
2020.12.11

むくみは病気のサインかも?

~適切な対策でむくみにくい体に~
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お酒を飲んだ翌朝に顔がむくむ、一日のデスクワークを終えた後にふくらはぎがパンパンになっていると感じる。このように、「むくみ」は一般的によく見られる症状ですが、何らかの病気が原因となって生じる場合もあるので注意が必要です。「むくみ」にどのような病気が隠れている可能性があるのか、また、日常生活で起きるむくみの予防や対策について、横浜血管クリニックの林 忍院長に伺いました。

脚の状態でむくみを
セルフチェック!

通常、体内の水分はほぼ一定に保たれています。ところが何らかの原因によって体内の水分が多くなると「むくみ」となって体に現れます。

医学的には、細胞と細胞の間の組織に存在する間質液(血液とリンパ液を除く体液)が過剰に溜まることを「むくみ」と定義しています。

むくみは顔や腕、脚など全身に現れますが、一般的に最初に症状が出やすいのは脚(特に膝下)です。直立二足歩行の人間の体において、脚は最も低い位置にあります。水分は高いところから低いところへ流れるため、必然的に余分な水分は脚に溜まりやすくなります。

むくみをセルフチェックする時は、脚に注目してみましょう。次の3つのうち1つでも該当するなら、むくみが生じているサインです。

  • すねの中央にある一番太い骨のすぐ内側を、手の親指の腹で5~10秒強く押す。指を離 した後、すぐに元に戻らず皮膚が凹んだままの状態が続く
  • 夕方になるとふくらはぎがパンパンになったり、靴がきつくなったりする
  • 足首やふくらはぎについた靴下の跡がなかなか取れない

むくみの陰に隠れている!?
4つの内臓に潜む病気

むくみの原因はさまざまですが、まず気を付けなくてはならないのは内臓の病気が隠れていないかということです。

「心臓」「腎臓」「肝臓」「甲状腺」、これら4つの臓器の働きに障害などが起こると、症状のひとつとしてむくみが現れる場合があります。それぞれの臓器でどのような病気の可能性があるのか見てみましょう。

  • 心臓
    心臓には全身に血液を送り出すポンプ機能がありますが、心臓の筋力が低下するなど障害が起こると全身の血液の循環が停滞し、「心不全」と呼ばれる状態になります。 肺をはじめ全身に水分が溜まり、むくみが生じます。
  • 腎臓
    腎臓の機能が低下した「慢性腎不全」や、尿に大量のたんぱく質が出てしまうために血中のアルブミンというたんぱく質が減少する「ネフローゼ症候群」などを発症すると、むくみを生じやすくなります。
  • 肝臓
    肝臓の機能が低下し、「肝硬変」と呼ばれる状態になると、肝臓内でのたんぱく質の生産や分解が滞ります。たんぱく質の一種であるアルブミンも作られにくくなるため、「低アルブミン血症」になるリスクが高まります。アルブミンの量が少なくなると、血管内の水分バランスが崩れ、むくみの原因となります。
  • 甲状腺
    甲状腺ホルモンの量が不足することで起こる「甲状腺機能低下症」を発症すると、顔やまぶた、脚や手など全身がむくみやすくなります。40代以上の世代に多く、むくみ以外にも冷えや肌の乾燥、抜け毛、疲れやすさ、無気力などさまざまな症状を伴います。

いずれも、問診と血液検査によって病気の疑いがあるかを診断することが可能です。下記の項目に該当する場合や、むくみだけでなく体調にも不安を感じる場合などは、できるだけ早く医療機関を受診しましょう。

  • 急激にむくみが現れてきた
  • 急に体重が増えた
  • 夕方や夜だけでなく、一日中むくみが続く
  • ひどいむくみが何日も続いている
  • 尿が出にくい

血液やリンパの流れが滞ることで
生じる病気にも気を付けて

むくみの原因として、他にも気を付けなくてはならないのが血管の病気です。
むくみを主な症状とする代表的な血管の病気として、次の3つが挙げられます。

  • 深部静脈血栓症しんぶじょうみゃくけっせんしょう
    「エコノミークラス症候群」の別名でも知られる病気で、車の中や飛行機など脚を動かしにくいような狭い環境で長時間座りっぱなしの姿勢を続けたときなどに生じます。 心臓へと血液を戻す静脈の働きが低下することで主にふくらはぎなどの静脈内に血栓(血の塊)ができ、むくみや腫れ、痛みなどが起こります。脚の太さに左右差が現れるのが特徴のひとつです。
  • 下肢静脈瘤かしじょうみゃくりゅう
    下肢の静脈には血液が逆流しないよう「弁(バルブ)」がついています。しかし長時間の立ち仕事や肥満、生活習慣病、遺伝などの要因によって弁が壊れると血液が逆流してうっ血が生じ、血管にボコボコしたこぶができます。血液の循環が悪くなるため、むくみやすくなります。 むくみ以外にもだるさや痛み、疲れやすさ、足がつる、足が冷えやすいなど、人によってさまざまな症状が現れます。
  • リンパ浮腫
    リンパ管を流れるリンパ液には、血液中の余分な水分やたんぱく質などを吸収する働きがあります。何らかの要因でリンパ液の流れが滞ると水分が溜まりやすくなり、腕や脚などのむくみとなって現れます。

いずれも初期段階では自覚しにくい傾向がありますが、気になる症状がある場合には速やかに血管外科などを受診することが大切です。

簡単な体操やマッサージを
取り入れてむくみを解消!

他にも、変形性膝関節症など膝の病気や、降圧剤(高血圧の薬)、糖尿病治療薬、ステロイドなどの薬剤の内服がむくみの一因となる場合もあります。

このような場合には、膝の病気をきちんと治療する、服用する薬剤について主治医に相談する、といった対策が必要です。

病気や薬剤以外のむくみの原因は千差万別ですが、一般的な傾向として次のものが挙げられます。

  • 立ち仕事やデスクワークなどで長時間同じ姿勢のまま、脚をほとんど動かさない
  • 運動不足
  • 肥満
  • 加齢
  • 女性の場合は女性ホルモンの影響(月経前などにむくみが生じやすい)

仕事の合間にできるだけこまめに体を動かすようにする、日常的に運動する習慣をつける、肥満の場合はダイエットをするなど、対処できる原因については積極的に手を打つことが大切です。

立ったまま、あるいは座ったまま、かかとを上げ下げしたり、足首を軽く回したりする簡単な体操なら、仕事中でも比較的取り入れやすく、むくみの予防効果も高いのでおすすめです。

また、仰向けに寝た状態で両腕両脚を上げ、手足をぶらぶら揺らす体操もむくみ改善につながります。就寝前などに行うと良いでしょう。

夜はお風呂上がりのマッサージを習慣化すると、むくみを解消しやすくなります。ボディミルクなどを脚に塗り、足首から膝の方へ向かって両手のひらで引き上げるようになじませましょう。

慢性的なむくみに悩まされている場合には医療機器として販売されている弾性ストッキングも効果的です。「弾性ストッキング・圧迫療法コンダクター」(日本静脈学会)の資格を持つ医療従事者のいる医療機関などで相談してみましょう。毎日、日中に正しく着用することでむくみの予防・改善効果が期待できます。

林 忍 横浜血管クリニック院長

慶應義塾大学外科非常勤講師。1993年慶應義塾大学医学部卒業。慶應義塾大学病院外科、済生会横浜市東部病院、済生会神奈川県病院で血管外科専門医として20年間勤務。下肢静脈瘤の累計症例数は1万例以上に及ぶ。2016年、横浜血管クリニックを開設。

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