食で健康
2023.08.10

腸活のポイントは「短鎖脂肪酸」!

~腸内細菌が生み出す物質に注目~
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腸内環境を整えることは、健康状態の向上に欠かせません。最近は研究が進み、腸内細菌そのものよりも、腸内細菌が生み出す物質が重要な役割を果たすことが明らかになっています。そのような物質の一つが酢酸をはじめとする「短鎖脂肪酸」です。短鎖脂肪酸には多くの種類があり、それぞれの形で健康維持に関与していることが分かってきました。腸内環境を整えて健康に過ごすための最新情報を、京都府立医科大学大学院医学研究科生体免疫栄養学講座教授の内藤裕二先生に伺いました。

腸内細菌が生み出す
「短鎖脂肪酸」

私たちの腸には、非常に多くの腸内細菌が生息しており、その数は約1000種類、100兆個とも言われています。腸内細菌は、健康を維持するために重要な役割を果たしており、体に良い働きをする腸内細菌を「善玉菌」、悪い働きをする腸内細菌を「悪玉菌」と呼ぶことがありますが、これは医学的に正式な呼び方ではありません。同じ菌でも、菌の遺伝子の違いによって良い働きをするものとそうではないものがあり、腸内細菌は善玉/悪玉と明確に分けられるものではないことが分かっています。善玉菌だけが多ければ良いという訳ではなく、多様な菌が腸内にバランス良く存在することが大切だと考えられています。

近年、腸内細菌そのものの重要性に加えて、腸内細菌が腸内で生み出す物質にも注目が集まっています。腸内細菌はさまざまな物質を生み出しますが、特に注目されているのが「短鎖脂肪酸」です。短鎖脂肪酸は、ヒトが摂取した食物のうち、食物繊維のように消化・吸収できないものを、腸内細菌がエサとして代謝することで産生されます。

短鎖脂肪酸

腸内細菌が腸内で産生する短鎖脂肪酸には多くの種類がありますが、代表的なのが、酢酸、酪酸、プロピオン酸の3つです。短鎖脂肪酸は腸のエネルギー源として使われ腸の働きを助けますが、それ以外にも、各々の短鎖脂肪酸がそれぞれの形で健康維持に関与していることが分かってきました。例えば酪酸は、アレルギーや炎症といった過剰な免疫反応を抑える「制御性T細胞」という免疫細胞を増やすことに加え、長寿に影響することも報告されています。最近の動物実験では、妊娠中の母親の腸内で作られるプロピオン酸が、生まれてくる子どもの肥満を抑制するという結果が得られ、注目されました。

ビフィズス菌が作る
「酢酸」の働き

代表的な3つの短鎖脂肪酸のうち、日本人の腸内で最も多いのが酢酸です。酢酸には腸の粘膜にできた傷の修復を早める働きがあり、腸から体内に異物が入らないようにするバリア機能を維持するために大切な物質です。また、病原菌やウイルスの侵入を防ぐ「免疫グロブリンA(IgA)」というたんぱく質の産生を促進するという研究結果もあり、感染症予防という観点でさらに研究が進められています。

酢酸はお酢などに含まれていますが、食品で摂取しても大腸には届かず、腸内の酢酸を増やすことはできません。腸内にある酢酸は、ほとんど腸内細菌が産生したものだと考えられています。

腸内で酢酸を産生する代表的な腸内細菌が、ビフィズス菌です。また、ビフィズス菌以外にも、日本人の腸内には酢酸を産生する菌が多く生息していることが分かっています。ビフィズス菌は、酢酸だけでなく乳酸など他の物質も生み出しており、有害な腸内細菌の増殖を抑える働きもあります。

腸内細菌のエサとなる
食物繊維を摂ろう

以上のように短鎖脂肪酸は種類ごとに異なる働きをしますが、特定の短鎖脂肪酸だけを増やそうとする必要はありません。なぜなら、1種類の腸内細菌が複数の短鎖脂肪酸を産生することもあるため、特定の短鎖脂肪酸が作られるようにコントロールすることは困難だからです。大切なのは、腸内細菌のエサとなる食物繊維を摂取して、腸内細菌が短鎖脂肪酸を作れるようにすることです。

ビフィズス菌のように短鎖脂肪酸を生み出す腸内細菌を摂取すればよいのではないか、という考え方もあるかもしれませんが、食品から菌を摂取しても、その菌が腸内細菌として体内に定着することはほとんどなく、2週間ほどで便とともに排出されてしまいます。お腹の調子が悪いと感じる時などに体に良い働きをする菌を補うことは、一時的に腸内環境を改善するためには役立ちますが、それよりも既に腸内に生息している菌のエサとなる食物繊維を十分に摂取し、体に良い働きをする菌を育てる方が大切だと言えます。

日本人の食物繊維の摂取量は不足していると言われています。腸内細菌の種類によってエサとして利用しやすい食物繊維は異なるため、できるだけ多様な食品から食物繊維を摂取するように心がけましょう。

まず、食物繊維を摂取するためには、主食をきちんと食べましょう。米などの炭水化物には食物繊維が含まれますが、最近は糖質制限のために主食を控える人も増え、食物繊維が十分に摂れていないケースが見受けられます。主食には、玄米や全粒粉パンなど、精製されていない茶色い穀物を摂ると、食物繊維を多く摂取することができます。その他、根菜やいも類、海藻などにも食物繊維が含まれています。

また、砂糖、塩分、動物性の脂肪やたんぱく質の摂りすぎにも注意しましょう。例えば砂糖を過剰に摂取すると、砂糖を好む腸内細菌が増殖します。動物性脂肪や塩分についても同様で、動物性脂肪を好む菌、塩分を好む菌が増えます。こうした菌ばかりが増えてしまうと、短鎖脂肪酸を生み出すなど体に良い働きをする腸内細菌が減ってしまい、腸内環境が悪化することが分かっています。腸内環境を良くするためには、バランスの良い食事のほか、規則正しい生活を送ることや適度に運動することも心がけましょう。

内藤 裕二 京都府立医科大学大学院医学研究科 生体免疫栄養学講座教授

1983年京都府立医科大学卒業。2001年米国ルイジアナ州立大学医学部客員教授、京都府立医科大学(消化器内科学)准教授などを経て、2021年から現職。日本酸化ストレス学会理事長、日本消化器免疫学会理事、日本抗加齢医学会理事、2025大阪・関西万博大阪パビリオンアドバイザー。専門は消化器病学、消化器内視鏡学、抗加齢学、腸内細菌叢。『最先端の研究でわかった「腸」と「脳」の驚くべき働き すごい腸とざんねんな脳』(総合法令出版)など著書多数。

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