健康マメ知識
2023.04.14

人前で緊張してしまうときの対処法

~緊張を和らげ、新生活をスムーズに始めよう~
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春は、就職や進学、異動などによって環境が変わることが多い季節。新たな出会いがあり、自己紹介などの機会も増えますが、「人前ではあがってしまう」「緊張して上手く話せなかったらどうしよう」など、不安を抱えている人も多いのではないでしょうか。緊張を少しでも和らげて、スムーズに新生活を始めませんか。簡単にできる緊張のほぐし方について、医療法人社団こころみ理事長の大澤亮太先生に伺いました。

緊張するのは当たり前
慣れていくのが大切

「人前に出ると緊張する」という経験は、誰にでもあることでしょう。緊張すると、心臓の鼓動が速くなったり、汗をかいたり、顔が赤くなったり、足が震えたりすることがあります。これは、緊張によって自律神経のバランスに変化が生じるためです。通常は交感神経と副交感神経がバランスを取っていますが、緊張すると交感神経が優位になります。

そもそも緊張は、動物として生きるために必要な感情と言えます。緊張や不安といった感情を司るのは「大脳辺縁系(だいのうへんえんけい)」という部分で、いわば「原始的な脳」です。人類の進化の過程では、敵からの襲撃に備えたり逃げたりするために、緊張や不安を感じる必要がありました。現代でも、未知のものに警戒して緊張することは、社会の中で生きる上で不可欠でしょう。

また、私たちが人前で緊張するのは、「みんなから良く思われたい」「上手に話したい」といった欲望の裏返しとも言えます。こうした欲望が生まれるのは決して悪いことではなく、ごく普通のことです。緊張するのは自然なことなのです。

一方で、緊張があまりにも強くなると、人前での失敗に繋がりやすくなります。また、一度失敗してしまうと人前に出ることを避けるようになり、避けることでますます苦手意識が強まる、という悪循環を起こしてしまいます。緊張するのは自然なことですから、「緊張しないようにする」「緊張を抑えこもうとする」のではなく、「緊張に慣れていく」ことが大切です。

日常生活でできる
緊張のほぐし方

緊張に慣れて、上手に付き合うためのセルフケアを3つ紹介いたします。

(1)腹式呼吸

呼吸は、自律神経を自分でコントロールできる唯一の方法と言えます。緊張して交感神経が優位に傾いた状態のときに腹式呼吸を繰り返すと、副交感神経の働きが強まり、リラックスに繋がります。ゆっくり息を吐くことがポイントです。人前に出る直前でもできる簡単な方法ですので、緊張を感じたときに何度か繰り返してみましょう。

  • 1.鼻からゆっくり息を吸い込み、お腹を膨らませていく。
  • 2.口をすぼめながら、吸うときよりも時間をかけて息を吐き、お腹をへこませていく。
腹式呼吸
(2)漸進的筋弛緩法(ぜんしんてききんしかんほう)

体を一度緊張させてから緩める方法です。リラックスしようと意識してもなかなかリラックスできないものですが、一度筋肉に力を入れてから抜くことで、リラックスした状態を体感しやすくなります。こちらも人前に出る直前でもできる方法です。何度か繰り返して、リラックス状態を体に染み込ませましょう。

  • 1.肩を上に持ち上げ、ぐっと力を入れる。
  • 2.肩の力を抜いて、肩をすとんと下げる。
漸進的筋弛緩法

※手(ぐっと握った後に緩める)や足(足首をぐっとそらした後に緩める)など、緊張が現れやすい他の部位で行ってもOKです。

(3)自律訓練法

自己暗示でリラックス状態を作れるようになるトレーニングです。リラックスすると、力が抜けて体が重く温かく感じることがあると思います。その状態をイメージすることで、リラックス状態を体に覚えさせるものです。このトレーニング自体は自宅などで行うものですが、継続すると、人前に出る前に手足の重さや温かさをイメージすることで、リラックス状態を思い出せるようになります。以下の過程を2、3回に分けて、10分程度行います。寝る前に行って、そのまま寝てしまってもOKです。

  • 1.仰向けになって軽く目を閉じ、腹式呼吸を数回行って気持ちを落ち着ける。
  • 2.まず「右手が重たい」状態をイメージし、右手の重さに意識を向ける。
  • 3.右手の重さを感じたら、今度は「左手が重たい」状態をイメージし、左手の重さに意識を向ける。その後は右足と左足でも、同じように重たい状態をイメージする。
  • 4.次に、「右手が温かい」状態をイメージし、右手の温かさに意識を向ける。
  • 5.右手の温かさを感じたら、左手→右足→左足の順で、温かい状態をイメージする。
  • 6.身体を起こして、背伸び、屈伸、深呼吸を行う。
自律訓練法

緊張がつらいときは
成功体験を積むためにも受診を

人前に出たときの緊張が著しくつらい場合や、社会生活上の支障が生じている場合は、「社交不安障害」と診断されることがあります。緊張によって苦しいと感じる場合や、人前に出る不安や恐怖から「自分には向いていない」「やりたいと思っていない」などと理由を付けて、本来自分がやるべき仕事まで回避しているような場合は、心療内科や精神科を受診すると良いでしょう。

社交不安障害の治療は、緊張に慣れて成功体験を積めるようにすることが目標です。これをサポートするために薬を使うことがあります。人前に出る機会が多くない場合は、人前に出るときだけ、気持ちを落ち着かせる薬(抗不安薬)や、震えや発汗など体の反応を抑える薬(βブロッカー、抗コリン薬など)を使って対処し、「何とかなる」という感覚を掴めるようにします。一方、人前に出る機会が多い場合や、注目を浴びるような場面だけでなく対人関係全般に強い苦手意識がある場合は、抗うつ薬の服用を続けることで、緊張があまり気にならなくなることもあります。さらに、物事の捉え方や行動を変えることで悪循環から脱する認知行動療法など、心理療法を加えることもあります。

緊張するのは自然なことですが、過度に緊張してしまうと、本来の自分の力を発揮できなくなってしまいます。新たな環境でも普段通りの力を発揮できるように、緊張と上手く付き合っていきましょう。そして、つらいときには治療があるということをぜひ知っておいてください。

大澤 亮太 医療法人社団こころみ理事長

山梨大学医学部卒業。国際医療福祉大学附属熱海病院にて初期臨床研修修了後、神奈川県内の精神科病院やメンタルクリニックで臨床経験を積み精神保健指定医を取得。併せて、多くの企業の嘱託産業医として精神科産業医業務に当たる。2017年に元住吉こころみクリニック(内科・心療内科)を開設。2023年現在、r TMS療法専門の東京横浜TMSクリニックをはじめ、東京・神奈川で7院を運営している。

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