知っておきたい病気・医療
2017.05.12

30代、40代でもリスクが!
いざというときのための狭心症対策

~禁煙、食事と運動が鍵に~
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

突然強い胸の痛みに襲われる狭心症。病名はよく耳にするものの、実際にどのような病気かを知っている人は意外に少ないのではないでしょうか。シニア世代で多く見られる病気ですが、最近では30代、40代の働き盛りの人が発症するケースも増えているようです。

「狭心症を防ぐには、生活習慣の改善と、いざというときのための備えが大切です」とSUMA SQUARE CLINIC院長の須磨久善さんは指摘します。須磨さんに、狭心症の原因や治療、予防のための心得について伺いました。

狭心症とはどんな病気?

狭心症は、1日に約10万回も休みなく働く心臓に栄養を送る冠動脈という血管が狭くなり、心臓の隅々まで十分に血液が行き渡らなくなって起こる病気です。

よく耳にする心筋梗塞は、冠動脈がさらに狭くなった状態になります。狭心症と心筋梗塞との違いは、冠動脈の詰まりの程度です。狭心症は血管が狭くなるものの詰まってはいないので、少し休むと症状が回復します。一方、心筋梗塞では冠動脈の一部が詰まり、その血管から栄養を得ている心臓の細胞は死んでしまいます。死んだ細胞は元に戻らないため、心臓の働きが不十分になり、死に至ることもあるのです。つまり、心筋梗塞の前の段階が狭心症だと言えます。これら狭心症と心筋梗塞をまとめて虚血性心臓疾患と呼ばれています。

狭心症の最も大きな原因は動脈硬化です。最近では、食の欧米化や運動不足などで動脈硬化になる年齢が下がっています。そのため、30代、40代で狭心症になる人も少なくありません。また、 冠攣縮性 かんれんしゅくせい という、冠動脈が 痙攣 けいれん したようになり血流が滞るタイプの狭心症もあり、これは比較的若い人が起こしやすいタイプです。

痛みに注目、狭心症の症状

典型的な症状は、胸が圧迫されるような重たい痛みです。「心臓を万力で締め付けられる、グッとつかまれるような痛み」と表現されることもあります。こうした痛みが5〜10分ほど続き、スッと引くのが特徴です。

このほか、「首が締め付けられる」「奥歯が痛い」「左肩が凝って痛む」「上腹部が痛む」こともあります。

ただし、こうした症状がはっきりと出ない人もいます。その場合は冠動脈の先の毛細血管が狭くなっていると考えられています。例えば、糖尿病の人では、痛みのない狭心症が多く見られるといわれています。

大きなリスクファクターは“肥満”

では、どのような人が狭心症になりやすいのでしょうか。以下のチェックリストで1つでも該当するものがある人は注意が必要です。

あなたはどれだけ当てはまる? 狭心症チェック
  • メタボリック症候群(肥満、高血圧、脂質異常症、糖尿病)である
  • たばこを吸う
  • 尿酸値が高い
  • 濃い味付けが好き
  • 睡眠不足、睡眠時無呼吸症候群である
  • あまり運動をしていない
  • ストレスが多い

これらは、狭心症の原因となる動脈硬化の進行を促進させる原因となります。特に肥満、高血圧、脂質異常症、糖尿病の4つがある人は、全くない人に比べて心筋梗塞のリスクが4倍以上に高まるという報告もあるほどです。

狭心症を予防するには、まず禁煙することです。その上で、食事と運動で肥満を防ぐことが大切です。食事では、糖質や脂質を食べる前に野菜をたっぷりと取りましょう。たんぱく質は筋肉量を保つためにも重要なので、脂身の少ない赤身の肉や、鶏肉、マグロやイワシ、サバといった魚などで積極的に取ることをお勧めします。また、飲酒は赤ワインを1日にグラス1~2杯程度、日本酒なら1合、ビールなら大びん1本が適量です。

さらに、暑くなる夏は、汗を多くかくため脱水症状に陥りやすくなります。汗で体内の水分やミネラルが減少して血液が濃くなってしまわないように、こまめに水分補給しましょう。喉が渇いたと感じたときには既に体の中は脱水しています。日常的に水分を摂る習慣をつけるといいでしょう。

定期検査と医療機関のリサーチを

狭心症の発作は突然起こります。症状がなくても、60歳を過ぎたら冠動脈のX線CT検査を人間ドックのオプション検査に加え、冠動脈の 狭窄 きょうさく ※の有無などを検査しておくのがお勧めです。狭窄があれば、心筋梗塞を起こす前に速やかに治療を受けられます。

また、「動悸がする」「血圧が高い」といった症状があれば、可能であれば家から30分以内に受診できる、心臓のカテーテル治療などの実績がある医療機関をあらかじめ探して受診し、カルテを作っておくのも一法です。万が一、狭心症の発作や心筋梗塞が起きたときには、いち早くしかるべき医療機関を受診するためです。

かかりつけの循環器の医療機関があれば、救急車でもそれを伝えて速やかに運んでもらうことができます。いざというときには慌てて病院名などを忘れることもあるので、電話の近くにメモを置いておくのもいいでしょう。そうすれば、家族や友人が見て伝えることもできます。

治療法は薬、カテーテル治療、バイパス手術の3種類

狭心症になった場合の治療法は、血管の狭くなっている程度と、詰まっている部位によって、大きく3つに分けられます。

狭窄の程度が軽く、冠動脈の主要な部分でない場合には、内服薬だけで治療を行います。狭心症に使う主な薬は、「血管拡張薬」と「β遮断薬」です。血管拡張薬は冠動脈を広げて血流を良くするとともに、全身の血管も広げて心臓の負担を軽くします。一方、β遮断薬は興奮するときに働く交感神経の活動を抑えて、血圧や脈拍数を抑えて心臓の負担を軽くします。

また、冠動脈に血栓ができることを抑えて心筋梗塞を予防するため、少量のアスピリンを使うこともあります。

狭窄が冠動脈の根元に近い主要な部分でも、その数が2〜3カ所であれば、カテーテル治療(経皮的冠動脈形成術)が行われます。これは、手首や 鼠径部 そけいぶ などから動脈にカテーテルを挿入し、カテーテルの先に付いたバルーン(風船)を狭窄部で広げ、そこにステントといわれる金属の網を置いて広げたままにしておく治療法です。

狭窄が3つより多く、大きな血管の分岐部分にある場合や、血管が硬くなりコレステロールや脂肪からできたカルシウムが沈着している場合には、冠動脈バイパス手術を行います。血流が悪くなっている冠動脈の代わりに、胸や胃の動脈などを使ってバイパスを作る手術です。

まずは、こうした治療に至る前に予防することを心掛けましょう。動脈硬化予防の基本は食事と運動です。30代、40代のうちからメタボリック症候群にならないような生活習慣を身に付け、定期的な検査で自分の心臓の状態を知っておくことが大切です。

※狭窄:血管などの管部分の内膣が狭くなり、血液などが通りにくくなる状態。例えば冠動脈の場合は、動脈硬化によって血管の内側が狭まる。

須磨 久善 SUMA SQUARE CLINIC 院長

大阪医科大学卒業。虎の門病院で外科研修を経て、三井記念病院心臓血管外科部長、ローマカトリック大学心臓外科客員教授(ローマ在住)、葉山ハートセンター院長、心臓血管研究所スーパーバイザーを歴任し、現職。世界初の胃大網動脈を用いた冠動脈バイパス手術や日本初のバチスタ手術を成功させ、日本心臓病学会栄誉賞受賞。著書に『タッチ・ユア・ハート』(講談社)、『医者になりたい君へ』(河出書房新社)など。

プロフィール写真